読書日記

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モスラの精神史

2008-02-19 22:03:49 | Weblog

モスラの精神史  小野俊太郎   講談社現代新書

 モスラとは蛾の怪獣である。ゴジラやガメラなどの爬虫類の怪獣とは全く違う。モスラはカイコガから連想されたものらしい。そこから養蚕、桑の葉、そして桑の字を含む「扶桑」。これは日本の別称である。すなわち、日本的なイメージを体現させた怪獣なのだ。それが戦後のアメリカナイズされた時代に本拠地であるニューヨークをぶち壊しに行くというストーリー。これはどう見ても戦後の政治的状況のアナロジーだ。敗戦の屈辱を深層に秘めたこの怪獣映画の原作者は実は、中村真一郎、福永武彦、堀田善衛という仏文出身の作家、評論家たちであったことをはじめて知った。 モスラがはるばるインフアント島から日本にやってきたのは、あくまでザ・ピーナッツ演じる双子の小美人を救出するためだ。この美女と怪獣の取り合わせは、アメリカ映画「キングコング」に習ったものだが、モスラには男性的なイメージがないのでいささかインパクトに欠ける。
 その後「モスラ対ゴジラ」でモスラは再登場するが、時代の表象を捨て去った単体としての怪獣ではいかにも弱い。従ってその後、ガメラやギャオスに主役の座を奪われたのはいたしかたのないことだった。モスラはこのようにして我々の視界から消えていったのである。この時点から新しい戦後史が始まった。