tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

三題噺:非正規雇用、定期採用、格差社会

2016年08月29日 18時31分22秒 | 労働
三題噺:非正規雇用、定期採用、格差社会
 非正規雇用の正規化がなかなか進みません。このブログでは「正規を望む非正規従業員の正規化促進」が望ましいと言ってきていますが、政府の方は、「同一労働・同一賃金を徹底すればいい」という考え方のようです。

 先日も、「子供の6人に1人が貧困家庭」という厚労省の「国民生活基礎調査」の結果が発表されました。
 ここでの貧困の定義は「標準的な家庭の半分以下の所得の家庭が貧困家庭」ですから、見方はいろいろあるでしょうが、かつては一億総中流などと言われた日本にしてはショッキングな数字です。この背景に非正規雇用が雇用の37%という数字のあることも事実でしょう。しかし、ピークの40%からは少し減りましたね。

ところで、この問題を「同一労働・同一賃金」というアプローチと「非正規の正規化の促進」というアプローチのどちらで解決していこうかということになりますと、どうも「同一労働・同一賃金」ではうまくいきそうもありません。

 非正規といっても中身はいろいろで、定年再雇用の人の賃金は、年功賃金制度の残る多くの企業の労使協定や就業規則で決まっています。特定の能力を持つ人を非正規で雇用している場合は(通常有期雇用)正社員より高い賃金が一般的でしょう。パートの場合は地域のマーケットで賃金が決まります。同一労働の定義も現実には困難な問題です。

 こうした現状は、日本企業独特の「新卒定期採用」という慣行に由来しています。欧米では一般的に「職務(欠員)に人を当てはめる採用」ですが、日本の定期採用は「将来、会社に役立つ人間を学卒時に採用する」という独特なものです。

 一般的には新卒定期採用が正規社員で、中途採用でもそれに準じた場合は正社員になります(パートでも本人が希望し、会社も認めれば正社員切り替えもあります)。
 つまり、正社員というのは本来的に「人間を採用」するシステムで、人間と職務との関係は、長い勤務期間の中で異動しながら決まっていきます。

 この「人間を採用する」という方式(学卒定期採用)は、人間中心を標榜する日本的経営の中核の概念であり制度です。多分日本企業にも、日本人にも、これを捨て去ることはできないでしょう。これは、日本の伝統文化の一環だからです。

 ということになりますと、定期採用の正社員と欠員補充のパートとは賃金制度が違ってきます。社内の賃金制度で決まる賃金と、地域のマーケットで決まる賃金です。
 賃金を決める主体が違うのですから、この2つを合わせることは不可能でしょう。

 では、賃金格差も影響する格差社会化を防ぐためには何が必要かということになります。そこで必要になるのは、正社員希望のパートを積極的に正社員転換する制度です。
 かつて「 IKEAに学ぶ日本的経営」でも書きましたが、非正規の正社員化が一番大事で、現状の歪み是正には一番合理的な方策だと考えています。

 もともと、パート志望の方々は「できるだけ自由な働き方をしたい」という方々で、日本が豊かな社会なって存在が定着してきたといえるでしょう。
 それが「失われた20余年」の中で、日本経済のサバイバルのために無理にパートを増やさざるを得なかったという残念な歴史がありました。その無理による歪みは実は企業にとっても問題で、その復元が、今、必要なのです。

 勿論、格差社会化という現象は、実は「非正規労働」と言われる問題だけで発生したわけではありません。欧米社会を真似た所得税累進課税の大幅な緩和も含め、マネー資本主義の盛行、社会保障制度の行き詰まり、背後にある将来不安の深刻化など多くの要因の複合体でしょう。

 かつて日本は世界で2番目と言われる格差の少ない社会を自力で、日本流、日本文化社会の伝統を生かして実現してきた実績があります。
 格差社会化の阻止は、欧米の真似、舶来崇拝ではなく、日本の、本来の格差を嫌う文化的、社会的伝統を生かしてやっていくべきものではないでしょうか。