甍の上で

株式会社創瓦 社長 笹原真二のブログです。

朝夕の 寒さは何処に 汗ばんで 暑さ感じる 屋根の上では 

2023-04-28 20:28:40 | Weblog
文化財ではないけれど(明王院の渡り廊下)
 昨年の10月、福山の明王院から見積もり依頼があった。ある意味晴天の霹靂のような驚きがあった。

 明王院は本堂、五重塔が国宝、書院、庫裡客殿、山門が広島県の重要文化財、護摩堂、鐘楼が福山市の文化財。福山が誇る名刹だ。特に本堂(鎌倉時代後期1321年建立)、五重塔(室町時代前期1349年建立)、庫裡客殿は昭和30年代前半、法隆寺の宮大工、西岡常一さん(薬師寺の西塔、金堂を再建)と、瓦工事は昭和の大名人と言われた、井上新太郎さんが改修工事を手がけられ、社寺の瓦工事に携わる者に取って、明王院はある意味聖地であり、ブランド寺院だ。

 そんな明王院からの依頼は、国宝本堂と、広島県の重要文化財庫裡客殿をつなぐ渡り廊下、15坪ほどの小さな屋根。前面は本葺き、後面は、一部本葺きで、鎬桟瓦。渡り廊下は庫裡客殿に付随しているのに、文化財登録されていなかった。

 それでも仕事内容は、文化財仕様で。既存の瓦をなるべく使うようにするということを前提に見積もりをした。

 軒先は、破風に向かって反り上がり、破風の瓦、鬼際の棟は、65年程前、井上新太郎さんが手がけられたと思われる品の良い収まりなのだ。そんな仕事に運良く巡り合うことが出来たことはこの上ない喜びだった。

 今年2月14日、仕事に入った。今後のことも考慮して京都の徳舛瓦店から深町健ちゃんに応援に入ってもらった。既存の瓦を解体した後は、大山時計店さんの葺き替えと重なったため、自分自身が現場に入る事が出来たのは27日。平瓦が葺かれ、これから素丸瓦を納めるようになった頃だった。

 古い瓦が足りなくなれば、以前葺かれていた古い瓦が裏庭にいっぱい積んである。その中で使えそうな瓦を探して再使用する。平瓦は、昨年仕事をさせてもらった胎蔵寺で葺かれていた瓦を既存瓦と同じ寸法に切って使ったりもした。

 古い瓦のほとんどが、豆腐を切るような柔らかい瓦なのだが、時に明らかに質感の違う瓦がある。切断機の刃を入れてみると現代の瓦よりも硬いのだ。手触りは、国宝の本堂に葺かれている軒瓦と同じ質感。もしかして700年前の瓦。ある意味、感動しながら、その古い素丸瓦を面戸瓦に加工した。還元された淡い黄土色にゴツゴツした肌触り。黄緑色の苔が染みついている。タワシで擦っても苔を取り除くことは出来ない。そんな古の瓦と出会えたことに幸せを感じた。

 棟ののし瓦も胎蔵寺で使われていた物を再使用した。仕事は3月8日どうにか終えることが出来た。破風、棟の収まりも上手く納めることが出来たと思っている。この渡り廊下は、文化財ではないけれども、うちに取っては大きな文化財だった。  
                                      令和5年4月28日            笹原 真二

追伸 胎蔵寺のご住職と明王院の奥さんは従姉妹。胎蔵寺で使用されていた瓦を再使用すること等、改めて考えてみるといろんな縁で繋がっていた。
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