全青司全国研修会の企業支援コンペにおいて,取締役選任権付種類株式について,若干議論があった。
「取締役選任権付種類株式A(取締役○名を選任することができる。)」,「取締役選任権付種類株式B(取締役○名を選任することができる。)」及び「普通株式(という名の種類株式)」の3種の種類株式を発行している種類株式発行会社において,残余の取締役の選任方法如何である。
この点に関して,いわゆる「千問」に,「たとえば,3人の取締役を選任する場合において,ある取締役選任権付種類株式の内容として2名に取締役を選任することとされている場合,当該株式の種類株主総会において2名を選任し,残りの1名は,当該株式以外の種類の株式の株主によって構成される種類株主総会によって選任される。」(相澤哲他「論点解説 新・会社法」(商事法務)286頁以下)との解説があることから,残余の取締役は,「普通株式(という名の種類株式)」の株主によって構成される種類株主総会によって選任することができる,との指摘があった。
しかし,これは,誤解である。読み取り難い表現であるが,「ある取締役選任権付種類株式」とあることから,執筆者は,2種類の取締役選任権付種類株式を発行している株式会社を念頭にして,「当該株式以外の種類の株式」は,「他の取締役選任権付種類株式」を意味するつもりであったものと思われる。
以下は,拙編著「商業登記全書第3巻 株式・種類株式」(中央経済社)363頁のコラムである。ご一読を。
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旧商法時代は、株式の種類ごとに別個の投票により取締役を選任する旨の定款の規定を設ける場合、全部の種類について、選任することができるか否かを定める必要があるとされていた。ある種類の株式を有する種類株主について、
① 通常の株主総会における議決権の有無
② 当該種類株主総会における議決権の有無
が問題となるが、①において議決権のない種類株主に対して、②において議決権を認めることが可能であることが理由とされていたようである。しかし、この点は、会社法第108条第2項第9号イの規定により、変更されたものと考える。
すなわち、取締役選任権付種類株式が発行されたときは、取締役の選任に関して、「通常の株主総会」から「取締役選任権付種類株式の種類株主を構成員とする種類株主総会」に権限が委譲されたことになることから、選任権限がない種類の株式に関して、当該種類株主総会が「取締役を選任することができない」と定める必要はないわけである。
したがって、「取締役を選任することができない」ことは種類株式の内容ではなく、「当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役を選任すること」を定款に定めて、登記事項とすれば足りると考えるべきである。なお、公表されている登記記録例では、「取締役を選任することができない」ことが登記すべき事項であるかのように掲げられているが、これは、旧商法時代の実務に引きづられているだけであり、余事記載であろうと考える。
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取締役選任権付種類株式のポイントは,
○ 取締役選任権付種類株式を発行している株式会社においては,「取締役選任権付種類株式の種類株主を構成員とする種類株主総会」によって取締役が選任される。
○ この場合,通常の株主総会で取締役が選任されることはない。仮にその実質を実現したいのであれば,「すべての種類の株主が共同して開催する種類株主総会」で選任する方策をとる必要がある。
cf. 松井信憲著「商業登記ハンドブック〔第2版〕」(商事法務)134頁
上記の例によれば,残余の取締役の選任に関して,「取締役選任権付種類株式A」,「取締役選任権付種類株式B」及び「普通株式(という名の種類株式)」の3種の種類株式の種類株主が共同して開催する種類株主総会によって行う旨の定款の定めを置くことにより,通常の株主総会で選任するのと同様のことを実現することが可能となるわけである。ただし,この場合,「普通株式(という名の種類株式)」も取締役選任権付種類株式の1種となることは,言うまでもない。
cf.
平成21年4月17日付「取締役選任権付種類株式と取締役の任期」
取締役選任権付種類株式は,実務の蓄積が少ないこともあり,解釈が定まっていない点が多々あり,他にも難しい問題を孕んでいる感がある。
to be continued