さて、内容だがこれは一聴して魅了された。なにしろタイトル曲の「崇拝」が素晴らしい。アカペラで歌い始める厳かな開幕からピアノが絡み始め、心の琴線に触れまくりの旋律が歌われるあたり、「今時めずらしいくらいに正統派台湾ポップス」という感じだし、ストリングスやコーラスが重なってドラマチックに盛り上がるあたりの展開も素晴らしく、なんか久々に台湾ポップスの神髄を聴いたという気にさせてくれたのだ。彼女のヴォーカルは、女性としてはちょい低めのアルトくらいの音域で、声質もちょいとかすれ気味で、私の好みからすると、それほどど真ん中にヒットしているタイプでもはないのだが、抜群の歌唱力、人柄が伝わってきそうな誠実な歌い振りなど、とにかく説得力抜群だ。2曲目「セラヴィ」も理知的な面とほどよくコントロールされた情感とか絶妙にバランスしていて歌の職人を感じさせやけに心地よい。
さて、この正統派王道台湾ポップスからはじまるアルバムだが、5曲目あたりから昨今のモダンな台湾ポップスの音にも目配せしているようで、ガレージ風なギター・サウンドやサイケなサウンドなども顔を出すが、彼女のヴォーカルはウェットなところと乾いたところが妙に交錯するところがあって、こういうサウンドだとそのドライさがうまくのって違和感を感じさせないところがいい。坂本風なく・ストリングスとエレトリックなサウンドをバックに配した6曲目などもおもしろく聴けるし、7曲目の楊乃文みたいなロック・サウンドもなかなかだ。ところでこの梁静茹だが、実はマレーシア人で台湾の人ではない。台湾のポップスのど真ん中にいながら、どこか自分はそれに客観視いているような微妙な距離感のようなものはひょっとすると、こうした出自によるものかもしれないな。