知っている人は知っているブラジリアン・ソウルの名作。リオ・デ・ジャネイロで生まれ女優としても活躍していたマリリア・バルボサが1978年にリリースした唯一のLPです。ジャケットがなんだか怖いので中身を知らないとイマイチ食指が伸びにくいアルバムですが、内容的にはわりと充実しており、一部で人気があるのも頷ける一枚。ヴォーカル自体はポルトガル語なものの、全編にわたりブラジル色は希薄なため、レクシアあたりのソフトロック~ポップス系フリーソウルが好きな人ならまず間違いなく気に入ることでしょう。特にテルサのコンピにも収録され、本作が再評価されるきっかけとなったM-1のManifestoは非英語圏の歌謡フリーソウルとして秀逸。いわゆるこみ上げ系のメロディーを持ったミディアムテンポのグルーヴィーなナンバーです。女優ものということもあり歌謡テイストが高めなため、最近巷で人気のブラジリアン・ソウル~AOR系作品とはやや雰囲気が異なりますが、これはこれでフリーソウルの一つの理想形。神戸のディスクデシネがよくセレクトしている70年代のフレンチ系作品辺りが好きな人なら悶絶ものでしょう。ちなみにこの曲以外のナンバーもそれなりの出来となっており、個人的にはA-3のMelodia InacabadaとB-2のTotal Abandonoがフェイバリット。最近は自分の好みがわりとAOR系に傾倒していることもあり、この手の歌謡ナンバーは普段ほとんど聴かないのですが、だからこそこうしてたまに聴くと逆に新鮮で非常に癒されます。ちなみに今回ブログ掲載にあたり少し調べてみたところ、驚くべきことに去年CD化済みとのこと。大手Som Livreからのリリースということもあり、オリジナルのLPもそこまで極端にレアというわけではありませんが、探すのが面倒だという人はCDで購入してみても良いかもしれません。いわゆるAOR的な洗練とは少し異なる立ち位置にあるLPですが、名盤であることは間違いないので、興味のある方は是非聴いてみてください。お勧めです。
一部好事家の間で話題となっている新録作品。ブラジルのシンガーソングライター、エヂ・モッタが先日リリースした一枚です。僕がこの人の名前を始めて意識したのは8年ほど前。当時LPでもリリースされていたPopticalという2003年のアルバムを聴いて、その新譜らしからぬ雰囲気に一瞬で虜になったことは今もよく覚えています。さて、本作はそんな彼の最新作。その思い切りのよいタイトルからも分かる通り、late 70's~early 80'sテイストのAORサウンドをやっています。まぁPopticalの頃から既にそんな雰囲気だったので、彼自身のやっている音楽自体は以前とそれほど変わっていないのですが、折しも数年前からタニマチの間ではMPB以降のブラジリアンソウル~AORが流行中。そんなこともあり、ある意味では時代のニーズに上手くマッチングしたと言える好作になっています。アルバム1枚通してフックとなるような曲が収録されていない点も相変わらずですが、各曲はそれぞれ水準以上の出来となっており、なんとなく部屋で流し聴きするには悪くない一枚かと。個人的にはM-2のS.O.S AmorやM-4のOndas Sonoras辺りがわりと好みです。先日ここでも紹介したジム・ポルトやドン・ベト、それからAOR期のマルコス・ヴァーリなどが好きな方なら、まず間違いなくハマることでしょう。全体的にわりと凝った音の作り方をしているのでスティーリー・ダン好きなんかでもいけるかもしれません。ミキシングのせいなのか、細かな音の質感はやはり現代風なので、さすがに全盛期のサウンドをそのままトレースと言うわけにはいきませんが、少なくともここ数年リリースされた新録の話題作の中では、比較的「あの頃」の作品の再現度が高い部類の一枚と言えるでしょう。新録作品にはまったく興味がないという人でもチェックしてみて損のないアルバム。出たばかりの今のタイミングなら普通に手に入ると思うので、気になる方は是非チェックしてみてください。
ブラジリアンソウル~AORの作品をもう一枚。Luiz Mendes Jr.(ルイズ・メンデス・ジュニオール)なるブラジルのシンガーソングライターが1982年に録音した作品です。CDでは現在のところ未リイシューながら一部では人気が高いアルバムで、ブラジリアンソウル~AOR作品の中では比較的紹介されることも多い作品なので、聴いたことはなくてもジャケットに覚えがあるという方もいるのではないでしょうか。内容的には、ほぼ完全にブラコン~AOR。ポルトガル語で歌っているということを除けばブラジル的な要素はほとんどなく、全体的にとてもアメリカナイズされた一枚となっています。おまけに本場アメリカとは音作りに若干のタイムラグがあるのか、82年という比較的新しい年代の作品ながら、サウンド的には70年代後半~80年頃というメロウグルーヴ愛好家にとってもっともオイシイ時期のそれ。これは人気が出るのも納得です。よく紹介されるのは勢いのあるライトファンクなA-1のタイトル曲ですが、個人的に気に入って良く聴いているのはA-4のAgre DoceとB-2のHora H。これらもA-1同様にポップなライトファンクではあるのですが、もう少しメロディーラインや展開が甘い雰囲気で、全体的にライトメロウ受けするアレンジになっているため、その手の音作りが好きな人はきっと気に入るでしょう。逆にしっとりめの曲ではA-2のÓbvioとB-4のVia Aéreaが絶品アーバン・メロウ。どちらもジャケット写真のイメージ通りな、夜の都会が似合うミディアム~スロー系ナンバーです。昨日紹介したJim Portoの雰囲気が好きならば確実にツボなはず。メンデス自身のヴォーカルも、派手さはないものの程良い甘さでなかなかに悪くないです。なお内容の良さと知名度だけで考えると近いうちにCDになりそうな気もしますが、RCAからリリースされている以上なかなか難しいのかもしれません。とりあえずここで紹介した曲のほとんどは今のところYoutubeでも聴けるようなので、興味のある人はまずそちらで聴いてみてください。ちなみにLPの方の入手難易度はいわゆるミドルクラスと言ったところ。それほど極端にHard To Findというわけでもないので、こまめに探していればそのうち見つかる一枚かと思います。
お馴染みCreole Stream Musicから昨年リイシューされ、一部で話題になった欧州産ブラジリアンAORの佳作盤。ブラジルのリオグランデ・ド・スル州出身のキーボーディスト兼シンガーが、渡欧先のイタリアで現地ミュージシャンと吹き込んだ1984年の作品です。参加メンバーがなかなかに面白く、トランペット・ソロを取るチェット・ベイカーを筆頭に、オスカル・ヴァルダンブリーニやディノ・ピアーナ、さらにはイリオ・デ・パウラなど、クラブジャズの頃に人気の高かったイタリアン・ジャズ界の重鎮がずらり。もっとも演奏面で個性を発揮しているというわけではないので、言われなければ気付かないレベルかと思いますが、話のネタの一つくらいにはなるでしょう。収録曲は84年という時代もあり幾分クリスタルな要素が強く、また特にキラーな曲が収録されているというわけでもありませんが、各曲ともわりと高いレベルでまとまっているので、AOR好きならば買って損はしない内容かと思います。お勧めは両面の冒頭を飾るA-1のSmettila (Pò-Parà) とB-1のChe Sera (Madeira Canto Fatal) 。共にミディアムスローなアーバンメロウ系ナンバーで、フリーソウル指数もそこそこ高いため、メロウグルーヴ愛好家ならば満足してもらえる内容かと思います。特に同じイタリアのアラン・ソレンティのFigli Delli Stelleあたりが好みな人はおそらくツボな音でしょう。アーバンダンサー系ナンバーが好きな人にはA-2のSomos Todos ColossaisとB-3のSei Musica (Cosme, Damiao, Doum-Pirulito) がお勧め。ちょっとクリスタル成分が強すぎる感はありますが、これはこれでなかなかの出来です。ブラジル人らしいボサノヴァ系AORなA-3のSapato Furadomoも良い雰囲気。正直これという決め手にはかける作品ですが、たとえば夜カフェなんかのBGMとしてはその地味さが逆に上手く機能するのではないかと思います。特別耳に残る曲こそないものの、なんとなく聴くものにお洒落な音楽という印象を与える作品なので、そういう雰囲気が好きな人は買ってみてもよいかもしれません。アナログもそれほど極端に高いというわけではありませんが、こういう作品は個人的にCDでの入手がお勧め。いつも通りリイシューは初回限定と言う話でしたが、今なら多分まだ普通に買えると思います。興味のある人は是非どうぞ。
数年前から一部メロウグルーヴ愛好家に注目されているのが、ブラジリアンソウルやブラジリアンAOR等と呼ばれる70年代~80年代のブラジル産ポピュラー音楽。広義ではカフェブームの頃に流行ったジョイスやタニア・マリアらと同じ、いわゆるMPB(Música Popular do Brasileira)の範疇に属する音楽なのですが、近年人気のあるこれらの作品群は、もう少しストレートに同時期のアメリカンポップスを指向しているのが特徴で、さながらブラジル産シティポップスと言った趣となっています。特に人気のある作品については、ボサノバに代表されるブラジル音楽らしさも希薄~皆無なものが多数を占めるため、ポルトガル語で歌われているということを除けば、モダンソウル~AORファンでもほとんど違和感なく聴けるものがほとんど。そして、そんなブラジリアンAOR作品の中で定番にして決定版な一枚が本作です。まるでサイケデリック・フォークでもやりそうなジャケットに誰しも最初は騙されると思いますが、内容的には全編に渡りアーバンかつライトメロウかつグルーヴィー。正にフリーソウル世代が求めるAORの要素が詰まった作品と呼べるかと思います。そう言った意味で個人的に一番作風が近いと感じているのはアーチー・ジェイムス・キャヴァナーによる1st。あれが好きならまず間違いなくハマる作品でしょう。特にA-4のタイトル曲やB-2のTudo Novamenteあたりは、このジャンルのパーティーにおいては完全にアンセム化しているナンバーなので必聴かと。個人的にはB-5のRenascendo Em Mimが一押し。以前も書きましたが、リチャード・ステップのCaught In A Whirlwindと相性抜群な絶品アーバンミディアムダンサーで、自作コンピでも2曲続けてフック的に使わせて頂きました。英語の曲の中にふと入るポルトガル語が良いアクセントになるので、そういう意味では非常にDJ向けの作品と言えるかもしれません。ちなみにLPは大手Som Livreから出ているものの多少レアな上、ブラジル盤の特性上きれいな盤に出会うことは稀です。国内盤/輸入盤ともに現在ではCDでもリイシューされていて音質的にも良好なため、こだわりのない方はそちらでの入手がお勧めかと。まだ廃盤扱いにはなっていないと思うので、容易に手にすることが出来ると思います。
今や完全にブラジル音楽のマスターピースと化したTristeza、フリーソウルで非常に人気の高かったThe Real Thing、さらにはWill I Amとの共演で話題となったTimelessから、意外なまでの正統派でヨーロピアン・ジャズ好きにも大いにアピールした初期のジャズ作品まで、各時代ごとに人気曲のある彼の中では比較的語られることの少ないブラジル88名義での作品。この4年後に有名な車ジャケットの本人名義のリアルタイム派向けAOR作品があることもあり、AOR方面で紹介されることも少ない何やら不遇な感のある一枚です。ただ個人的には今セルメンを聴くなら断然この盤が一押し。79年という時代がそうさせたのか、全編テンションの高い歌謡ディスコサンバで構成されており、和モノ歌謡ディスコに通じる良い意味でのいかがわしさと、流行りのブラジリアン・ソウル・テイストが入り混じった独特の仕上がりが今っぽいです。その不思議な魅力がギュッと凝縮されているのがB-4のSummer Dreams。元は「サマーチャンピオン」というタイトルで日本人向けに日本語詞で作られた曲の英詞カヴァーなのですが、ハイテンポで心地よく跳ねるピアノに泣きのサックスと歌謡曲ライクな女性ヴォーカルが乗る正に日本人好みの一曲となっています。オリジナルの日本語版ではどうしても若干ネタ曲っぽくなってしまいますが、こちらの英語版は前後の曲さえしっかり抑えておけば、DJセットの中でもフックになり得る曲なのではないでしょうか。大野雄二のフュージョン作品辺りが好きな人なら間違いなくハマるはず。またもう一つのリコメンドはA-2のLonely Woman。まるでアバのDancing Queenを高速化したようなうれしはずかし系のディスコポップスで、ライトメロウな雰囲気が非常にフリーソウル・フリーク好みの一曲となっています。その他の曲は正直今聴くと少し辛いものもありますが、正直どこでもわりと叩き売りされている類のLPなので、この2曲のためだけにでも充分買う価値ある一枚。ちなみに掲載しているジャケはAlfaから出た国内盤のものです。本国盤のジャケットはいかにもチープな残念な出来なので、どうせ買うならこちらの国内盤の方がおススメ。値段もあまり大差ないです。まだ聴いたことない人はとりあえずレコファンに走ってみることを推奨します。
ブラジルのバッソ=ヴァルダンブリーニ。このところ若干ネタ切れ気味で更新をお休みしていたのですが、めでたく再発も決まったということで久しぶりに紹介をさせて頂きます。巷ではマシャードやハウルジーニョと並んでハード・ジャズ・サンバの傑作として扱われているので、中身は聴いたことなくてもジャケットに見覚えのある方は多いのではないでしょうか。ただ、こうして実際に聴いてみた感想としては、正直それほど「ハード」な音作りではないなという感じ。何を持って「ハード」と表現するかという問題は当然あるのでしょうが、これは他の知人も言っていたことなので、おそらく皆さん同じような印象を受けると思います。最も、だからと言って別にこの盤が悪いと言っているわけでは全然ないので誤解のないようにお願いします。さて、そんな本作の中身ですが、個人的には冒頭にも書いた通り、イタリアのバッソ=ヴァルダンブリーニ楽団、それもExiting 6のような後期作に近い雰囲気と言えると思います。収録曲が全て3分前後の短尺曲であることも共通していますしね。A-1のタイトル曲を筆頭に、A-3のDeixa Prá LáやA-5のInaéなど軽快な3分間ポップ・ジャズ・サンバがずらり。いずれも2管の鳴りが気持ち良く、非常に聴き易い一枚になっています。ちなみに僕が特に気に入っているのはB-1のKaô, Xangô。ジンボ・トリオやサンサ・トリオもプレイしているジョニー・アルフのナンバーですが、ここではそれを洒落た高速ジャズ・サンバにアレンジしていて、かなり格好良い感じです。テノーリオ・ジュニオールのEmbaloと並んで、サニーサイドのインスト・ジャズ・サンバの傑作と言ったところでしょうか。また、少し雰囲気は違いますが、ラストのB-6に収録されたDreamsvilleも黄昏時に良く似合う曲調で良い感じ。オリジナルはかなりの価格で取引されているので、正直気軽におすすめ出来るような盤とは言い難い一枚だとは思いますが、再発が出たら是非皆さんお手に取ってみてください。Exiting 6が好きならきっとハマると思います。ちなみにもう少しハードな雰囲気が聴きたければ、随分前にここでも紹介しましたが、Som Majorから出てるSom/Maiorからリリースされている1stをどうぞ。そちらも合わせて再度オススメさせて頂きます。
その名もオス・サンビートルズなるブラジルのピアノ・トリオによる66年作。例のLondon Jazz Fourの1stと並び、この手のビートルズ・カヴァーものの中でも際立ってセンスの良い作品として、一部でカルト的な人気のある一枚です。それもそのはず、この通り冗談のようなネーミングではありますが、実は本作、この手のジャズ・ボサ・トリオでは良く知られるマンフレッド・フェスト・トリオによる覆面ユニット。従って当然ながら、その演奏スタイルはマンフレッド・フェスト・トリオそのものです。あの上品なセンスでビートルズという上質な素材をボサノバに変換しているのだから、どう考えても悪いはずがありませんよね。と言うか実際かなり良いです。M-3のA Hard Day's NightやM-7のHelpなど、たとえ洋楽好きでなくても一度は聴いたことのある有名曲の数々を、見事なまでに小粋なジャズ・ボッサにアレンジ。音楽の好みは人それぞれだと思いますが、少なくともこの雰囲気が嫌いな人はいないのではないでしょうか。それくらい万人受けしそうな一枚です。中でもクラブ世代以降の方々にオススメなのはM-9のAll My Loving。全収録曲中で最もノリが良くダンサンブルな演奏に、きっと誰しもハッピーな気分になれるはず。また、個人的に気に入っているのは、バックのオルガンの音色も素敵なM-10のAnd I Love Her。こういう風に比べるのもおかしな話かもしれませんが、僕としてはビートルズのオリジナルより全然好きです。もちろんここに挙げた曲以外も、いずれもとびきりポップな名曲揃い。12曲で30分強とあっという間に終わってしまう作品ですが、終わった瞬間ついついリピート・ボタンを押したくなるような素敵なアルバムです。ブラジル音楽好きはもちろんのこと、セルジュ・デラート・トリオを始めとしたポップ・サイドの澤野作品が好きな人にもオススメ。ただ、残念ながらこのCDは正規の流通ルートには乗ってないブートだそうで、国内の大手CDショップでは取り扱いがない模様。とは言え、海外から取り寄せれば普通に買えるので、興味のある方はお試しください。オリジナルのアナログも頑張れば買えないレベルではありませんが、この辺りのジャズ・ボサとしては若干高め。内容的なものもあり、個人的にはどちらかと言うとCD向きのアルバムだと思います。
独Sabaレーベルにて吹き込まれた素晴らしき一枚。時は1967年。本国ブラジルにおけるブームの終焉と、それに変わり世界各地で起こったボサノバ・ムーブメントにより、当時ドイツを巡業中だったというシルヴィア・テレスらにSabaが声をかけ製作されたアルバムです。さて、そんな本作。メインで参加メンバーに名を連ねているのはシルヴィア・テレスにエドゥ・ロボ、ホジーニャ・ヂ・ヴァレンサらで、そこからも分かる通り基本的にはボサノバが主体の作品なのですが、バック・ミュージシャンとしてドン・サルヴァドールやメイレレースなど例のベッコ・ダス・ガハーファス組が参加していたりもするので、実は意外にジャズ・サンバ~ジャズ・ボサ好きも要チェックな一枚だったりします。特に注目すべきはサルヴァドールらがピアノ・トリオで演じるM-6のMeu Fraco e Cafe Forte。言わずと知れたリオ65トリオのあの名曲の再演です。ただし、本家で見せていたようなアグレッシヴなアプローチは皆無。ここではむしろ、グッとテンポを抑えて大人の雰囲気漂う上質なジャズ・ボサに仕立て挙げられています。あの爆発的な派手さはないものの、さながら真夜中のカフェ仕様と言った趣で質感が非常にオシャレ。澤野工房などの繊細なピアノ・トリオ好きにもぴったりの上品なアレンジで、おそらくその辺りのファンは一瞬で虜になるはず。また、このトリオにメイレレースのフルートを加えたM-5のBarquinho(小船)も抜群。自身のアルバムでは激しくモーダルな世界観を追及していた彼ですが、ここではその雰囲気とは180度路線の異なる可愛らしいプレイを披露。こういう絶妙なバランス感覚は大好きです。ちなみにアナログでもそれほど高くなく買えますが、本作に関して言うならば、むしろ個人的には数年前に出た紙ジャケCDで持っていたい一枚。LPの大きなパッケージよりも紙ジャケのコンパクトさが逆に作品の雰囲気に良く似合うと思います。ただ、この紙ジャケCDも何やら限定盤の模様。まだ普通に買えますが、こういうマイナーな盤は市場からなくなった後に探すの意外にキツいです。そんなわけで興味のある方はお早めに。僕のようにヨーロッパのジャズとブラジル音楽の両方が好きな人にオススメの一枚です。
先日Odeon盤を紹介したムジカノッサ(68年のボサノバ復刻ムーヴメント)絡みの一枚。こちらは歌姫クラウデッチ・ソアレスのリリース等で知られるRozenblitからリリースされた盤になります。他の関連シリーズと同じく、本作もアルバム未収録の楽曲(当時の新録なのでしょうか)のみを集めたオムニバス体裁の作品ですが、大御所ジョニー・アルフや既に全くトリオではないTrio 3Dが参加している辺り、もしかしたらわりと豪華な参加メンバーと言えるのかもしれませんね。その御大ジョニー・アルフによるA-1のSamba Do Retornoは、Sexteto Contrapontoなるコンボを従えた軽快なジャズ・サンバ・ヴォーカル。お世辞にも派手な曲とは言えませんが、洗練されたピアノの音色が耳馴染み良い佳曲だと思います。また続くA-2のAlegria Da Carnavalはエキゾチックな雰囲気漂うダンサーで、どこか民族音楽にも通じるフルートが印象的な一曲。既存の枠には収まらないアドルフォの奇才ぶりが現れた好ナンバーと言えるのではないでしょうか。ただ、僕にとっての本作の目玉は、実はこれら大御所の曲ではなく異色のハーモニカ奏者マウリシオ・アインホルン(エイニョルン?)のリーダーによる2曲。例のベッコ・ダス・ガハーファス組で、以前紹介したルイズ・カルロス・ヴィーニャスのアルバムでも特に存在感の際立っていたあの人ですね。あまり詳しくないので何とも言えないのですが、彼の単独自己リーダー名義作品は60年代には他になかったと思います。そんな彼による2曲はどちらも非常に高水準なジャズ・サンバ。特にB-4のSistemaはジャズDJの方々も好みそうな疾走系ナンバーで最高にクールです。と言うよりも、ともすれば牧歌的な雰囲気になってしまいがちなハーモニカという楽器で、ここまで格好良いプレイが出来るという事実が何よりも驚き。もう1曲収録されたA-6のAlvoradaは逆にしっとりとした曲で、真夜中の雰囲気にもぴったりなジャジー・ボッサ。どこかモーダル・ジャズに通じる雰囲気もあるのではないでしょうか。ちなみに例によって、僕は派手なSistemaより洗練されたこちらの曲の方が好きです。そんなにどこにでもあるレコードではないと思いますが、見かけた際には是非チェックしてみてください。Odeon盤に比べると知名度は落ちますが、このブログを普段見て下さってる方ならきっと好きだと思います。