tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

改めて非正規雇用問題の深刻さとは

2023年05月25日 20時39分01秒 | 労働問題
今春闘の賃上げ率は、従来の水準より1ポイント前後高くなるようなペースで進んでいるようで、これは多分日本経済にプラスの影響を持つと見られます。

また、賃上げ率でみると正規従業員より非正規従業員の賃上げ率の方が高いというケースもかなり多いようです。

勿論金額でいえば、正規従業員の方ベースが高いですから高くなるにしても、率が高ければ何時かは追いつくのが理屈ですから、先ずは評価出来る動きで、今後も企業としては確り考えるべきだと思います。

しかし、より本質的な問題を考えますと、長期不況の中で企業が正規を減らし非正規を増やしたという問題は、賃金引き上げだけでは解決しない大きな問題を孕んでいます。

それは、非正規の増加が、仕事の熟達した従業員を大幅に減らした結果だという事です。
非正規従業員が15%ぐらいだった頃は、束縛の多い正規従業員にはなりたくないが、ある程度の収入が欲しいといった学生や主婦などが多いという時代でした。

それはそれなりにハッピーな時代でした。
しかし、長期不況は、日本経済、日本企業にとって極めて苛酷で、非正規で正規従業員を代替するという窮余の策を企業に強いたようです。

勿論、正規従業員の賃金水準を下げて、不況を乗り切ろうとした企業もあったようです。しかし1ドルが240円から120円と2倍の円高では、理論的には賃金を半分にしなければ生りません。
や育成
賃金はそんなに減らせませんから、福利厚生費や教育訓練費を企業は徹底して削ったようです。
特に、非正規従業員については、教育訓練や育成は殆ど手抜きだったようです。その結果、正規の日常業務をきっちりこなすベテラン従業員の仕事にまで非正規でやりくりといった状況にならざるを得ません。

完成車メーカーで、最終検査担当に資格を持たない従業員を当て、ハンコは有資格者から借りて来るといった問題が起きた記憶をお持ちの方も多いでしょう。

そして、最近は、検査の不正、データの改竄、性能偽装、設計不正といった問題が大企業を含む多くの企業で、性能検査、顧客のクレーム、内部告発などで明らかになっています。

非正規従業員は技能を持たないから転職しても長続きせず年齢は上がっても給与は上がらず不安定雇用という苛酷な状況からなかなか抜け出せない現実、企業にとっては熟練工、ベテラン不足から、ついつい偽装、改竄、不正に走るといった情けない現状が日本企業に見られるように思います。

円高不況によって引き起こされた30年に及ぶ不況の傷跡は深いようです。
これは基本的には政府の経済外交の失敗に起因するものでしょうが、その中で、非正規従業員を中心に従業員の育成、教育訓練の手抜きを、つい先ごろまでやってきた日本企業の現実は、人間だけが資源の日本産業にとっての致命傷になっているのではないでしょうか。

特に非正規従業員多用の問題は、日本の社会的な劣化にも大きく関わる問題になっている面も見逃すことは出来ません。

勿論賃上げは必要です。しかし本当に必要なのは企業が人を育てることを最大の責務と考えるような、かつての日本企業に立ち帰ることではないでしょうか。
日本産業、日本経済の再生は、その結果として実現するのではないでしょうか。