11月15日(水)に記載した整形外科から血糖コントロールを依頼された82歳女性のその後。
2週間で血糖コントロールをつけて、大腿骨頸部骨折の手術をすることになっていた。内科医院の処方のDPP4阻害薬(リナグリプチン=トラゼンタ)とメトグルコは継続とした。(レパグリニド=シュアポストは休止)
インスリン強化療法を開始したが、思ったほど血糖は下がらなかった。入院後は空腹時血糖250~260mg/dlで、昼前・夕前の血糖が289~397mg/dlなので、測定していないが食後は300~400mg/dl以上になっているはずだ。
1週間やってみて、空腹時血糖220mg/dl、昼前・夕前の血糖が250~300mg/dlだった。インスリンの量を漸増して、やっと空腹時血糖145~150mg/dl、昼前・夕前の血糖が180~225mg/dlになってきた。
現在、持効型のトレシーバが10単位、食前の超速効型のヒューマログが8単位ずつにしている。さらに増量を要する。思ったより下がりが悪くて、ちょっとあせっている。
空腹時の血中Cペプチドが4.11ng/mLと十分出ていて、もっと少量のインスリンでいけるのかと思ったが、当てが外れた。大腿骨頸部骨折があることで、ふだんよりさらに高血糖になっているということか。
日本医事新報社の記事で下記の「周術期の血糖管理」があった。著者は田村貴彦先生(高知大学医学部麻酔科学・集中治療医学講座講師)。
術前のHbA1cが高い患者では、高めの血糖コントロールでよいともある。整形外科医に納得してもらう必要があるが、多少高めでもいいのかもしれない。
術前血糖管理
糖尿病患者では,良好な血糖コントロールを施行すれば,長期予後の改善が期待できる。糖尿病網膜症や腎症といった細小血管合併症を抑制するためには,空腹時血糖とHbA1cのコントロールが必要である。また,脳血管病変,虚血性心疾患といった大血管合併症を抑制するためには,食後血糖のコントロールが必要である4)5)。
術前の血糖コントロールとしては,空腹時血糖値が130mg/dL未満,食後2時間血糖値が180mg/dL未満,HbA1cが6.5%未満となっていることが望ましいとされている6)。
AAGBI(the Association of Anaesthetists of Great Britain and Ireland)のガイドライン7)によると,HbA1c>8.5%の患者または低血糖意識消失の既往がある患者は,手術前に糖尿病専門医にコンサルトを行うこと,HbA1c>8.5%患者は血糖コントロールが改善するまで待機手術を延期することを推奨している。また糖尿病罹患患者の緊急手術では,血糖値を適宜測定し,高血糖を呈する際には血中・尿中ケトン体を測定し,糖尿病性ケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis:DKA)の発症に留意する。DKAを合併した患者の手術は死亡率が高いため,可能な限り手術を延期する。
SAMBA(Society for Ambulatory Anesthesia)の日帰り手術患者に対する周術期の血糖コントロールの提言8)では,HbA1c 7.0%未満,空腹時血糖値90~130mg/dLならびに食後血糖値180mg/dL未満が望ましいとしている。AAGBIの提言と同様,DKAや高浸透圧性高血糖症候群などを合併している場合は手術を延期するべきである(表1)。
以上より,私案ではあるが, 空腹時血糖値が130mg/dL未満, 食後2時間血糖値が180mg/dL未満,HbA1cが8.0%未満となっていることが望ましいと考えられる。
欧米先進国では,日本の現状とは異なり,図19)に示すように,術前から糖尿病治療チームにより集学的な血糖管理を行う。手術予定患者に随時血糖値を測定し,200mg/dL以上またはHbA1cが8.0%以上であれば,糖尿病治療チームが術前,術中,術後の血糖管理に介入する。したがって,外来の早期の段階から専門チームが介入できるという点で日本とはシステムが異なる。
コントロール不良糖尿病患者の周術期管理
Diabetes Mellitus,Insulin Glucose Infusion in Acute Myocardial Infarction(DIGAMI)studyによると,HbA1cが高値の糖尿病患者の場合,目標血糖値が126~196mg/dLで管理した群が,インスリンを使用しないで血糖管理(平均277mg/dL)した群と比較して1年後死亡率が低かった10)。また,Duke大学の後方視研究の結果,周術期の平均血糖値は30日死亡率の予測因子であったが,術前のHbA1cは30日死亡率とは関連がなかった。術前HbA1cが周術期の血糖値と強い相関があるにもかかわらず,術後死亡率とは相関がないという結果は,周術期の血糖管理により術前HbA1c高値による死亡率の増加を打ち消す効果があることを示唆している11)。これらの結果から,HbA1cが高値であるような糖尿病患者では,周術期の血糖コントロールを実施することで患者アウトカムを改善することが可能である。
しかし一方で,The Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes(ACCORD)studyによると,HbA1c値により2群にわけて血糖降下療法の効果を検討した結果,血糖管理が不良な患者群(HbA1c>8%)では,血糖降下療法で死亡率が上昇し,血糖管理が良好な患者群(HbA1c<8%)における血糖降下療法の効果と比較して有意な差が存在した12)。Krinsleyらによると,ICU入室前のHbA1cが8%以上である糖尿病患者においては,血糖値を140~180mg/dLで管理するよりも180mg/dL以上で管理するほうが死亡率を抑制するとしている。これらの結果より血糖管理が不良な患者では,厳格な血糖降下療法が患者予後を悪化させる可能性がある13)。
以上より,HbA1cが高値の患者では,正常血糖を目標とするのではなく血糖値が180mg/dLを超えるまではインスリンを投与せずに,非糖尿病患者よりも高めの血糖値を目標にコントロールすることが望ましい可能性がある。
糖尿病薬の術前管理
糖尿病患者では既に施されている治療方法やコントロールの良し悪しを確認し,手術直前まで良好な血糖コントロールを継続し,血糖値の乱高下を抑制することが求められる。近年では長時間作用性を有する糖尿病薬が使用されているため確認が必要である。
表2が示すように,術前日まではほとんどの糖尿病薬は継続され,術当日はほぼすべての糖尿病薬は中止されている17)。ただし,SGLT2阻害薬は手術2日前から中止することが推奨されている。中間型・持効型インスリンは前日には80%の投与とし,当日は50%の投与とする。速効型は中止する。
スルホニル尿素薬は心筋のATP感受性カリウムチャネルを抑制するので,麻酔薬によるプレコンディショニングを阻害する可能性がある。DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬などは消化管運動を低下させるため,留意が必要である。
COVID-19の患者が急性期病棟に2名、地域包括病棟に4名いて、病棟看護師もそれぞれ罹患して休んでいるので、現在新規の受け入れが難しくなってしまった。
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COVID-19 はサージカルマスクでは防げない。地域包括ケア病棟の看護師長さんに、どうしたらいいでしょうかと訊かれたので、治まるまでN95マスクを使用するのもある、とお話した。看護師の不安をとるのにも役立つかもしれない。