さぶりんブログ

音楽が大好きなさぶりんが、自作イラストや怪しい楽器、本や映画の感想、花と電車の追っかけ記録などをランダムに載せています。

【読書録】歴史(ヘロドトス)/上

2010-04-27 00:21:19 | 読書録
歴史 (上)
  ヘロドトス 著/松山千秋 訳  岩波文庫

ヘロドトスといえば、中学で初めて世界史を習った時に、最初の授業で登場した記憶がある。トゥキュディデスが実証的な歴史書を書いたのに比して、ヘロドトスのそれは物語的であるというのが最初の授業の出だしだった。これに加え「何のために歴史を学ぶか」みたいな講義が続いたような気がするが、私はもともと歴史が大好きなので、何のためにとか理屈をこねている時間があったら、少しでも多くのことを学びたいなどと、思ったものである。

図書館にはヘロドトスの「歴史」を中学生にも分かりやすく、ダイジェストにまとめた本があったので、早速それを借りた。初めにリュディア(リディア)のギュゲスの話が出てきた。ギュゲスは前王のカンダウレスを殺してリディア王になった人物。カンダウレスは王妃の美しさを自慢し、近習であったギュゲスを自分達の寝所に隠れさせ、服を脱ぐ王妃の姿を眺めさせるという愚行を演じる。私の読んだダイジェスト本には、ギュゲスが王妃の素肌の美しさを見て、「ため息」をついてしまい、隠れていることがバレた・・と書いてあり、幼い私はその文章だけで色めき立ってしまったものだが、その後、30年以上経って、ダイジェストではない原作(本書)を読むにあたり、最初に私が探したのは、その「ため息」の項であった。ところが原作には「ため息をついた」なんて書いてないのである。単に妃の目に出てゆくギュゲスの姿が映ったと書いてあるのみである。これには結構ガッカリしたかな。

はてさて、「歴史」は全9巻であるが、文庫版では、この上巻に、原作第1巻から第3巻までが収められている。私の主観も交えて各巻を紹介すると、こんな感じ。

第1巻(クレイオ)
  リュディアのギュゲスとクロイソスからペルシャのキュロスまで
第2巻(エウテルペ)
  ペルシャのカンビュセスのエジプト遠征の前段として、
  エジプトに関する長~い記述。
第3巻(タレイア)
  カンビュセスの狂ったさまと、ダレイオスI世の即位直後まで。
  ここにも近隣諸国(インドなど)に関する怪し~い記述あり。
  
ヘロドトスの歴史を物語的歴史とはよく言ったもので、一つ一つの話には面白いものが数多くあるのだが、聞いたものをなるべく沢山書き込もうとしているせいか、冗長で話が遅々として進まないのには閉口した。あの簡潔にポイントを押さえていた、カエサルの「ガリア戦記」を懐かしく思い出すほどである。

特に大変だったのが、第2巻のエジプト紹介コーナー。有名な「エジプトはナイルの賜物」というフレーズはヘロドトス自身の言葉ではなく、彼の先輩のヘカタイオスが使用していた言い回しを紹介したにすぎない。で、その「ナイルの賜物」以下、延々と続くエジプトに関する記述には相当間違いが多いのと、神々の名前をギリシャ風に置き換えてしまっている(オシリス→ディオニュソス、イシス→デメテル等)ので非常に紛らわしい。通常歴史書に書いてある注記は、詳しく知りたい場合は参照するし、参照しなくても大筋を誤ることは少ないが、このヘロドトスの歴史の場合、注記をこまめに参照しないことはミスリードにつながり、本文を鵜呑みにするとどこかで大恥を書くことになりかねない。なぜなら随所に、これはヘロドトスの勘違いであるとか、アリストテレスはこの部分をたわ言だと言っている・・とか書かれているからである。

笑える例を一つ紹介すると、「犬よりは小さいが、狐よりは大きいほどの蟻が棲息している。」の部分の注釈は「他の資料を綜合して判断すれば、野生のモルモットの類らしい。」と来る。狐より大きい蟻がいるわけないし、モルモットと間違えるなよと言いたい!

ただ、私の記憶力も捨てたものではなく、どっかで読んだ懐かしい物語に沢山遭遇した。カンビュセスの狂っていく様と、ダレイオス1世がどうやって王位を手に入れたか、のくだりは読み応えがある。既に当記事は相当の長文になっているため、色々紹介したいことはあるのだが、ここらへんで筆を置こう。(私の文章こそ冗長ですね。)
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