先日のNature Review Cancerに次のような記事がでました。
現在イギリスレスター大学とイギリスがん研究所からなる医療チームは動物実験での良好な結果をふまえ、クルクミンが進行性大腸がんの患者さんの化学療法剤への反応性を改善するかどうかを検討すれば、有効性が証明されるかもしれないと考えています。ー 動物実験では、クルクミンが化学療法のがん細胞殺傷能力を高めることができるということが示されました ー 現状では、大腸がんでは転移が確認されますと通常FOLFOX(フォルフォックス)として知られる3種の化学療法剤のコンビネーションで治療がおこなわれています。しかし、約40-60%の患者さんはこの治療に反応しません、そしてFOLFOXは末梢神経障害などの重い副作用も引き起こし、治療の早期中止を余儀なくされることがあります。これらのことから、研究主任のWilliam Steward教授は次のように述べています。「クルクミンががん細胞の化学療法剤への感受性を上げるのであれば、それは素晴らしいことだ。なぜなら、それは患者さんに対してより低い投与量で治療することができ、そうすれば副作用は抑えられ治療を継続できることにつながるからです。」(ニューヨークデイリーニューズ、2012年5月8日)
2年間の治験では42人の肝臓転移のある大腸がん患者さんの治療が予定されています。75%の患者さんには7日間クルクミンを投薬し、その後にFOLFOXの治療をおこない、残りの患者さんにはFOLFOX治療のみをおこないます。クルクミンの臨床研究はまだ端緒についたばかりですが、Steward教授は「慎重ではあるが楽観的。改善されたという結果を得ることだろう。」(フォックスニューズ2012年5月8日)と述べています。イギリスがん研究所のJoanna Reynoldsさんは今回の治験をよいことだとしながらも、この治験は利点ばかりが明らかになるのではなく「がん患者さんへの高用量での副作用」の可能性もあり、これらに関しても明らかになるだろう、と述べています。(BBCニューズ、2012年5月7日)
(Nature Reviews Cancer 12, 376 (June 2012) )(訳:ほたるぶくろ)
秋ウコン(ターメリックの原料)に大量に含まれるクルクミンのがんに対する効果については他にもいくつかの論文がありました。ちなみに先日の国立がんセンターの先生によるクルクミンの論文は
『Chemopreventive effects of carotenoids and curcumins on mouse colon carcinogenesis after 1,2-dimethylhydrazine initiation』(1,2-メチルヒドラジンによるマウス大腸がん発症に対する、カロチノイドとクルクミンのの化学発がん予防効果)
Kim JM, Araki S et al, Carcinogenesis 19(1), 81-85, 1998
だと思います。がんセンターの先生だけでなく京都府立医大や名古屋大学の先生などとの共著で、かなりひろくさまざま物質の発がん予防効果を研究された成果のひとつであるようです。この論文の結果では、クルクミンそのものではなくクルクミンの一部を変えた誘導体で明白な発がん抑制がみられています。そのほかには ルテインも明らかな抑制効果を表しています。カロテノイドの一つで緑黄色野菜、卵、脂肪組織などに含まれるものです。この成分は油性ですから脂質と一緒に摂ることで吸収されます。
ほうれん草のカレーなんていうのは最強かもしれませんね。その他の論文に付いてはまた次の機会に紹介させて頂きます。ところで、最初にあげたNature Review Cancerの記事ですが、この臨床研究は『クルクミンの化学療法剤効果の増強』というもので、がん抑制効果とはことなるものです。効果の機序が一見逆のようで、今ひとつ腑に落ちない点があるのですが、まずはこの研究の結果を待つことにしたいと思います。