徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「あの日 あの時 愛の記憶」―劇的な再会を果たした運命の二人―

2012-09-26 11:00:00 | 映画


 運命に引き離され、運命に引き寄せられた二人を描く。
 アウシュヴィッツ収容所から脱走し、生き別れた恋人たちが、何と39年後に再開した。
 この嘘のような、驚くべき奇跡の実話を、監督アンナ・ジャスティス脚本家パメラ・カッツの女性二人が、感動的な映画に作り上げた。

 映画冒頭のタイトルは、英語、ドイツ語、ポーランド語の3ヶ国語で表示される。
 ・・・二度と会えないと思っていた、かつての恋人同士が、封印した記憶の扉を開ける時・・・。
 それは過酷で、美しくも哀しい愛の記憶として甦る。
 大戦下のアウシュヴィッツの収容所で、若い二人が愛を育んだことなど、とても信じがたい話ではないか。








     
1944年・ポーランド・・・。
大戦下の強制収容所で恋に落ちた若き二人、ハンナ1944年/アリス・ドワイヤー)と トマシュ1944年時/マテウス・ダミエッキ)は、命がけの脱走に成功する。
ポーランド人のトマシュは政治犯、ハンナはユダヤ人だ。

二人は、共に生きることを誓いながら、戦禍の混乱の中で生き別れてしまう。

1976年・アメリカ・ニューヨーク・・・。
トマシュ1976年時/レヒ・マツキェヴィッチュ)は推定死亡とされ、ハンナ1976年時/ダグマー・マンツェル)は記憶を封印し、アメリカに渡り、平穏で幸せな生活を送っていた。
そんなある日、テレビ局から聞こえてきた声が、一気にハンナを30年前に引き戻した。
それは、忘れることのなかったトマシュの声であり、映っていたのはまぎれもなくトマシュ本人だったのだ。
ハンナは、甦る記憶に後押しされるように、トマシュを探し求めるのだったが・・・。

二人が別々の人生を送って30余年後、かけがえのない人が生きていたという、思いがけない事実に直面する。
ハンナは封印したはずの過去と同時に、トマシュを失った空白を埋めてきた、いまの夫との結婚生活とも向き合うことになる。
1944年のポーランドと、1976年のニューヨークを交互に映しながら、ハンナとトマシュの波乱の恋と、ハンナと夫の複雑な関係がサペンスフルに
描かれていく。
そして、過去に囚われつづけたハンナが、ようやくその呪縛から解き放され、真の精神的自由と、自分自身の人生を取り戻す奇跡の瞬間を迎える。

ドラマの中で、ハンナの感情の綾と、時間の流れにシンクロして移り変わっていく、季節の描写が俄然目を引く。
映画が扱っているのは、とても重いテーマである。
ドイツ映画「あの日 あの時 愛の記憶」は、女性ならではのアンナ・ジャスティス監督の視点で、ひとりの女性の喪失と再生を力強く描いている。
絶望するしかなかった過去を、残酷な時の流れの中で、こうした形で描いた作品はあまりない。
映画の中には、大胆な抱擁も芝居がかった大仰なシーンもない。
30余年の歳月を飛び越えて、男と女が向き合うとき、二人からは言葉も発せられない。
胸打つ、ラストシーンだ。

このドラマには、解らぬことが沢山ある。
強制収容所という極限状況の中で、どういう風にして二人が恋に落ちたのか、決死の覚悟で小部屋に隠れて性を交わし、ハンナは妊娠までしていたのだ。
その辺から、悲劇的なドラマの様相を見せてくる、ハンナの記憶・・・。
脱走時、着の身着のままであとさきも顧みず、何も持たずに、二人は一体どんな思いで、どんな風に逃げ延びたのだろうか。
どこで生き別れ、それまでの、いやそれからの二人の人生には何があったのか。
二人の台詞は極端に少ない。
再会を果たして、この先二人はどうなるのか。
ハンナの家庭は、どうなるのか。
そして、トマシュの娘は・・・?
気になることばかり、それもこれも知りたいことだらけで、解らないことがいっぱいありすぎて、不完全燃焼で困った。
確実なことは、こんなことが本当にあったということだ。
二人の過去をめぐる時間と物語の重さ・・・、ただ生きて在ることの偉大さには、心がしめつけられる小品である。
    [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点