4月7日金曜日に、低血糖の78歳男性が救急搬入された。救急隊からの連絡では、他院に糖尿病で通院していて、インスリン注射を行っているそうだ。救急隊到着時に血糖測定して、43mg/dlだった。
血管確保できないので、グルコース注はできませんという。会話は可能ということで(10分で病院まで来れる)そのまま来てもらったが、家庭にある砂糖を摂取してもらった方がよかったかもしれない。
搬入時、ぼんやりした印象はあるが会話可能だった。血糖は53mg/dl。グルコース入りの点滴を開始して、50%グルコース20mlを静注した。
娘さんと二人暮らしで、その娘さんが付いて来ていたので話を聞いた。同じ部屋に寝ているそうだ。午前4時ごろに様子がおかしいのに気づいた。呼びかけると返事をするが、手を口に入れるような動作をしていた。どうしてそんな動作をするのか訊いても答えなかった。そのまま2時間くらい様子をみていたが、変わらないために救急要請したのだった。
前日の午前5時ごろにも同様の症状があったが、休ませていたら回復したという。3月半ばの早朝にも同様の症状があった。
グルコース注射後30分には血糖が127mg/dlで、ぼんやりした様子はなくなり、たぶんふだんと同じくらいに会話ができるようになっていた。顔色も赤みがかってきた。上肢・下肢は普通に動く。さらに1時間後の血糖もほぼ同じ値だった。
お薬手帳を見ると、ヒューマログミックス25を朝に30単位、夕に20単位になっている。経口血糖降下薬はSGLT2阻害薬のジャディアンス10mg1錠朝が出ていた。
患者さんにインスリンの種類を訊くと、さらに就寝前にトレシーバ10単位皮下注もしているという。ミックス25朝夕にトレシーバを併用というのは聞いたことがない。(昼にヒューマログ注を昼食分として入れるのはある)
患者さんの記憶違いかと思った。通院しているクリニックに問い合わせるとFAXが送られてきた。確かにヒューマログミックス25朝夕に加えて、トレシーバを就寝前に注射していた。
糖尿病手帳を見ると、HbA1cが昨年6月は7.0%だった。8月は6.4%になり、9月から現在までは5.4~5.9%と下限値を大幅に下回っていた。夜間低血糖が続いていたと推定される。
高齢者糖尿病の血糖コントロール目標としては、75歳以上で認知機能正常かつADL自立でも、インスリンやSU薬など低血糖をきたす処方があれば、下限値は7.0%になる。単純にまずトレシーバを中止すればいいのではないか。
外来の点滴室で経過をみて、昼食を食べてトイレ歩行もできるようになったので、帰宅とした。その日は通院しているクリニックに行くつもりだったというので、診療情報提供書にインスリン減量はいかがでしょうか、と記載した。
娘さんの話では、昨年肝細胞癌になってから血糖が下がるようになったという。昨年5月に心窩部痛で当院新患を受診して、肝細胞癌と診断されていた。それは、これまで経験したことのない病状を呈していた。(続く)