◆谷口與鹿 宗猷寺の鐘
また、碌でもないことをしおって、この悪がきが!
真っ赤な顔をして、大声で怒鳴っているのは飛騨高山の東山にある宗猷寺(そうゆうじ)の住職である。
叱られている悪童は、まだ幼いころの六(のちの谷口與鹿)、それに高山の郡代所(代官所)のお代官さまの倅の鐡(てつ、鐡太郎、のちの山岡鐡舟である。
悪がきが叱れている話のいきさつはこうである。
ある秋の夕暮れ刻、いつものごとく住職が鐘を撞いていると、その下でふたりの悪がきがじっとそれを見上げていた。住職は思わず、二人の少年に、
「どうしたこの鐘がほしいのか?」
ときくと二人の少年はこっくりと頭を下げ、口をそろえて、
「ほしい」
といった。住職は笑いながら、それならおまえたちにこの鐘をやろうといった。
その約束を覚えていて少年らは悪がき十数人とともにやってきて、この鐘をはずそうと、鐘楼に登って梯子を掛けて鐘をはずそうとしていたのである。
住職はかんかんに怒って、
「だれが、この鐘をやるといった! やるのは音だけじゃ」
少年らは神妙に叱られ、その日はすごすごと帰っていった。
しばらくたったころのことである。外が騒がしいので住職が表に出てみると、例の悪がきどもが、鐘を柿渋を引いた茶色の油紙でそっくりつつみ、更にその上を唐草の一反大風呂敷を四枚もつないで鐘をそっくり包んでいる。
住職は青くなった。
「今日は鐘の音のほうを貰いにきました。大切なものなのでいまこうして丁寧に包んでいるところです」
なるほど撞木の当たるところには前後に大きな座布団二枚があててある。
住職は青くなった。
住職は代官所に願い出てなんとか堪忍してもらったのだった。
宗猷寺には、山岡鐡舟の父母、小野朝右衛門と磯女の墓所がある。
また、碌でもないことをしおって、この悪がきが!
真っ赤な顔をして、大声で怒鳴っているのは飛騨高山の東山にある宗猷寺(そうゆうじ)の住職である。
叱られている悪童は、まだ幼いころの六(のちの谷口與鹿)、それに高山の郡代所(代官所)のお代官さまの倅の鐡(てつ、鐡太郎、のちの山岡鐡舟である。
悪がきが叱れている話のいきさつはこうである。
ある秋の夕暮れ刻、いつものごとく住職が鐘を撞いていると、その下でふたりの悪がきがじっとそれを見上げていた。住職は思わず、二人の少年に、
「どうしたこの鐘がほしいのか?」
ときくと二人の少年はこっくりと頭を下げ、口をそろえて、
「ほしい」
といった。住職は笑いながら、それならおまえたちにこの鐘をやろうといった。
その約束を覚えていて少年らは悪がき十数人とともにやってきて、この鐘をはずそうと、鐘楼に登って梯子を掛けて鐘をはずそうとしていたのである。
住職はかんかんに怒って、
「だれが、この鐘をやるといった! やるのは音だけじゃ」
少年らは神妙に叱られ、その日はすごすごと帰っていった。
しばらくたったころのことである。外が騒がしいので住職が表に出てみると、例の悪がきどもが、鐘を柿渋を引いた茶色の油紙でそっくりつつみ、更にその上を唐草の一反大風呂敷を四枚もつないで鐘をそっくり包んでいる。
住職は青くなった。
「今日は鐘の音のほうを貰いにきました。大切なものなのでいまこうして丁寧に包んでいるところです」
なるほど撞木の当たるところには前後に大きな座布団二枚があててある。
住職は青くなった。
住職は代官所に願い出てなんとか堪忍してもらったのだった。
宗猷寺には、山岡鐡舟の父母、小野朝右衛門と磯女の墓所がある。
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