なんでも内科診療日誌

とりあえず何でも診ている内科の診療記録

陰性感情

2021年06月06日 | Weblog

 加藤温先生の「診察室の陰性感情」(金芳堂)が出たので早速購入した。CareNeTVの国立国際医療研究センターの講義の中に、加藤先生の「陰性感情を考える」がある。

 CareNeTVを繰り返して見たが、自分が精神疾患に罹患したり悩みがあれば、この先生に診てもらいたい、と思わせるような雰囲気だった。

診察室の陰性感情

 

陰性感情を考える」  CareNeTV
 国立国際医療研究センター病院
  総合診療科/精神科 加藤 温

診察場面における感情
 治療者と患者の間で、お互いに陽性感情(好意)陰性感情(嫌悪)をもつ

精神分析の世界では
 転移(陽性/陰性)
  患者が治療者に向ける感情
 逆転移(陽性/陰性)
  治療者が患者に向ける感情

逆転移
・治療者の無意識的な葛藤が患者に向かうこと
→治療の妨げになる
 治療者は自己分析により葛藤の解決努力を
  ↓
・患者に対する治療者の感情や態度全般をさす
 ・治療者の無意識的葛藤
 ・患者とのコミュニケーションに連動
 →治療に生かすことができるのでは?

陰性感情を抱いたら
1.陰性感情はあってもいい 消すことは不自然
→抱いた自分自身に自覚的であること
→俯瞰する目を持つ
(診察室の様子を外から見るような視点)
離見の見=りけんのけん」世阿弥
 能役者が観客からどう見えるかを考える
2.患者の行動にも何か理由があるのでは?
→立ち止まって考える
・治療者側の問題
・器質因、薬剤など
・環境因(仕事家族)など
3.すべてを請け負わない 解決しようとしない
→できることは何か?
 自分にしかできないと思わない
 無理せず長く付き合っていくことも
4.ひとりで抱えない 共有する
→同僚に話す 愚痴でもいい
 書いてみることも有効
「今日はひどい患者さんが来て困った」?と言ってみる

話が長い患者さんに
・もともとそういうタイプ(病的ではない)、器質因(迂遠、保続)、双極性障害(躁状態)など
<対応方法例>
・閉じた質問
「よく眠れてますか?何時間?」
・共感して区切る
「…ところで…」
・後回しとする
「…それは後ほど…」
・時間を区切る
 あと診察できる時間は10分
・物理的
 身体診察を始める、血圧測定をする

身体症状へのとらわれ
・いわゆる身体表現性障害
 医学的に説明がつかない
 →苦痛、反応性の異常重視へ
<対応の基本>
・「症状がある」ことを認める
・命にかかわる重篤な身体状態でないことを保証
・症状を持ちながらも生活を意識していく

参考書
「内科で診る不定愁訴」國松淳和著
「状況別に学ぶ 内科医・外科医のための精神疾患の診かた」加藤温著

アルコール多飲
・アルコール依存患者は自己評価が低く、注意されることに敏感に反応しやすい
<対応の基本>
・飲酒継続の害、減らした場合の効果を説明
・専門医療機関が必要なことを伝える→無理なら継続通院としてタイミングを
・完全断酒→節酒という方向性もあり

いわゆるボーダー系
・境界性パーソナリティー障害
 情動不安定 理想化とこきおろし 見捨てられ不安
・留意すべき情報
 年齢性別、自傷・過量服薬歴、多剤処方、病院を転々
・ボーダーと診断されているなかには
 軽度知的障害、未熟性格、双極Ⅱ型もまじる
・本物は本物の顔をしていない 

  陽性感情のち陰性感情
 何とか力になってあげたい
  ↓(二社関係への埋没)
 診てあげられるのは自分だけだ
  ↓(病理の開花)
 こんなはずではなかった…
  ↓(困惑、無理難題に耐える)
 どうすることもできない…
  ↓(治療者が「裏返し」に)
 悪いのは患者 見捨てられて当然だ
(成田善弘「精神療法を学ぶ」から)

 対応の基本
・普段から安定した診療の構え(態度、枠)
・俯瞰する目
・「治療」だけではなく「援助」の視点

 →あらゆる患者に対する基本的構えと同じ
 原則論をふまえつつも治療者なりの「型」

コメント
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