なんでも内科診療日誌

とりあえず何でも診ている内科の診療記録

腫瘍熱

2022年10月27日 | Weblog

 10月20日に記載したS状結腸癌術後再発・多発性肝転移・多発性肺転移の85歳男性のその後。

 地域の基幹病院消化器内科では、左尿管が大動脈周囲の下腸間膜動脈根部の腫瘍(リンパ節転移が一塊)で閉塞していることから、閉塞性腎盂腎炎として抗菌薬を投与していた(最初はスルペラゾンでその後にメロペネム)。

 転院時にも発熱が続いていたので、血液培養2セット・尿培養を提出して、そのままメロペネムを継続した。しかし発熱は続き、培養が陰性だった。

 腫瘍熱を疑って、ナイキサン(ナプロキセン)を開始すると、翌日から解熱した。数日抗菌薬も継続していたが、中止しても発熱はみられなかった。現在はナイキサンを継続して、食事摂取も良好となっている。

 腫瘍熱だとナイキサンを使用することになっているが、他のNSAIDsと何が違うのだろうか。

 

腫瘍熱:がん患者の腫瘍熱は 5-27%と報告され、転移巣が多いほど腫瘍熱をきたしやすい。


腫瘍熱診断のゴールドスタンダードはないが,診断基準案として以下の項目を参考にする。
1)37.8℃以上の発熱が 1 日 1 回以上ある。
2)発熱の期間が 長期間である(おおよそ 2 週間以上)。
3)身体診察・検査所見 (培養検査を含む)・画像検査などにおいて感染症の根拠を認めない。
4)アレルギーによる発熱は否定的である。
5)感染が疑わしい場合、7 日以上の経験的な抗菌薬治療に対する解熱反応がない。
6)ナプロキセンテストによって速やかに完全に解熱し, ナプロキセンを使用中平熱が持続する。
また、画像検査で腫瘍の壊死像が認められる場合、悪寒戦慄を伴わない場合、解熱剤を用いない場合でも自然に解熱する場合は腫瘍熱の可能性を加味する。

対症療法
●腫瘍熱と考える場合、定型的にはナプロキセン(ナイキサン🄬)400~600mg 分 2~3 を定期投与することが勧められている。これで 12~24 時間後から丸 1 日を通して解熱すれば腫瘍熱と診断する。ナプロキセンが有効でない場合、他の解熱作用のあるNSAIDs(フルルビプロフェンアキセチル(ロピオン🄬)、ジクロフェナクナトリウム(ボルタレン🄬)、ロキソプロフェン(ロキソニン🄬))に変更することが有効な時がある。セレコキシブ(セレコックス🄬)といった COX-2 選択阻害薬は解熱効果が弱いた
め使用しない。またアセトアミノフェン 2.4~4.0g 分 3~4 を使用・併用することも可能である。
●上記の対応で症状緩和が困難である場合や食思不振・倦怠感など悪液質による症状がある場合は、少量のステロイド(デキサメサゾン・ベタメタゾン 2~4mg/回、ハイドロコルチゾン 100mg/回)を投与する事も検討できる。しかし、感染が完全に否定できない場合や 1 カ月以上の投与になる場合には、消化性潰瘍、血糖異常、ムーンフェイス、精神症状(不眠、せん妄、抑うつ)、易感染、ミオパチーなどの合併症を生じるリスクがある。またステロイド投与中に発熱が再発した場合、不顕性
の感染が顕性化した可能性が高いので、感染の再検索が必要と思われる。
(東北大学病院緩和医療科のマニュアル)

 

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