ベニシタンの赤い実
拙宅の庭の片隅にある夏椿の根元に、ベニシタン(紅紫檀)が根づいたのは何年前のことだったか。北国の師走、雪が降る頃になると、背丈の低いベニシタンの木は無数の赤い実を着ける。もともと植栽したものではない。夏椿を訪れた野鳥が何処かの庭から運んできた種子が芽生えたものだ。
背丈は低く、水平に枝を広げ、枝には小さな卵型の葉が整然と密生する。小さな花は目立たないが、多数の赤い実は人の眼を惹きつける。特に、雪が降り、辺りが白一色になるとベニシタンの赤い実は存在感を増す。
熟した実を摘まんでみると食用になるようなものではないが、野鳥が毎年やって来る。今年もヒヨドリが赤い実を啄ばんでいる。イチイの実はとっくに食べ尽くし、街路樹のナナカマドの実も食べ飽きてやって来たのだろうか。
◆ベニシタン(紅紫檀、チャボシャリントウ、コトネアスター、学名Cotoneaster horizontalis、英名Rockspray cotoneaster)
バラ科、シャリントウ属の常緑(半常緑、寒冷地では落葉する)広葉小低木。原産地は中国西部。樹高が低いわりに色鮮やかな実がなることから、庭木、盆栽、鉢物として広く普及。渡来したのは明治初期、赤い実が木を覆うようにできる様を、インド原産で紅色の染料となるシタン(紫檀)の木になぞらえ、ベニシタン(紅紫檀)と名付けられたと言う。
開花は5~6月、その年に伸びた葉の脇に咲く。直径4~6mmほどの両性花で、淡い紅色あるいは白い5枚の花弁がある。ただし、花弁は全開せずに直立するのみで、未熟な果実と見分けがつきにくい。萼筒から生じる軟毛が目立つ。
果実は直径5mmほどの楕円球で、秋(9~10月)になると濃い紅色に熟す。実は長持ちする。弓なりに伸びる枝に多数の赤い実がぶら下がる様子は人目を惹きやすく、野鳥もこれを食べに集まる。
葉は長さ5~15mmの小さな卵形。ツゲとよく似た感じで、枝から互い違いに整然と密生する。革質で表面は光沢のある濃緑色。裏面と葉柄には毛を生じる。常緑樹だが、寒冷地では秋に紅葉の後、落葉する。このため半常緑性あるいは落葉性とすることもある。
学名にあるhorizontalisは水平を意味し、枝は多数に分岐しながら横に広がる。樹高は最大1mほどで、かつてはグランドカバー的な使い方も多かった。
5月頃に花、10月以降に果実が鑑賞できるベニシタンの花言葉は「統一」「安定」「変わらぬ愛情」「童心」。主にその葉や果実の姿、冬になっても果実が残る様子などからイメージされたと言う。