民事月報令和5年5月号に,「民法等の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて」が掲載されている。
いわゆる令和3年改正民法・不動産登記法の令和5年4月1日施行部分の通達の解説である。
cf. 「民法等の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(通達)」 〔令和5年3月28日付法務省民二第538号〕通達
https://www.moj.go.jp/content/001394389.pdf
曰く,
「相続人に対する遺贈による所有権の移転の登記の申請は、前記の共同申請(不登法第60条)によるほか、本改正により、登記権利者である受遺者(相続人)が単独で申請することができることになる (注4)(注5)。
なお、 遺言執行者は、登記権利者 (不登法第2条第12号) は該当しないこと、 また、遺贈による所有権の移転の登記の申請は、特定財産承継遺言(相続)による場合と異なり、共同申請(不登法第60条)によることも想定されていることなどに鑑みると、 相続人に対する遺贈による所有権の移転の登記の申請を遺言執行者が(その資格において)単独で申請することはできないものと考えられる(注6)。
※ 民法第1014条第2項の類推適用により,遺言執行者による対抗要件具備行為を許容してもよいと思われるのであるが・・・。もちろん,受遺者が遺贈を放棄する場合もあり得ることから,遺言執行者が受遺者の意思を確認せずに,遺贈による登記を申請することはあり得ないが。
受遺者(相続人)が単独で申請する場合には,登記識別情報又は登記済証,及び印鑑証明書の添付を要しないが,遺言執行者が登記義務者となって共同申請をする場合には,従来どおり「添付しなければならない」であろう。整合性に囚われ過ぎて,合理的でない感がある。
「(注4)遺贈により共同相続人中の一部の者の共有とされた不動産についての所有権の移転の登記は、当該共有者全員の申請によることができるのはもちろんのこと、登記原因証明情報として提供される遺言書により共有関係(共有者の氏名及び共有持分)が明らかであり、 その真正性が十分に担保されることに鑑みると、 当該共有者のうちの一人が単独で(当該共有者全員のため、又は自己の持分のみについて)申請することができるものと考えられる(昭和34年4月6日付け民事甲第658号民事局長回答)。
なお、 共同相続人中の一部の者が、 自己の相続分のみについて、相続による所有権の移転の登記を申請することはできず、また、共同相続人全員が、 それぞれ自己の相続分のみについて、個々に別件として同時に、相続による所有権の移転の登記を申請することもできないとされている (昭和30年10月15日付け民事第2216号民事局長電報回答)。」
※ 「自己の持分のみについて申請することができる」・・・遺贈の場合には,できますね。
「(注5)改正不登法第63条第3項の規定により登記権利者である受遺者 (相続人)が単独で遺贈による所有権の移転の登記を申請する場合においては、遺贈者(所有権の登記名義人)の登記記録上の住所等が死亡時の住所等と相違しているときであっても、相続による所有権の移転の登記の申請と同様に、 その同一性を証する情報の提供により、当該遺贈者(所有権の登記名義人)の住所等の変更の登記をすることなく、その所有権の移転の登記を申請することができるものと考えられる(明治33年4月28日付け民刑414号民刑局長回答)。
なお、登記権利者と登記義務者との共同申請(不登法第60条)によって遺贈による所有権の移転の登記を申請する場合においては、従前のとおり、その前提としての住所等の変更の登記を省略することはできないものと考えられる (登記研究401号テイハン(昭和56年)160頁 質疑応答 【5907】))。」
前段については,既報のとおり。
cf. 令和5年6月23日付け「遺贈の登記の単独申請と所有権登記名義人表示変更登記の要否」
「明治33年4月28日付け民刑414号民刑局長回答」とは,見慣れない先例であるが,「既登記の不動産の所有者が改名したが,その変更登記をしないで家督相続が開始した場合の相続登記の申請については,被相続人は申請人でないから,旧法49条6号に基づき同法42条の相続を証する書面を提出する必要はなく,被相続人の表示を変更せず直ちに相続登記をすることができる」(後掲七戸19頁)とするもののことであろうか?
cf. 七戸克彦「不動産物権変動における公示の原則の動揺・補遺(1)-(10・完)
https://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/12542/005_p002-p036.pdf
後段(なお書)については,そこは,拘らなくても・・・。住所移転等の経緯を公示する必要性について,前段と後段の違いはないと思われるが。
「(注6)遺言執行者の権利義務について、令和元年6月27日付け法務省民二第68号法務省民事局長通達/有本祥子・古田辰美「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて」 民事月報75巻3号(令和2年)31頁参照」
とまれ,登記実務は,「通達及びその解説に示された考え方」に従って運用されるので,御留意を。
いわゆる令和3年改正民法・不動産登記法の令和5年4月1日施行部分の通達の解説である。
cf. 「民法等の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(通達)」 〔令和5年3月28日付法務省民二第538号〕通達
https://www.moj.go.jp/content/001394389.pdf
曰く,
「相続人に対する遺贈による所有権の移転の登記の申請は、前記の共同申請(不登法第60条)によるほか、本改正により、登記権利者である受遺者(相続人)が単独で申請することができることになる (注4)(注5)。
なお、 遺言執行者は、登記権利者 (不登法第2条第12号) は該当しないこと、 また、遺贈による所有権の移転の登記の申請は、特定財産承継遺言(相続)による場合と異なり、共同申請(不登法第60条)によることも想定されていることなどに鑑みると、 相続人に対する遺贈による所有権の移転の登記の申請を遺言執行者が(その資格において)単独で申請することはできないものと考えられる(注6)。
※ 民法第1014条第2項の類推適用により,遺言執行者による対抗要件具備行為を許容してもよいと思われるのであるが・・・。もちろん,受遺者が遺贈を放棄する場合もあり得ることから,遺言執行者が受遺者の意思を確認せずに,遺贈による登記を申請することはあり得ないが。
受遺者(相続人)が単独で申請する場合には,登記識別情報又は登記済証,及び印鑑証明書の添付を要しないが,遺言執行者が登記義務者となって共同申請をする場合には,従来どおり「添付しなければならない」であろう。整合性に囚われ過ぎて,合理的でない感がある。
「(注4)遺贈により共同相続人中の一部の者の共有とされた不動産についての所有権の移転の登記は、当該共有者全員の申請によることができるのはもちろんのこと、登記原因証明情報として提供される遺言書により共有関係(共有者の氏名及び共有持分)が明らかであり、 その真正性が十分に担保されることに鑑みると、 当該共有者のうちの一人が単独で(当該共有者全員のため、又は自己の持分のみについて)申請することができるものと考えられる(昭和34年4月6日付け民事甲第658号民事局長回答)。
なお、 共同相続人中の一部の者が、 自己の相続分のみについて、相続による所有権の移転の登記を申請することはできず、また、共同相続人全員が、 それぞれ自己の相続分のみについて、個々に別件として同時に、相続による所有権の移転の登記を申請することもできないとされている (昭和30年10月15日付け民事第2216号民事局長電報回答)。」
※ 「自己の持分のみについて申請することができる」・・・遺贈の場合には,できますね。
「(注5)改正不登法第63条第3項の規定により登記権利者である受遺者 (相続人)が単独で遺贈による所有権の移転の登記を申請する場合においては、遺贈者(所有権の登記名義人)の登記記録上の住所等が死亡時の住所等と相違しているときであっても、相続による所有権の移転の登記の申請と同様に、 その同一性を証する情報の提供により、当該遺贈者(所有権の登記名義人)の住所等の変更の登記をすることなく、その所有権の移転の登記を申請することができるものと考えられる(明治33年4月28日付け民刑414号民刑局長回答)。
なお、登記権利者と登記義務者との共同申請(不登法第60条)によって遺贈による所有権の移転の登記を申請する場合においては、従前のとおり、その前提としての住所等の変更の登記を省略することはできないものと考えられる (登記研究401号テイハン(昭和56年)160頁 質疑応答 【5907】))。」
前段については,既報のとおり。
cf. 令和5年6月23日付け「遺贈の登記の単独申請と所有権登記名義人表示変更登記の要否」
「明治33年4月28日付け民刑414号民刑局長回答」とは,見慣れない先例であるが,「既登記の不動産の所有者が改名したが,その変更登記をしないで家督相続が開始した場合の相続登記の申請については,被相続人は申請人でないから,旧法49条6号に基づき同法42条の相続を証する書面を提出する必要はなく,被相続人の表示を変更せず直ちに相続登記をすることができる」(後掲七戸19頁)とするもののことであろうか?
cf. 七戸克彦「不動産物権変動における公示の原則の動揺・補遺(1)-(10・完)
https://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/12542/005_p002-p036.pdf
後段(なお書)については,そこは,拘らなくても・・・。住所移転等の経緯を公示する必要性について,前段と後段の違いはないと思われるが。
「(注6)遺言執行者の権利義務について、令和元年6月27日付け法務省民二第68号法務省民事局長通達/有本祥子・古田辰美「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて」 民事月報75巻3号(令和2年)31頁参照」
とまれ,登記実務は,「通達及びその解説に示された考え方」に従って運用されるので,御留意を。
相続人である受遺者が単独で遺贈の登記を申請する場合、遺言者の住所に変更があっても、住所変更登記を要しないことは、法務局のHPの書式例にも記載がありました。
かなり大事なことなのに、3月の通達にはどうして明記しなかったのかどうにもナゾです。
ついでながらですが、法定相続分による相続登記後の遺産分割による持分移転登記ですが、これも、立案担当者の書籍(Q&A 令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法)には、単独で申請することができるという記述があり、この点も、本当のところはどうなのか気になるのですが、どう思われますか?
「理論的には,更正の登記によらずに所有権の移転の登記によることが排除されるわけではないが(この場合も単独申請によることが可能である。),登録免許税に差が生じる。」
お示しの立案担当者の解説書と全く同じ記述です。
「理論的には」という書きぶりからすれば,突然出て来た考え方であるように思われます。この場合,「持分移転」ではなく,「所有権移転」なのではないかと思料します。
おそらく,その後にある,法定相続分での相続登記後に,持分について抵当権が設定されている場合に更正登記が不可であることから,担保付きのまま所有権移転登記を経る方法について示したものではないかと思料します。
遺産分割の点も、ありがとうございます。
個人的には、不動産登記法76条の2第2項と関係する内容なのかとも思ったのですが、この点も、いずれ明確になることを待つしかなさそうですね。
(単独申請が可能としている点を除けば)従来どおりの持分移転登記もあり得るが登録免許税の負担があるので更正登記によるのがベター,という程度のことが書いてあるに過ぎないようですね。うがった見方をし過ぎました。