風塵社的業務日誌

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ある入力原稿(不定期連載0010)

2015年04月16日 | 任侠伝
 そもそも広田さんを紹介した弘と広田さんはスポーツジムで知り合いになったとのことで、弘もいい体格をしていたが、広田さんはそれ以上で、ボディビルダーとしても有名で、そのような本や雑誌にも採り上げられるほどであった。広田さんの家には若者が三人ほどいて、弘もたびたび遊びに来ていた。広田さんが体を鍛えているジムは、プロレスラーの力道山のジムで、力道山のところの若いレスラーも広田さんの家に遊びに来ていた。
 弘もそのジムに通っていたので、若いレスラーでマンモス鈴木というレスラーをよく連れてきていた。マンモス鈴木は相撲取りあがりで体も大きく、悪役レスラーとしてよくテレビに出ていたので俺も知っていた。
 そのように遊びに来る日が増えるにつれ、飲み屋へよく連れて歩くことになり、ある日、弘が別の客と口論となる。その場は話し合いでことは収まったと思っていた。相手は先に帰り、俺たちはその後もしばらく飲んだあと帰ることにする。俺と鈴木は前の方を歩き、広田さんのところの若者と弘が後ろから歩いていた。そこに待ち伏せしていた相手が、弘の腰を刃物で刺したのだ。前を歩いていた俺はなにも気がつかずにいた。
 その相手は口論した弘を刺し、そして兄貴分と見たのか俺に目がけて突進してきた。今度は俺の左胸を刺したのだ。俺はこれでは殺られると思い、近くの路地に逃げ込んで身を隠し傷を見たら、左肺をやられていて血が止まらない。相手は俺を探し追いかけてきたが、隠れている俺に気がつかずに通り過ぎていった。すぐに引き返してくると思ったから、隠れていた家の陰にあった角材を取ろうとした。タイミング悪くそのときに相手が引き返してきてしまい、また隠れた。
 相手はあせっていたためか俺に気付かず、元の通りの方へ行ったのだが、その先には俺と一緒にいた連中がまだいる。別の仲間まで刺されてしまうとの思いから、急いで角材を取り、今度は俺が相手を追いかける形となった。相手とマンモス鈴木が向かい合わせとなっていて、「捕まえろ!」と大声で俺は怒鳴りながら、後ろから角材で一発殴ったら、相手は鈴木の脇を抜けて逃げてしまった。悪役レスラーは実戦では気が小さく、捕まえるどころか、よけてしまったのだ。
 しかたなくその場でタクシーを拾い、弘を連れて病院へ行った。腰を刺された弘は、何針か縫って帰れるとのこと。俺は出血がひどく、手術することになった。肺まで達していたのだ。入院するとの話やら手術するといっていたあたりから気を失ってしまい、気がついたときは朝になっていた。
 朝の一〇時ころには、広田さんや若衆、そして洋子という女性が見舞いに来てくれた。事件のとき一緒にいた若者が、広田さんに伝えてくれたのだ。医者からは、一週間の入院が必要だと伝えられる。広田さんたちが帰ると、まもなく刑事が来て事情聴取を受ける。刑事には、「なにも知らない。原因もわからない」と、のらりくらりと受け答えした。しかし、刑事は一日に何回も聞きに来る。二日目の聴取でも、なにがなんだかわからないとしか言ってなく、刑事はそんなことはないだろうとなにか聞き取りたいらしく、しつこかった。三日目の朝、一週間の入院予定であったが、刑事の来ることがうっとうしいので病院から抜け出して、そのままふけた(逃げた)。
 病院を出て広田さんのところに行き、この件は自分でけりをつけると伝えたのだが、広田さんは「相手に心当たりがあるので、こっちでけじめを取るから、ゆっくり休んでいろ」とのことであった。広田さんのところに遊びに来た弘を、俺は怒った。なぜなら、俺が入院中の二日間で、なんで自分でけじめをつけなかったのかと思ったからで、弘自身も刺されているのだから、返しをするのは当たり前のことである。
 その後数日、広田さんはなにも言ってこないし、けじめをつけたという話も聞こえてこないので、弘になにか知っていないかと聞くと、広田さんは自分でけじめをつけると言っていたが、どうやら広田さんの仲間で湯本という奴にまかせたとのこと。湯本昭八郎という奴は俺より二歳年上で、当たり屋や恐喝などを専門としていた愚連隊みたいな奴だという。広田さんにまかせた以上、俺がいまさらでしゃばるわけにもいかず、そのままにすることにした。
 胸を手術しても病院を抜け出してしまったため、抜糸をしに病院に行くわけにもいかず、自分で抜糸をした。そんなこんなで半月が過ぎたころ、広田さんから二万円の金をもらい、刺された件のけじめだと言われた。相手は学生なので自分の若衆に体をかけさせるわけにもいかないため、お金でけりをつけたとも言ってきた。また、初めて湯本という奴に頼んだことを直接聞いた。
 俺は自分でけじめをつければよかったと思ったし、一歩間違えれば殺(と)られていて、されに弘も刺されているのに、二万円という金額はどう見ても少なく、一〇万とか二〇万で話をするようなことだとも思った。湯本は相手からそのくらいを取ったのに、広田さんには少なく報告したのだと思う。ほとんどハネられたのだ。それから何度も会うことがあったが、俺の本心は湯本は信用できない奴だということだった。
 しかし、広田さんの仲間ということもあるので、湯本を知らないふりをすることもできなかった。湯本の方は、逆に俺と仕事を一緒にしたいと広田さんに頼んだり、直接誘ってくることも何度かあったが、すべて断った。しかし、仕事は断っていたが、一緒に飲みに行こうと誘われれば、広田さんとの関係もありむげにはできないので、二回ほど飲みに行ったことがあった。その後もいろいろな仕事を誘ってきたが、すべて断っていたので、湯本も脈がないと判断したのか誘ってこなくなった。

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