オリンピック、フィギュア・スケート・男子シングル、高橋大輔がフリーで演じる曲は、映画「道 La Strada」の「ジェルソミーナのテーマ」。イタリアの作曲家、映画音楽の巨匠、ニーノ・ロータの名曲だ。
前にも、ニーノ・ロータのことをすこし書いたが、高橋大輔のフリーの演技を応援する意味で、もう一度。「道」のことを。
高橋大輔のフリーの演技に、道化師(クラウン=ピエロ)の振り付けが取り入れられているのは、映画「道」の主人公ジェルソミーナが、道化師(クラウン)だからだろう。
高橋大輔のフリーの振り付けが、ロシア人のニコライ・モロゾフからイタリア人の振付師パスカーレ・カメレンゴに変わった。イタリア人の振付師になったから、「道」を選曲したのだろう。このイタリア映画の傑作のテーマ曲、イタリアが誇る作曲家の名曲を演じるには、イタリア人の振付師こそ、ふさわしいだろう。
ニーノ・ロータは、1950年代から数々の名画のサントラを作曲して世界でヒットさせた大作曲家だ。ニーノ・ロータの音楽は、映画の興行成績に大きく影響するほど大きな力を持つ、いかにもイタリア人らしい哀愁をおびたメロディの美しい音楽だった。(日本で大ヒットした、アラン・ドロン主演の「太陽がいっぱい」のテーマも、ニーノ・ロータの作曲だ)。
ニーノ・ロータ自身は、じぶんはクラシックの作曲家で、映画音楽は趣味だ、とたびたび言っていたという。たしかに、150本以上の映画のスコアを書き、「ロミオとジュリエット」や「ゴッドファーザー」などの大ヒットを作曲していたが、亡くなるまでイタリアのバーリ音楽院の学長をつづけ、和声と作曲を教えていた。そして、クラシック(純音楽)作品を作曲し、発表していたのだ。オペラ、交響曲、室内楽、ピアノ曲など多くの作品がある。
母も祖母も祖父も、ピアニスト、作曲家という、まさに音楽一家に生まれたニーノ・ロータは、ピアノを母に教わり、7才で作曲をはじめ、11才でオラトリオ、13才でオペラを発表して、天才といわれた。その十代のとき、イタリアだけでなく、フランスでも上演されて、評判になったというから、ほんものの天才児だったのだろう。
学歴も、教わった音楽の師匠たちも、音楽家としては、じつに完璧だ。ミラノ音楽院のあと、ローマのサンタ・チェチーリア音楽院を卒業して、アメリカ留学の奨学金をもらう。フィラデルフィアのカーティス音楽院を卒業して、イタリアにもどり、ミラノ大学芸術科に入学するのだ。勉強が好きな人だ。文学と哲学を専攻する。26才でミラノ大学を卒業してからは、死ぬまで、音楽院の教師をつづけた。「映画音楽の作曲は、趣味」といいながら。
「お金が入ってくる、趣味だ」という言い方も、おかしい。イタリア人だ。
映画「道」は、1954年封切りのフェデリコ・フェディーリ監督の作品だ。すこし頭は弱いが心優しい女ジェルソミーナと粗野な大道芸人の男ザンバノとの悲しい話だ。ニーノ・ロータのトランペットをつかった音楽が、せつない。このテーマが世界で大ヒットして、その効果もあって、映画「道」は、世界じゅうでヒットした。監督フェデリコ・フェリーニは、この作品で国際的名声を得たのだ。
「ジェルソミーナのテーマ」は、わたしが小学生のとき、ラジオからよく流れてきた。テレビが無い時代だ。ラジオから流れる洋楽が、新鮮で、心がふるえた。子供心に、なんて哀しく美しい曲だ、と思ったものだ。
「道」を撮影していたころの、フェデリコ・フェリーニ監督。
知恵遅れのジェルソミーナを演じたのは、イタリアの名優ジュリエッタ・マシーナ、監督フェリーニの夫人だ。ふたりは、フェリーニがラジオのシナリオを書いていた駆け出しのときに出会い、フェリーニ監督が1993年に心臓発作で亡くなるまで連れ添った。フェデリコ・フェリーニ、73才だった。葬儀は、イタリア国葬だった。 そして、フェリーニが死んで5ヶ月後、妻のジュリエッタ・マシーナが癌で亡くなった。73才だった。
粗暴で、女好きで酒好きの大道芸人を演じたのは、アンソニー・クイン。すこしまえに「その男ゾルバ」のダンスシーンのことを書いた。わたしは大好きな俳優だが、2001年に亡くなってしまった。メキシコ生まれのアメリカ人だ。父親がアイルランド人、母親がメキシコ人なのだ。
映画俳優になる前は、プロボクサーをやったり、靴磨きをやったり、建築家フランク・ロイド・ライトのスタジオで学んだこともある。その若いとき志したことなのだろう、俳優になってから絵画や彫刻を発表している。タフな見かけとちがって、知的なアーティストだ。二冊の本も書いている。
「道」 http://www.youtube.com/watch?v=zoRioG2wK6c
ニーノ・ロータ オフィシャルサイトhttp://www.ninorota.com/
アンソニー・クイン オフィシャルサイトhttp://www.anthonyquinn.com/
ジュリエッタ・マシーナ IMDb http://www.imdb.com/name/nm0556399/
ニーノ・ロータについて、日本語のサイトでは、早崎隆志さんのページが詳しい。 http://www.tcat.ne.jp/~eden/FC/rota.htm