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無知の知

ほたるぶくろの日記

論文に注意!

2012-06-07 17:11:28 | 生命科学
ウコン(クルクミン)の論文に限らず、私が原著論文にこだわるのは、理由があります。一つは、原著で主張されていることと異なる文脈で論文を紹介されている場合があるからです。たいていの方はこのような論文があります、といわれてもわざわざ原著を調べたりはしません。論文がある、という事実のみで権威付けが十分だからです。しかし、論文の趣旨とは正反対の主張のために論文が引用され、それによって健康を害するようなことになっては困ります。私はなんらかの主張の根拠に文献がない場合はできる限り探索し、もし原著が見つからない場合はその主張に関しては判断を保留します。また原著が見つかった場合はその原著論文にあたり、その論文のデータを直に見た上で、意見をまとめることにしています。これは私の仕事分野に関連することですから無責任なことはできないと思っています。二つめは、恐ろしいことですが、捏造論文が横行している事実があるからです。あまり有名でない雑誌のみならず、Nature、Science、Cellといった権威ある雑誌においても捏造論文が発覚し、撤回されています。

また最近、クルクミンに関する論文を多数書いているアメリカの有名な学者が、論文を捏造していたことが発覚しました。このことも私が慎重になっている原因です。この学者は米国テキサス州のMDアンダーソンがんセンターのバラット・アガワル(Bharat Aggarwal)博士で、この方はクルクミンやレスベラトロールなど植物成分の抗がん作用の研究をしていた方です。MDアンダーソンがんセンターといいますと、世界のトップレベルの研究所です。ともかく、詳細はまだ調査中で、彼が主張するクルクミンやレスベラトロールの作用機序など、どこまで本当であるのかは今のところわからない状態です。

他にも健康食品関連では多数の捏造論文や、作り話の体験談などが明らかになっています。日本でも最近、名古屋市立大学の先生の捏造論文が発覚し、処分がおこなわれました。この方は「赤ワインを飲むと記憶力、学習能力が向上する」とか「海洋深層水を飲むと、認知症やうつ症状の改善に効果がある」などの研究がありますが、これはすべて捏造データによる主張のようです。この方はこのような活動をすることで製品を製造する業者からリベートを受け取ったりして稼いでいたようです。

このようなこともあり、クルクミンに関しての論文は玉石混淆であることがわかっていますので、いろいろ調べておりました。今のところ、大腸発がん抑制、アルツハイマー症の予防と治療に関しての研究は本当のようです。ただし、効果が確認されているのはクルクミンそのものではなく、クルクミンの側鎖を修飾した、誘導体であることに注意が必要です。したがって、ターメリックや、カレー粉を摂取することでは同様の効果を期待することはできないと思います。健康によいかもしれない、くらいの効果でしょう。

ともかく、カレーやタンドリチキンを感謝しつつおいしく頂くことこそ健康によいのではないかと思います。

クルクミンの論文と臨床研究について

2012-06-03 12:01:45 | 生命科学

先日のNature Review Cancerに次のような記事がでました。

クルクミンはカレーに使われるスパイス、ターメリックに含まれる成分ですが、これの大腸がん治療薬としてのPhase I/II 治験がおこなわれます。このクルクミンはインドの伝統医学で使われてきましたが、その幅広い疾患に対する治療効果については長い間不明のままでした。
現在イギリスレスター大学とイギリスがん研究所からなる医療チームは動物実験での良好な結果をふまえ、クルクミンが進行性大腸がんの患者さんの化学療法剤への反応性を改善するかどうかを検討すれば、有効性が証明されるかもしれないと考えています。ー 動物実験では、クルクミンが化学療法のがん細胞殺傷能力を高めることができるということが示されました ー 現状では、大腸がんでは転移が確認されますと通常FOLFOX(フォルフォックス)として知られる3種の化学療法剤のコンビネーションで治療がおこなわれています。しかし、約40-60%の患者さんはこの治療に反応しません、そしてFOLFOXは末梢神経障害などの重い副作用も引き起こし、治療の早期中止を余儀なくされることがあります。これらのことから、研究主任のWilliam Steward教授は次のように述べています。「クルクミンががん細胞の化学療法剤への感受性を上げるのであれば、それは素晴らしいことだ。なぜなら、それは患者さんに対してより低い投与量で治療することができ、そうすれば副作用は抑えられ治療を継続できることにつながるからです。」(ニューヨークデイリーニューズ、2012年5月8日)
2年間の治験では42人の肝臓転移のある大腸がん患者さんの治療が予定されています。75%の患者さんには7日間クルクミンを投薬し、その後にFOLFOXの治療をおこない、残りの患者さんにはFOLFOX治療のみをおこないます。クルクミンの臨床研究はまだ端緒についたばかりですが、Steward教授は「慎重ではあるが楽観的。改善されたという結果を得ることだろう。」(フォックスニューズ2012年5月8日)と述べています。イギリスがん研究所のJoanna Reynoldsさんは今回の治験をよいことだとしながらも、この治験は利点ばかりが明らかになるのではなく「がん患者さんへの高用量での副作用」の可能性もあり、これらに関しても明らかになるだろう、と述べています。(BBCニューズ、2012年5月7日)
(Nature Reviews Cancer 12, 376 (June 2012) )(訳:ほたるぶくろ)



秋ウコン(ターメリックの原料)に大量に含まれるクルクミンのがんに対する効果については他にもいくつかの論文がありました。ちなみに先日の国立がんセンターの先生によるクルクミンの論文は
『Chemopreventive effects of carotenoids and curcumins on mouse colon carcinogenesis after 1,2-dimethylhydrazine initiation』(1,2-メチルヒドラジンによるマウス大腸がん発症に対する、カロチノイドとクルクミンのの化学発がん予防効果)
Kim JM, Araki S et al, Carcinogenesis 19(1), 81-85, 1998
だと思います。がんセンターの先生だけでなく京都府立医大や名古屋大学の先生などとの共著で、かなりひろくさまざま物質の発がん予防効果を研究された成果のひとつであるようです。この論文の結果では、クルクミンそのものではなくクルクミンの一部を変えた誘導体で明白な発がん抑制がみられています。そのほかには ルテインも明らかな抑制効果を表しています。カロテノイドの一つで緑黄色野菜、卵、脂肪組織などに含まれるものです。この成分は油性ですから脂質と一緒に摂ることで吸収されます。

ほうれん草のカレーなんていうのは最強かもしれませんね。その他の論文に付いてはまた次の機会に紹介させて頂きます。ところで、最初にあげたNature Review Cancerの記事ですが、この臨床研究は『クルクミンの化学療法剤効果の増強』というもので、がん抑制効果とはことなるものです。効果の機序が一見逆のようで、今ひとつ腑に落ちない点があるのですが、まずはこの研究の結果を待つことにしたいと思います。