読書日記

いろいろな本のレビュー

カラオケ化する世界  

2008-02-23 17:02:49 | Weblog


カラオケ化する世界  ジュウ・シュン フランテスカ・タロッコ 青土社 
個人的に言うとカラオケは好きではない。素人の下手な歌をいくら宴会の二次会だからと言って強制的に聞かされるのはたまったものではない。この日本生まれのカラオケがいま世界中で流行しているらしい。本書は世界各地のカラオケ事情を調べたものだ。韓国、中国、東南アジアで人気だというのはなんとなくわかったが、北米、イギリス、ヨーロッパでも大人気というのは意外だった。カラオケルームの持つ閉鎖性や胡散臭さが西欧の雰囲気と合わない気がしたからだ。ところが、さにあらず。今のカラオケの機器は高性能、場所もオープンなステージで行われるらしい。キリスト教の伝道にも一役かっていると聞いて驚いた。
 カラオケの効用は人間関係をフレンドリーにするところにあるようだ。最初は嫌がっていた人が、しばらくするとまるで別人のようにカラオケファンになる。一種の宗教的陶酔とでも言うべきものか。しからばこのカラオケを世界で最も閉ざされた国、北朝鮮へ持って行って南北融和を図ればどうかという話しが最後に載っている(実際の援助物資の中に入れられたようだ)が、向こうの軍歌ばかり歌われたのでは効果はゼロだろう。もちろん、甘く切ない恋の歌がベストだ。

井伊直弼の首 幕末バトル・ロワイヤル  

2008-02-23 09:35:08 | Weblog

井伊直弼の首 幕末バトル・ロワイヤル  野口武彦 新潮新書

 タイトルはいかにもおどろおどろしいが、野口氏の最新刊である。腰巻に「週刊新潮」大好評連載待望の新書化とある。中味は、部屋住みの庶子から幕府権力の絶頂、大老にまで駆け上がった井伊掃部頭直弼が、桜田門外で水戸浪士に暗殺されるまでの幕末史である。週刊誌で好評というだけあって、読んでいて確かに面白い。まるで小説のようである。情景が具体的で、細部がきちんと書き込まれておりイメージがどんどん湧いてくる。吉村昭の歴史小説を読んでいるような錯覚を覚えた。野口氏は神戸大教授として主に近現代文学を担当される傍ら、小説も書いておられたと記憶する。並みの文章力ではない。所々挿入される警句めいたコメントも司馬遼太郎ほど厭味がなくて、気持ちが良い。それにしても第一次資料を読み込む力はすごい。国文学者の面目躍如たるものがある。
 幕末の歴史を見るとまさに現代日本とイメージがだぶってくる。権力の腐敗、拝金主義、治安の悪化等々。さらにグローバリスムという名の黒船の到来による格差社会の出現。内憂外患に身悶えする状況は幕末と同じだ。
 安政の大獄で井伊直弼が強権を発動して、次々と有為の人材を死罪にしてゆく状況は、太平洋戦争で若者が徴兵され死んで行ったのとダブってくる。本来なら近江のどこか大きな寺の住職になっていて不思議は無かった人物が偶然の積み重ねによって最高権力者になる。野口氏は「歴史がどんなに大きく偶然性で動かされたかの実例は山ほどある。幕末史への井伊直弼の登場は、その最大の見本である。」と言っている。
 権力者が一番行使したいのが人事権だ。これは最高権力者から末端の官僚にいたるまで共通している。人事を盾に部下を黙らせる。小権力を握った木っ端役人風情が踏ん反りかえり、それにお茶坊主か宦官のように擦り寄る手合いの姿は噴飯ものだが、
これはどの世界にも存在する普遍的現象だ。幕末史から学ぶことは多い。