読書日記

いろいろな本のレビュー

戸籍アパルトヘイト国家・中国の崩壊 川島博之 講談社+α新書

2018-01-12 17:46:24 | Weblog
 最近多い中国崩壊本の中でも、以前取り上げた『中国 とっくにクラシシス、それなのに崩壊しない〝紅い帝国〟のカラクリ』(何清漣 程暁農 ワニブックス新書)と同じくらい面白かった。いちいちごもっともと頷いてしまった。戸籍アパルトヘイトとは中国の農民が都市住民に差別されているという意味で、人口は9億人いるそうだ。これに対して差別する側の都市住民は4億人で、中国のGDPを支えているのはこの4億人で、農民は都市戸籍を得ることができず、農民工(出稼ぎ臨時工)として過酷な労働を強いられている。よって中国は13億の人口を擁する大国だと言うが、国を動かしているのは4億人と考えてよいという指摘は目から鱗であった。
 冒頭、貴州省のマオタイ村(マオタイ酒の産地)の夜間のイルミネーションが写真付きで紹介される、観光スポットとして売り出そうとしたが、辺鄙過ぎて観光客はまばら、この事業は習近平の側近だった陳敏爾が2015年貴州省の党委員会の書記をしていた時に起こしたものだ。また遼寧州の営口市(大連から北に200キロ離れた小さな港町)を訪ねた著者は、そこに新幹線が通っていることを指摘。北京と大連を結ぶ新幹線は二つあって、海沿いのこのルートは山側のルートに比べて利用者が少ない。駅前の公園も立派に整備されているが、人がいない。公園近くのマンションも棲む人がいなくて空き家になっている。中国語で「鬼城」というらしい。ここは現首相の李克強が2004年から2007年まで遼寧省の書記をしており、この後すぐに胡錦涛によって政治局常務委員抜擢されている。いずれの場合も書記としての実績作りの公共事業で、出世のために壮大な無駄をしていることを白日のもとにさらしている。トップがこれだから、ましていわんや地方政府の役人をやということになる。中国の経済はこのような公共投資によって発展してきたわけで、これをやめるとたちまち経済成長が止まるというジレンマの状態にある。このことを現代中国研究家の津上俊哉氏が去年の10月共産党大会の習近平の演説の講評を朝日新聞で書いておられたが、正鵠をえた意見で、川島氏と通じるものがある。そしてこのような公共事業を支えるのが、農民工なのである。都市住民は農民工をいわば奴隷のようにこき使うので、中国の会社は基本的にブラック企業である。会社の構造が先進国のものとは明らかに違っているのだ。
 その都市住民から差別されている農民の就職口として有力なのが、人民解放軍なのである。農民にとってはかなりいい就職口で、地位を上昇させるためにわいろを使うことが常態化している書いてある。今、軍のトップがわいろで私腹を肥やしたとして習近平によって逮捕されているが、彼らは基本的に被差別の農民の意識を超えることができず、国家のために命を捧げるという発想がないので、軍隊としてはかなりレベルが低いということだ。この指摘も他ではあまり聞いたことがなかったので、新鮮だった。国家が一枚岩ではないということが中国のアキレス腱といえるだろう。その人民解放軍はロシアから買った空母を改良して遼寧と名づけて就航させたが、これの維持管理にどれほど巨額の費用がかかるかということを指摘して、あと二隻作ろうとする愚を批判している。かつてロシアが失敗したその道をたどっているということらしい。その他、農民をないがしろにすることの危険性を多々述べて、中国の未来はそれほど明るいものではないことを述べている。一読に値する作品だ。