司法書士内藤卓のLEAGALBLOG

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除斥期間経過後の未払配当金の支払

2013-03-08 05:59:07 | 会社法(改正商法等)
 株式会社の定款では,未払配当金の支払に関して,定番のように,「金銭による剰余金の配当がその支払提供の日から満3年を経過してもなお受領されないときは,当会社は,その支払義務を免れる」旨の除斥期間を設けているかと思われる。

 未払配当金に関しては,株主が支払を請求してきた場合に直ちに支払うことが可能なように分別管理をするか,あるいは供託することが考えられる(ただし,供託されることは皆無に近いであろう。)。株主が有する配当金支払請求権は,商行為にあらざる債権として,消滅時効は,10年となる(民法第167条第1項)。

 この配当金支払請求権について,定款に除斥期間を定め,除斥期間内にその配当金を受領しないときは,株式会社に帰属させることができるかという問題については,法に明文の定めがなくても,株主の利益に重大な影響がある事項は定款に規定して初めて有効になると解されており,配当金支払請求権の除斥期間の定めに関しては,実際的必要性に鑑みて不当に短いものでない限り,その定めは有効なものとして判例上も認められている。現状では,除斥期間付きの権利は,配当金の支払請求権に限定されているようであるが,所在不明株主の株式売却による代金支払請求権に関しても,同様に解してもよいのではないだろうか(ただし,全株懇の「所在不明株主の株式売却事務取扱指針では「10年」である。)。

 配当金の未払いが生ずる原因としては,株主が口座への振込みを希望している場合には,当該株主が所在不明となっても,振込みが可能な限り,未払いの問題は生じない(こういうケースは結構多いようである。)ので,小為替の郵送等による支払を希望しているような株主が所在不明となった場合が多いのではないかと思われる。

 定款で定めた除斥期間については,全株懇のアンケート結果によれば,次のとおりであるようだ。

(1) 3年 78.3%
(2) 5年 15.2%
(3)10年  3.0%
(4)その他  3.5%

 そして,定款で定めた除斥期間満了後に株主が未払配当金の請求をしてきた場合の対応については,全株懇のアンケート結果によれば,次のとおりであるようだ。

(1)原則的に支払う 37.8%
(2)消滅時効(10年)まで支払う 16.6%
(3)原則として支払わない 45.6%

 対応が結構分かれていますね。

 除斥期間の経過は,消滅時効と異なり,債務者の援用を待たずに確定的に債務の消滅の効果を生じさせるわけであるが,そうすると,除斥期間経過後の配当金の支払は,株主にとっては不当利得(民法第703条)となり,株式会社にとっては非債弁済(民法第705条)となり得る。

 であるとすれば,除斥期間経過後の未払配当金の支払は,取締役の責任(会社法第423条第1項)の問題ともなり得る。

 もっとも,消滅時効に関しても,時効による債権消滅の効果は,時効期間の経過とともに確定的に生ずるものではなく,時効が援用されたときに,初めて確定的に生ずるのであり,債務者が援用(民法第145条)をしないこともあり得ることからすれば,除斥期間経過後の未払配当金の支払に関しても,株式会社が除斥期間の経過を主張せずに支払ったとしても,取締役の責任の問題とはならないとも言える。

 ちなみに,金融機関は,最後の取引から10年を経過した預金の払戻請求があった場合には,ほぼ例外なく,支払をしているようである。

 除斥期間の経過によって未払配当金の請求をあきらめている株主が多数いることが考えられるとして,請求をしてきた株主に支払うことが株主間の公平を害すると説く立場もあるが,未払配当金が生ずる原因の多くが上記のような場合であるとすれば,「あきらめている」株主が多いというよりは,「自己が株主であることを永年忘れている」株主又はその相続人が多いということであろうから,「権利の上に眠れる者を法は保護せず」の観点からすれば,公平の問題は生じないであろう。

 とはいえ,最近では,上記のアンケート結果のとおり,定款で定めた除斥期間経過後の支払をしない株式会社が増えているようである。
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