東京・台東借地借家人組合1

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【判例】 敷金返還請求事件(東京簡易裁判所平成17年11月29日判決)

2008年07月01日 | 敷金・保証金・原状回復に関する判例等

 判例紹介

敷金返還請求事件(東京簡易裁判所平成17年11月29日判決
平成17年11月29日判決言渡 同日判決原本領収 裁判所書記官
平成17年(少コ)第2807号敷金返還請求事件(通常手続移行)
平成17年(ハ)第19941号損害賠償反訴請求事件
口頭弁論終結日 平成17年11月22日


                   判         決
                   主         文

1 被告(反訴原告)は,原告(反訴被告)に対し,13万6000円及びこれに対する平成16年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告(反訴原告)の反訴請求を棄却する。
3 訴訟費用は,本訴反訴を通じて被告(反訴原告)の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。


                   事 実 及 び 理 由
第1 請求
 1 本訴請求
 主文1項と同旨
 2 反訴請求
 反訴被告は,反訴原告に対し,4万4390円及びこれに対する平成16年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。


第2 事案の概要
  1 請求原因の要旨

 原告(反訴被告)(以下,原告という。)とA株式会社との間で,平成8年3月ころ締結した東京都杉並区○○a丁目b番c号所在のBマンションd号室(以下,本件居室という。)の賃貸借契約(その後,2年ごとに更新され,平成14年3月1日最終の賃貸借契約(更新契約)を締結し,期間満了後の平成16年3月1日に法定更新された。

 被告(反訴原告)(以下,被告という。)は平成16年7月22日所有権を取得し,賃貸人の地位を承継した。)に関し,原告が預け入れた敷金13万6000円について,平成16年9月23日本件居室明渡し(同日賃貸借終了)に基づく,原告の被告に対する前記敷金及びこれに対する遅延損害金の支払請求。

2 抗弁及び反訴請求原因の要旨
 (1) 原告とA株式会社間の上記1の更新契約においては,原告が本件居室内の汚損や破損による損害を賠償する義務を負うことが約され,また,原被告間には,平成16年9月22日,原状回復(修繕)に関する費用負担の合意があるから,これらの合意に基づいて原告が負担することになった原状回復費用18万0390円を敷金から控除すると,原告に返還すべき敷金はない。

 (2) 原告の被告に対する敷金を控除した原状回復費用残額4万4390円及びこれに対する遅延損害金の支払請求。


3 争点
 原告の負担する原状回復費用があるか。

第3 当裁判所の判断
 1 賃貸借契約書(甲2)第5条には,「敷金は本契約が終了し借主が明渡し後,本契約に基づく一切の債務,電気・水道・ガス等の未払金及び損害金を差引き,借主にその差額を返還するものとし,損害金の中には,(1)畳・襖・壁,床,天井・ガラス・ドア(室内外)・その他の汚損,破損。(2)換気扇・ガス台・流し台・浴室・浴槽・風呂釜・湯沸し器・トイレ,網戸,エアコン等の汚損・破損,この回復に費用を要する時。」などと合意され,また,第6条には,借主の修理費負担部分の合意がされ,さらに,第11条には,「明渡しの時は,原状に復するものとし,又,借主は故意及び過失を問わず,本物件に損害を与えた場合は直ちに原状に復し,損害賠償の責に任ずるものとする。」と合意されているが,これらの趣旨は,借主が賃借開始当時の原状に回復すべきこと,つまり自然損耗等についての原状回復費用も負担することを定めたものといえる。しかし,貸主において使用の対価である賃料を受領しながら,賃貸期間中の自然損耗等の原状回復費用を借主に負担させることは,借主に二重の負担を強いることになり,貸主に不当な利得を生じさせる一方,借主には不利益であり,信義則に反する。そして,上記第5条の合意は,原状回復の内容をどのように想定し,費用をどのように見積もるのか,とりわけ,自然損耗等に係る原状回復についてどのように想定し,費用をどのように見積もるのか,借主に適切な情報が提供されておらず,貸主が汚損,破損,あるいは回復費用を要すると判断した場合には,借主に関与の余地なく原状回復費用が発生する態様となっている。このように,借主に必要な情報が与えられず,自己に不利益であることが認識できないままされた合意は,借主に一方的に不利益であり,この意味でも信義則に反するといえる。そうすると,自然損耗等についての原状回復義務を借主が負担するとの合意部分は,民法の任意規定の適用による場合に比べ,借主の義務を加重し,信義則に反して借主の利益を一方的に害しており,消費者契約法10条に該当し,無効である。

2 被告は,原告との間で原状回復(修繕)に関する費用負担の合意がされたとして,引渡立会負担区分合意書(乙1)を提出するが,原告は,被告代表者から明渡しが完了したので署名して欲しいと求められたので署名したものであり,その際,負担者欄の負担者を示す丸印は記載されていなかったし,修繕費用を負担する趣旨で署名したものではない旨供述する。そうすると,被告代表者の供述及び合意書から,原告が被告との間で費用負担の合意をしたと認めることはできず,他に合意をしたと認めるに足りる証拠はない。

3 以上から,自然損耗等についての原状回復費用に関する部分は,上記1のとおり無効であり,また,原被告間に費用負担の合意がないのであるから,原状回復費用の負担については,民法の規定に従い,借主が故意又は過失によって毀損したり,あるいは通常の使用を超える使用方法によって損傷させた場合に,その回復費用を借主の負担とすべきであるが,本件居室の汚損状況を写した写真(乙2)によれば,原告が明け渡した際に,壁等がカビ等で汚損されている事実を認めることができる。しかし,他方,原告本人の供述及び陳述書(甲4)によれば,原告は,賃借する際に,改装工事もなく前借主が使用していた状態,いわゆる居抜きの状態で入居したものであり,入居当初から多少のカビが生えていたところ,南北にしか通気がなく風通しも十分でない構造も影響して,その後改装工事もなされないまま8年間使用し続けてきた結果,カビが広がったものである事実を認めることができるし,また,通知書(甲7)によれば,原告は,前貸主A株式会社から更新時期の前である平成15年10月ころ,本件建物の老朽化を理由に平成16年12月までに明け渡すように求められていた事実も認めることができるから,これらの事実に照らして考えると,前記カビ等で汚損している事実から原告の故意又は過失による毀損,あるいは通常使用を超える使用方法による損傷と推認することはできず,他に原告の故意過失等によって損傷を与えたとする事実を認めるに足りる証拠はない。

 そうすると,原告の負担すべき原状回復費用を認めることができないから,被告の抗弁事実及び反訴請求原因事実は認めることができず,原告の本訴請求は理由がある。


         東京簡易裁判所少額訴訟4係

                      裁 判 官   行  田    豊

 

東京・台東借地借家人組合

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