読書日記

いろいろな本のレビュー

室町幕府崩壊  森 茂暁  角川選書

2012-01-05 15:52:59 | Weblog
 新年明けましておめでとうございます。現在、日本の政治問題では民主党の野田内閣の指導力に不安の目が注がれている。増税問題で党内の軋轢が表面化、離党した議員が「政党絆」を立ち上げて、反民主党を掲げた。身内から造反されて野田首相の心中いかばかりであろうか。政権の基盤が弱いということは政治家にとっては苦痛の種である。これは室町時代においても同様である。室町幕府は三代将軍足利義満の時代に全盛期を迎えるが、その後は有力な守護大名とどう連携して政治を行なうかに腐心してきた。それは権力基盤が脆弱であったことの証左に他ならない。四代将軍義持は後継者をくじ引きで決めることを遺言し、石清水八幡宮でくじ引きの結果、青蓮院門跡であった義円(義教)が六代将軍に決まった。(五代将軍は義持の息子の義量であったが、義持がその仕事をカバーしていた)
 その義教が還俗して足利幕府を担うことになったのだが、例の有力守護大名たちとどのように関わったのかを詳細に記している。義教は十二年の在任中に恐怖政治を実践して、人々から恐れられたのだが、逆に言うと強権を発動せざるを得ないほど幕府の権力が弱かったということだろう。元天台座主として宗教界で君臨した人間が、俗世間で暴君として恐れられるようになったというもの興味深い。衆生済度を旨とする人間が、今度は将軍という立場で平気で人を殺すようになったのだ。
 本書では守護大名との関係のみならず、天皇家との関係についても縷々述べられている。幕府にとって天皇は権威づけの恰好な対象である。例えば元号を換えるためには、将軍が発議して天皇の許可を得ることが一般的であったようだ。その手続きは煩雑で義教も苦労したらしい。何やかやで、還俗した将軍が為政者になることは大変だったことが本書を読むとよくわかる。
 守護大名の後継者問題についても将軍が干渉することが多いのも、彼らとの複雑で重層的な関係の一端であることが理解できる。これが後の応仁の乱の原因になってゆく。結局、義教は赤松満祐に謀殺されて(嘉吉の乱)その一生を終えるが、この事件が幕府崩壊の転換点になった。くじに当たらなければこのようなことにはならなかっただろう。死を前にして義教は何を思ったであろうか。