司法書士内藤卓のLEAGALBLOG

会社法及び商業登記に関する話題を中心に,消費者問題,司法書士,京都に関する話題等々を取り上げています。

期限付解散決議に基づく解散登記の可否について

2010-12-26 15:21:47 | 会社法(改正商法等)
商業登記漫歩 平成22年12月20日号(39号) by 神満治郎先生
http://www5a.biglobe.ne.jp/~legal/public/mp2/mp2039.htm

法務省HP商業・法人登記申請 
1-21 株式会社解散及び清算人選任登記申請書(清算人が1人の場合) 記載例pdf
http://www.moj.go.jp/content/000058720.pdf

 コメント欄に情報提供がありましたが,「解散の日を数箇月後の日とする期限付解散決議に基づく解散の登記の申請は、受理することができない」とする商事課補佐官事務連絡が発出されているそうです。そこで,反論を唱えます。



○ 「解散の日を将来の日としようとする場合には、存続期間の定めとして定款に定め、その登記がされることが会社法の趣旨に沿う。」

 会社法の立案過程においては,大胆に改正がされた部分と,漫然と,深く検討もされないままに平成17年改正前商法のルールを存置した部分があり,「存続期間の定め」については,言うまでもなく後者である。

 起業にあたって,「存続期間の定め」を設けて事業を行いたいというニーズがあり得ないものではないことは,否定しない。しかし,現実問題として,そのような会社がどれほどあるのだろうか?昭和初期に設立された会社を別にすれば,ほとんど皆無といっても過言ではないであろう。実態を考慮せずに,「会社法の趣旨に沿う」というのは,机上の空論に過ぎない。

 会社が事業の将来を慮って,例えば3か月後に事業の継続を中止しようと決意するのは,会社の本意としては,あくまでも「解散」の意思決定である。



○ 「株主総会が自由に期限付解散決議をすることができるとすると、定款で存続期間を定めたことと何ら変わりがないにもかかわらず、その旨を登記しなくてもよいことなり、存続期間を登記事項とし、これを公示することにより、取引の安全を図ろうとした会社法の趣旨に反する。」

 株主総会が条件付決議をすることができることについては,それほど異論はないところである(もっとも,どれほど長期間の間隔を置くことができるかについては,明確な基準はない。)。商号や目的などの定款記載事項であり,かつ,登記事項であるものについても同様の問題があるはずであるが,これらについては,上記のような指摘がされることはない。上記の論で行けば,登記されている事項の変更について条件付決議がされた場合は,条件付決議がされたこと自体を,すべからく登記事項とするように,会社法を改正すべきであろう。

 また,会社は,解散の決議を行うことにより,即時に解散することもできるのであるから,取引の安全云々は問題とならない。上記の「取引の安全」の論理によれば,逆に「株主総会の決議による解散」を全否定し,「存続期間の定め」への一本化を主張する方が筋が通っているが,支持は得られないであろう。

 会社法は,一つの目的を実現するために,複数のメニューを提示していることが多く見られる。巷間「会社法はツールボックス」と言われる所以である。例えば,会社法第111条第1項の定める方法により取得条項付種類株式を導入するためには,当該種類株主全員の同意が必要とされているが,全部取得条項付種類株式を利用すれば,いわゆる特別決議で可能となる(私は,この点に関しては,強い違和感を覚えるのだが。)。「会社法は,やりたい人がやりたいことをやれるように様々な手法を可能にした」というのが,改正の理念ではなかったのか。

 会社法が,「株主総会の決議による解散」(会社法第471条第3号)及び「定款で定めた存続期間の満了による解散」(同条第1号)の2つのメニューを用意しているのであるから,会社が3か月後に事業の継続を中止しようと決意する場合に,
 ① 条件付解散決議を行う。
 ② 定款に存続期間の定めを設ける。
という2つの選択肢があり,会社の合理的判断によっていずれか決定することができる,ということで,何ら問題はないはずである。そして,会社の判断は,通常の場合,①であり,②が選択されることは皆無であろう。これは,単に登記を1回パスしたいというような矮小な考えによるのではなく,3か月後の解散を決定するといういたってシンプルなものだからである。



○ よって、解散の日を数箇月後の日とする期限付解散決議に基づく解散の登記の申請は、受理することができない。ただし、当該議事録を添付した存続期間の定めに関する変更の登記の申請は、受理することができる。

 上述のとおり,「解散の日を数箇月後の日とする期限付解散決議に基づく解散の登記」の申請は,受理されるべきである。

 逆に,解散の決議をしたのみで,定款変更の決議をしたわけではないので,存続期間の定めに関する変更の登記の申請は,受理されるべきではない。

 私は,法律論としては,例え解散の日を数年後の日とする期限付解散決議も可能であり,当該決議に基づく解散の登記の申請も受理せざるを得ないと考える。解散の日を数年後の日とするような場合の会社の合理的判断は,②であろうから,そのような登記申請がされることは稀であろうが,会社法上採用可能な複数の選択肢の中から,会社がその判断によって自由に選択することを,登記実務が否定する合理的理由は,(少なくとも本件に関しては)ないと思われる。

cf. 平成21年10月27日付「条件付解散決議と存続期間の定めの登記」
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