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【Q&A】 賃貸人が死亡し複数の相続人がいる場合は遺産分割が確定するまで供託をする

2008年09月02日 | 弁済供託

 (問) 先日、賃貸人が死亡した。相続が完了していないのに、その長男から自分の銀行口座に賃料の全額を振込むよう指示された。その通り支払った方がよいのか。


 (答) 相続人間で賃貸物件の遺産分割を巡って争いがある場合に、各相続人がそれぞれ単独で賃料等を請求することがある。賃借人の対応によっては「二重払い」、或いは「債務不履行」よる契約解除」が惹起されるので注意したい。

 争いがある場合は、被相続人の死亡から遺産分割までの間に相当の日時を経過することとなるので、その間の相続財産である不動産から生じる賃料の帰属については、従来考え方が分かれていた。

 共同相続人は、相続開始の時点から遺産分割がされるまで、遺産をその法定相続分の持分で共有することになる(民法898条)。反面、遺産分割の効力は、相続開始の時に遡って生ずる(民法909条本文)とされていることから、元物たる財産を取得した相続人に法定果実(賃料、利子など)も帰属するとの考え方(遡及的帰属説)と法定果実自体共有されるとする考え方(共同財産説)との考え方の違いがあった。

 この点、最高裁平成17年9月8日判決(判例時報1913号62頁)は、次の通り、共同財産説の立場を採った。

 「遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。」

 即ち、相続開始から遺産分割が確定するまでの間に発生した不動産の賃料収入は、分割協議の結果に拘らず、その相続財産の共有の割合応じて(遺言による相続分の指定がある場合は、その指定相続分により、それ以外の場合は、 法定相続分で)分けるべきとの判断を示した。

 賃借人は、賃貸人の死亡により相続が発生した場合、賃料について、各共同相続人からその相続分に応じて支払請求を受けることになる。だが、賃借人は、通常、誰が相続人か判らない場合が殆どである。

 また、遺産分割協議が確定した後は、相続人から賃料の支払い請求を受けることになる。しかし、遺産分割協議の成否について、関係者でない賃借人には判らないのが通常である。

 従って、今回の最高裁判決対策としては、賃貸人が死亡した場合、相続人全員により賃料支払用の銀行口座が指定されない限り、「債権者不確知」を理由とした供託(民法494条)による対処をせざるを得ない。また、遺産分割協議書が別途提示されでもしない限り、そのまま供託を続けざるを得ない。

  尚、債権者不確知(賃貸人が死亡し相続人が不明の場合)の弁済供託をする場合、
(1)供託書の「被供託者の住所氏名」の欄には死亡した賃貸人(例えば鈴木一郎の場合)の確認できた範囲で最後に住んでいた「住所と郵便番号」及び「鈴木一郎の相続人」と記入する。

(2)「供託事由」の欄は「賃貸人が死亡し、その相続人の住所・氏名が不明のため」と記入する。そして、「☐債権者を確知できない。」にチェックをいれる。 


(*)
(1) 賃貸人が死亡した場合、賃借人は相続人の有無を戸籍関係について調査する必要はなく、相続人が不明であるときは、債権者不確知を事由に、賃料の弁済供託をすることができる(昭和38.2.4 民事甲351号 民事局長許可)。

(2) 債権者が死亡し、相続人が不明のため債権者を確知し得ないという事由で供託する場合には、被供託者の表示を「住所何某の相続人」とするのが相当である。この場合には、相続人の有無及び相続放棄の有無などを調査する必要はない(昭和37.7.9 民事甲1909号 民事局長許可)。

 供託書の記載例 (債権者不確知の場合


    

最高裁平成17年9月8日判決こちら

 

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【判例】 *弁済供託における供託金取戻請求権の消滅時効の起算点

2008年04月01日 | 弁済供託

 判例紹介


平成13年11月27日 最高裁判所第三小法廷判決 平成10(行ツ)22 供託金取戻却下決定取消請求事件(第55巻6号1334頁)

(判示事項)
 1 弁済供託における供託金取戻請求権の消滅時効の起算点
 2 債権者不確知を原因とする弁済供託に係る供託金取戻請求の却下処分が違法とされた事例

(要旨)
 1 弁済供託における供託金取戻請求権の消滅時効は,過失なくして債権者を確知することができないことを原因とする弁済供託の場合を含め,供託者が免責の効果を受ける必要が消滅した時から進行する。

 2 過失なくして債権者を確知することができないことを原因として賃料債務についてされた弁済供託につき,同債務の各弁済期の翌日から民法169条所定の5年の時効期間が経過した時から更に10年が経過する前にされた供託金取戻請求に対し,同取戻請求権の消滅時効が完成したとしてこれを却下した処分は,違法である。

(参照法条)
供託法8条2項,民法166条1項,民法167条1項,民法169条,民法496条1項

(内容)
件名  供託金取戻却下決定取消請求事件
      (最高裁判所 平成10(行ツ)22 第三小法廷・判決 棄却)
原審  平成9年8月25日 東京高等裁判所 (平成9(行コ)33)

 


主    文

 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。


理    由

 上告代理人細川清,同富田善範,同野伸,同久留島群一,同小笠原正喜,同大竹たかし,同浜秀樹,同小濱浩庸,同高田秀子,同福本修也,同冨永環,同森和雄,同伊藤泰久の上告理由について

 本件は,被上告人が,賃借していた建物の賃貸人が死亡した後にその相続人であるなどと主張する複数の者から賃料の支払請求を受けたため,過失なくして債権者を確知することができないことを原因として供託をした後,その取戻しを請求したところ,供託金取戻請求権は各供託の時から10年の時効期間の経過により消滅したとしてこれを却下されたため,その取消しを求めている事案である。

 弁済供託は,債務者の便宜を図り,これを保護するため,弁済の目的物を供託所に寄託することによりその債務を免れることができるようにする制度であるところ,供託者が供託物取戻請求権を行使した場合には,供託をしなかったものとみなされるのであるから,供託の基礎となった債務につき免責の効果を受ける必要がある間は,供託者に供託物取戻請求権の行使を期待することはできず,供託物取戻請求権の消滅時効が供託の時から進行すると解することは,上記供託制度の趣旨に反する結果となる。そうすると,【要旨1】弁済供託における供託物の取戻請求権の消滅時効の起算点は,過失なくして債権者を確知することができないことを原因とする弁済供託の場合を含め,供託の基礎となった債務について消滅時効が完成するなど,供託者が免責の効果を受ける必要が消滅した時と解するのが相当である(最高裁昭和40年(行ツ)第100号同45年7月15日大法廷判決・民集24巻7号771頁参照)。

 【要旨2】本件においては,各供託金取戻請求権の消滅時効の起算点は,その基礎となった賃料債務の各弁済期の翌日から民法169条所定の5年の時効期間が経過した時と解すべきであるから,これと同旨の見解に基づき,その時から10年が経過する前にされた供託に係る供託金取戻請求を却下した処分が違法であるとした原審の判断は,正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない。論旨は,採用することができない。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。


 (裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田昌道 裁判官 濱田邦夫)

 


 

 

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課税台帳閲覧問題で総務省と懇談

2008年03月29日 | 弁済供託

 東京都主税局が固定資産税課税台帳の閲覧・証明書に関して、契約書がなく供託書のみの提示では、借地借家人であると確認できないとする見解を発表した。

 東借連では昨年11月1日に主税局交渉を行い、主税局に回答を求めていた件で1月に主税局より総務省に照会した結果の報告があった。

 全借連と東借連では、2月22日午後1時30分から総務省が東京都に回答した問題について懇談を行なった。総務省自治税務局固定資産税課より小池信之理事官、山中日出男企画係長等が出席した。

 懇談の中で、借地借家人に対して課税台帳は原則公開することが確認され、契約が切れている場合に何を持って権利のある賃借人であるかどうか確認できるかが問題となった。

 総務省は「真の賃借人であるかの立証責任は借地借家人の側ではなく税務当局にある」と答弁し、東京都は契約書のあるなしだけで形式的に判断していると指摘し、権利のある借地借家人には公開しなければいけないと強調した。

 なお、都税事務所の窓口で契約が法定更新している場合には権利がないとする対応は誤りであると明確に回答した。

 

東京借地借家人新聞より


参考記事
借地借家人へ固定資産課税台帳公開 (東京・台東)

 

全国借地借家人新聞より

 

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(問題14) 地主の死亡と地代の支払先

2007年10月09日 | 弁済供託

 (問題14) 地主の死亡と地代の支払先
 地主が亡くなった。今までは亡くなった地主の銀行口座に地代を送金していた。亡くなった直後に、複数の相続人の一人より、地主が経営していた会社の銀行口座に地代を送金するよう指示されたが、その通り支払った方がよいか。


 (① 地主の相続人の指示通り送金する。  ②相続人が不確定なので法務局に供託する。)

 解答・解説は田見高秀弁護士(東借連常任弁護団)です。


 (解答)
 一応,「①地主の相続人の指示通り送金する。」ことで良いと考えられるが,2005(平成17)年に最高裁判例(後記)が出て,「② 相続人が不確定なので法務局に供託する。」の方が無難となった。

 (解説)
 共有不動産の賃貸での,賃料債権は不可分債権

 東借連【借地借家人新聞】2004年4月15号第469号
 借地借家相談室
 共有による複数の貸主に対して賃料は別々に持分割合に応じて払うのか

  (問) 建物や土地の所有者が死亡し、複数の相続人による共同相続により、単独所有から共同所有によって建物や土地が共有に変わった。その場合、借主は賃料を各人に分割し、それぞれの相続割合に応じて各人にそれぞれ支払わなければならないのか。

  (答) 土地や建物の貸主が死亡した場合、相続人は土地や建物の所有権を相続すると同時に貸借関係についての貸主の地位を承継する。相続人が数人あるときは、相続財産は、共同相続人の共有に属する(民法898条)。

  最近は、不動産小口化商品の1つとして投資者等が細分化された建物の共有持分を買受けるケースが多くなっている。

 共同相続人や共有持分取得者が貸主人の地位を承継した場合貸主が複数になる。その場合、借主は相続割合に応じて賃料を各人にそれぞれ分割して支払わなければならないのか、それとも、貸主の内の1人に賃料を全額支払えば、それで全員に弁済したことになるのかが問題になる。

  この問題に対して、共有物件の賃料は「不可分債権」であるという判例(東京地裁1972年12月22日判決)がある。

  家賃・地代は金銭で支払う債務であるから一見したところは分割債務とするのが素直なように思われる。即ち分割が出来る可分債権に思える。しかし、共有賃料を可分債権とみなすと色々不都合が生じる。

  例えば貸主の各自は自分の共有持分の賃料しか請求・受領が出来ないし、借主からすれば、複数貸主の各人に別々に賃料を支払わなければならず、どちら側からも不便である。

 そこでこの不都合を避けるために判例は、共有賃料はその性質上不可分債権とみなした。
①不可分債権には性質上不可分給付と意思表示による不可分給付がある。
不可分債権においては、債権者の1人が債務者に履行を請求すると、総ての債権者が履行を請求したのと同様の効果が生じる。
債務者が債権者の1人に履行すると、総ての債権者に履行したものと同様の効果が生じる
(①②③は民法428条)。

  このことから、共有賃料は共同貸主の内の1人に賃料の全額を支払えば、それで総ての貸主に弁済したことになる。

 弁済供託を行う場合も同様に考えればよいことが判る。

 


 下記の最高裁判決が,遺産分割未了の共有不動産の賃料債権は,各相続人の単独債権としたことから,供託が無難

 相続と賃料/共同相続における遺産分割までの不動産賃料の行方
解説
  川島法律事務所 弁護士 早川篤志

 オーナーの死亡により相続が発生した場合において、相続人が複数存在するときは、オーナーが所有していた不動産は、相続人の共有となります(民法第898条)。その後、遺産分割協議が成立した場合、当該不動産を相続した者は、遺産分割の効力が相続開始時にさかのぼる(民法第909条)として、相続開始後に発生した当該不動産の法定果実である賃料も相続開始時にさかのぼって取得することになるのでしょうか。

 それとも、当該賃料自体は、遺産ではない以上、相続開始時にさかのぼることはないのでしょうか。

 本判決は、相続開始から本件遺産分割決定が確定するまでの間に不動産から生じた賃料債権は、相続人がその相続分に応じて分割単独債権として取得し、確定的に取得した賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないと判断しており、実務上参考になると思われるので紹介します(最高裁平成17年9月8日判決、最高裁ホームページ)。

 1 事案の概要
 (1) Fは、平成8年10月13日、死亡しました。その法定相続人は、妻であるBのほか、子であるA、C、D及びE(以下、この4名を「Aら」といいます)です。

 (2) Fの遺産には、第1審判決別紙遺産目録1(1)~(17)記載の不動産(以下「本件各不動産」といいます)があります。

 (3) B及びAらは、本件各不動産から生ずる賃料、管理費等について、遺産分割により本件各不動産の帰属が確定した時点で清算することとし、それまでの期間に支払われる賃料等を管理するための銀行口座(以下「本件口座」といいます)を開設し、本件各不動産の賃借人らに賃料を本件口座に振り込ませ、また、その管理費等を本件口座から支出してきました。

 (4) 大阪高等裁判所は、平成12年2月2日、同裁判所平成11年(ラ)第687号遺産分割及び寄与分を定める処分審判に対する抗告事件において、本件各不動産につき遺産分割をする旨の決定(以下「本件遺産分割決定」といいます)をし、本件遺産分割決定は、翌3日、確定しました。

 (5) 本件口座の残金の清算方法について、BとAらとの間に紛争が生じ、Bは、本件各不動産から生じた賃料債権は、相続開始の時にさかのぼって、本件遺産分割決定により本件各不動産を取得した各相続人にそれぞれ帰属するものとして分配額を算定すべきであると主張し、Aらは、本件各不動産から生じた賃料債権は、本件遺産分割決定確定の日までは法定相続分に従って各相続人に帰属し、本件遺産分割決定確定の日の翌日から本件各不動産を取得した各相続人に帰属するものとして分配額を算定すべきであると主張しました。

 (6) BとAらは、本件口座の残金につき、各自が取得することに争いのない金額の範囲で分配し、争いのある金員をAが保管し(以下、この金員を「本件保管金」といいます。)、その帰属を訴訟で確定することを合意しました。 本件は、Bが、Aに対し、B主張の計算方法によれば、本件保管金はBの取得すべきものであると主張して、上記合意に基づき、本件保管金及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成13年6月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるものです。

 2 裁判所の判断
 遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。

 したがって、相続開始から本件遺産分割決定が確定するまでの間に本件各不動産から生じた賃料債権は、B及びAらがその相続分に応じて分割単独債権として取得したものであり、本件口座の残金は、これを前提として清算されるべきである。そうすると、上記と異なる見解に立って本件口座の残金の分配額を算定し、Bが本件保管金を取得すべきであると判断して、Bの請求を認容すべきものとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。

 3 コメント
 本判決は、
(a)相続開始から遺産分割までの間に遺産である賃貸不動産から生ずる賃料債権は、遺産とは別個の財産、
(b)各共同相続人は、これをその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得する、
(c)賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けない、
と明確に判断しています。

 本判決により、テナントは、オーナーの死亡により相続が発生した場合、賃料について、各共同相続人からその相続分に応じて支払請求を受けることになります。もっとも、テナントには、そもそも誰が相続人か分からないのが通常であると思われます。また、遺産分割協議が成立した後は、当該不動産の相続人から賃料の支払い請求を受けることになりますが、同様に、遺産分割協議の成否について、関係者でないテナントには分からないのが通常であろうと思われます。テナントとしては、オーナーが死亡した場合、相続人全員により賃料支払用の銀行口座が指定されでもしない限り、債権者不確知を理由として供託による対処をせざるを得ないと思われます。そして、遺産分割協議書が別途提示されでもしない限り、供託を続けざるを得ないと思われます。

 

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【判例紹介】 家賃の増額請求の際の内金受領が賃料の受領拒否に当たるとされた事例

2007年08月17日 | 弁済供託

 判例紹介

 賃借人が家賃増額請求されたにもかかわらず従前の賃料を提供したところ、賃貸人が賃料の一部として受領する旨申出たことが民法494条の受領拒絶に当たるとされた事例 (東京高裁昭和61年1月29日判決、判例時報1183号88頁以下)

 (事案)
 賃貸人Xは賃借人Yに対し、昭和57年7月1日から同年4月1日に実質上増額されていた従前の月額12500円の賃料を、月額15000円に増額する請求をしていたところ、同年9月に、同年8月分の賃料として従前の12500円を持参したYに対し、更に同年10月1日から月額25000円に増額請求をしたうえ、「持参した賃料は増額された賃料の一部として受領する」旨述べた。

 賃借人Yは賃料の受領を拒絶されたとして、従前の賃料を供託した。
  賃貸人Xは、この供託の効力はないとして賃料不払による契約解除をなし建物の明渡しを求めていた事案である。

 (判旨)
 「借家法7条2項によれば、賃料の増額を正当とする裁判が確定するまでは、賃借人は相当と認める賃料を支払えば足るのであるから、その間の相当と認める賃料支払は、債務の本旨に従った弁済に当たると解することができるのであり、特に増額請求が理由のない場合には、実質的に見た場合にも、これが一部弁済に当たる余地はないのである。他方、賃貸人が、賃料弁済の提供を受けた際内金(賃料の一部)として受領する旨述べることは、特段の事情のない以上、賃料の全額の弁済として提供されるのであればその受領を拒絶する趣旨を含むものと解することができる」

 (寸評)
 賃料の内金受領の意味が、受領拒絶に当たるかどうか争われた事例は、この他にもあった。本件とやや事実関係をことにする事案では供託を無効とした判例もある。短期間に2度にわたる理由のない増額請求がなされたという本判決の事実経過に照らせば判旨に異論はない。

 しかし、内金受領がすべて受領拒絶の意味を含むとは言えない。従って、日常の取扱井は、現実の提供を成し、「内金」「一部」といわれても賃料を受領させた方が安全といえる。

(1987.04.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 


内金受領に関してはこちらも参考にして下さい。

 

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【判例紹介】 借地人提供の地代を地主が内金として受領したことが受領拒絶に当たる

2006年10月02日 | 弁済供託

 判例紹介

 地主が地代値上げ請求後、借地人から従前額の地代の支払を受けるに際してこれを内金として受領する旨通知したことが、原則として賃料全額の支払に対する受領拒絶に当たるとして、弁済の提供を欠く供託が有効とされた事例 東京地裁平成5年4月20日判決、判例時報1483号59頁)

 (事実)
 地主が借地人に対して、従前額の約6倍の時代値上げ請求をしたところ、借地人はこれを不当と考え従前額の地代を銀行振込で支払った。 

 ところが、地主は借地人に対し、振込まれた従前額を増額請求した地代の一部として受け取る旨通知した。そこで借地人は、以後、地主に提供することなく、従前額の地代を供託した。

 その後、土地の相続人から借地人に対し賃料不払を理由に借地契約を解除する旨の意思表示をして、建物収去土地明渡請求訴訟を提起した。

 (争点)
 地主が借地人の提供する従前額の地代を内金として受領する態度をとったことが受領拒絶に当たるかどうかである。

 (判決の要旨)
 裁判所は、借地人は値上げを正当とする裁判が確定するまでは相当と認める地代の支払義務を負担するが、これは必ずしも客観的な相当な地代であることを要しないのであるから、相当と認める額の地代の支払は債務の本旨に従った弁済であって一部弁済ではない。したがって、地主が地代の内金として受領する旨意思表示をしたことは、特段の事情がない本件においては、地代全額の支払として受領拒絶するとの意思を明らかにしたものと解するのが相当として、弁済の提供を要せずして受領拒絶を理由として直ちに供託をすることができ、地代不払の債務不履行はないとした。

 (短評)
 賃貸人からの賃料増額請求に対し賃借人が相当賃料として従前額を提供したとき、賃貸人がこれを賃料の内金として受領すると主張する事例がしばしばみられる。

 この場合、賃借人としては、賃貸人から賃料の一部であると言明されながら、これを支払うことは、残りの賃料差額の支払義務を暗に認める結果になるのではないかと危惧し、他方では(一部とはいえ)賃料として受領するという以上、強いて、これを持ちかえって供託をした場合その供託が有効かどうかと思い迷うものである。

 本判決は、内金受領の意思表示は賃料全額の支払としては受領拒絶するとの意思を明らかにしたものと解したもので、賃借人にとっては、活用できる判決といえる。

 しかし、他方、裁判例の中には増額賃料については裁判で確定するから従前賃料額を持参されたい旨の催告があったにもかかわらず、現実の提供することなくした供託が無効とされた例がある名古屋地裁昭和47年4月27日判決、判例時報689号92頁)。裁判例が分かれている以上、実務的には、賃貸人が賃料内金として受領する場合には、賃借人としては支払った上、それが賃料全額であることを明確にしておくというこれまでの方針を引続き採るべきであろう。       

(1994.05.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


【判例紹介】 家賃の増額請求の際の内金受領が賃料の受領拒否に当たるとされた事例

 

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【判例紹介】 管理会社に賃料を払っていた借主が貸主に直接払えといわれての供託は有効

2006年07月24日 | 弁済供託

 判例紹介

  賃貸人から賃貸用建物の管理を委託されていた会社に賃料を支払っていた賃借人が賃貸人から直接に賃料の支払いを求められた場合に、債権者不確知を理由として行った弁済供託の効力を有効とした事例 東京地裁平成15年2月19日判決判例タイムス1136号191頁以下。)

(事案)
 建物の賃貸人Xが、賃借人Yに対して、その賃料2か月分が未払いとなっており、遅延損害金を付加して支払えと求めた。

 これに対し、Yは2ヶ月分の賃料は債権者不確知を理由として弁済供託をしており支払義務はないとして争った事案。

 Yが弁済供託をしたのは、建物を賃借していたところ、Xが競売により建物を取得し、賃貸人の地位を承継。Xは承継後、Zに対し建物の管理を委託し、ZとYの間で賃料の改定の合意もされた。その後、XとY間で建物の管理をめぐり争いが生じ、そのことを契機にYは、2ヶ月分の賃料について、債権者不確知を理由に弁済供託した事情にある。

(判旨)
 「前認定事実によればZがYに対して本件建物部分の賃料の支払いを求めて訴えを提起した場合を想定すると、当該訴訟の受訴裁判所が最終的にどのように判断するか否かはともかく、当事者であるYにおいてZがXの単なる代理人にすぎず、Zが自ら当事者能力を有するわけでもなくXに代わって当該訴訟を提起したとしても、いわゆる任意的訴訟担当が許される場合に当たらないとして、Zの請求ないしその前提となる当事者能力を排斥し得ることが明白であったとはいえず、Xを賃貸人と明記した賃貸借契約書も取り交わされないままZがXとの管理委託契約に基づき、賃料も改定し、本件建物部分の明渡しを求める調停も申し立てている事情も併せ考えると、Yにおいて、Zを本件建物部分の賃貸人であるか、賃貸人でないとしても、自ら固有の権限で訴訟上でも、その取立てが可能な権限を有する立場にあると判断してしまうことは無理からないところというべきであって、Zの立場が現に本件建物部分の賃料の固有の取立権者であったとすれば、債権者不確知を理由とする弁済供託にいう「債権者」と同視して差し支えなく、実際にはZに固有の取立権限がなかったとしても、YがZを取立権者であると判断したことに過失はないといわなければならないから、本件供託は少なくとも債務者であるYにおいて過失なく債権者である本件建物部分の賃料の賃貸人ないしその取立権者を確知することができない場合であったとして、有効なものであったと認めるのが相当である」

 (寸評)
 判旨は妥当といえる。Zの立場がXの単なる代理人であった場合には、Zに対する弁済供託の効力は否定されると思われる。参考になる事例として紹介した。

(2004.04.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 

東京・台東借地借家人組合

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OCR供託制度 (東京・台東) 

2005年09月29日 | 弁済供託

     平成15年から地代・家賃の弁済供託の申請システムが変更

 平成15年10月6日から地代・家賃の弁済供託の申請システムが変更された。 供託規則の改正により全国の供託所でパソコンによる供託事務処理システムを利用して、供託書をOCR(光学的文字読取装置)により処理することになった。OCR用供託書による申請以外は受付けられない。OCR供託制度になったことにより供託申請に押印が不要になた。

 このOCR供託制度のメリットは、供託書の記載が供託カードの発行により簡略化されたことだ。 地代・家賃は供託原因が消滅するまで毎月継続して供託されるものである。従って地代・家賃の供託を申請する時に「供託カード」交付の申出をするとOCR用供託書の記載内容を登録したカードが発行される。

  それ以後の供託からは、用紙に①申請年月日②供託者氏名③供託カード番号④供託金額⑤供託する賃料欄を記入するだけでよくなる。以上5ヶ所に記入したOCR用供託用紙に供託カード及び80円切手を添えて供託窓口へ提出すればよい。従来のように封筒を自分で用意する必要はなくなった。

 供託に関して不明の点は、東京法務局民事行政部供託課(電話03・5213・1353)へお問い合わせ下さい。

 

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