読書日記

いろいろな本のレビュー

定年バカ 勢古浩爾 SB新書

2018-01-05 15:21:44 | Weblog
 勢古氏は『定年後のリアル』(草思社)シリーズでヒットを飛ばした元会社員である。洋書輸入会社に34年間勤務して、59歳で退職。その後再就職はせず、文筆活動を軸に悠々自適の生活をしている。その定年後の日常を淡々と綴ったのが、『定年後のリアル』である。公園やハンバーガー屋で暇をつぶしたり、モーニングサービスを楽しんだりする中で、同類の老人の立ち居振る舞いを細かく観察してコメントしており、誠に面白い。冷めた目で見ているのが私好みだ。公園で暇をつぶす、あるいはハンバーガー屋で食事をする、その中に退職老人の人生が如実に表れるのが何ともいえず、身につまされる。読んでいて同感することが多かった。だからこそベストセラーになったのだろう。
 さて定年後をどう生きるかということについて述べた本が最近非常に多い。近くは、『定年後 50歳からの生き方、終わり方』(楠木新 中公新書)がヒットして、NHKのクローズアップ現代でも取り上げられていた。会社人間だった著者が同類の会社員で定年後をどう過ごしているかをインタビューして、有意義な生活ぶりを書きしるしたものだ。購入しようかどうか迷ったが、結局やめた。図書館で借りて読むほどのことはないという気もしてそのままになっていたが、勢古氏の評価は「可もなく不可もなし」であった。人の生活ぶりを知ったとして、同じことをするわけにもいかず、また出来ないのだから、意味がないと云うのが私の結論だ。著者もこう言っている、なぜ定年の時だけうろたえて先輩たちの経験を読み聞き、専門家の話を聞きたがり、いろいろの情報を知ろうとするのか。むろん先輩たちの経験や識者の忠告を知るのは悪いことではないが、結局、自分は自分なのである。〝定年後〟だって大丈夫にきまっている。(中略)「第二の人生」とか「充実したシニアライフ」などのマスコミ言葉に踊らされないことである。「老後資金は大丈夫か」「長生きするには」などの不安を煽るような言葉に過敏に反応しないことである。どいつもこいつも、あなたの人生なんかにはなんの興味もないのだから。もちろん、だれひとり言葉の責任など取るものはないと。大体これで結論は出ているのだが、かいつまんで第1章から、第8章まで、1 定年バカに惑わされるな、2 お金に焦るバカ 3 生きがいバカ 4 健康バカ 5 社交バカ 6 定年不安バカ 7 未練バカ 8 終活バカ とシニカルにユーモラスに話が展開する。そして最後に第9章「人生を全うするだけ」で締める。
 著者も言う通り、自分の歩んできた人生の文脈をそう簡単に変えることはできないのだから、自分の身の丈に合った生活をすればいいのだ。お金がなければ働けば良いし、あればその額に応じた生活をすればよい。その枠の中で創意工夫を凝らすのが人生の醍醐味といえるだろう。その途中で病を得て、人生が終わってもそれは仕方のないことだ。ジタバタしないように心しておくことだ。