読書日記

いろいろな本のレビュー

中国の大問題 丹羽宇一郎 PHP新書

2014-09-04 05:24:14 | Weblog
 前中国大使で、もと伊藤忠商事会長の中国論である。氏は民主党政権下で中国大使になったが、この人事は民主党としては数少ない良い人事だったと思う。氏は商社マンとして中国相手に長年商売をした経験を生かして、大使時代も中国全土を駆け回って日中友好のために奔走した。従ってその中国論も経験則に裏打ちされたもので、傾聴すべきものが多い。
 尖閣諸島問題で氏は棚上げ論を提唱したが、それが右派の逆鱗に触れ一部のメディアでは国賊扱いするものもあったが、私は棚上げ論は大人の知恵としてこれに賛成する。この棚上げ論は周恩来や小平が述べた歴史があり、ややこしい領土問題で日中がいらぬ神経を使うことを諌めたものだ。
 あの石原元東京都知事の「尖閣を都が購入する」という発言で中国を刺激し、反日デモが一挙に暴発して日本の国益が大いに損なわれた事は誠に遺憾である。その後野田首相は胡錦濤主席の願いを無視して国有化に踏み切ったが、これも最悪の選択だった。石原知事の策略にまんまと載せられてしまった。領土問題はナショナリズムを喚起する危険なテーマで、日本側の対応は拙速の一語につきる。おかげで日中の軋轢は最悪の状態で、現在に至っている。
 丹羽氏はこの状況を予測し、棚上げ論を唱えたのだが、いかんせんこれを弱腰の非国民という不当な評価を下してしまったメディアが多かった。領土を主張するのは大切だが、長いスパンで戦略を練らないと外交は失敗する。その後、自民党政権になって、安部首相の靖国参拝で、再び関係が悪化した。政治的センスを疑うような暴挙であった。
 このような時、中国をじかに知る丹羽氏の中国論は傾聴に値する。この本が売れているというのは、日中友好を願う人が多いということを証明しているわけで、好ましい傾向だと思う。