なんでも内科診療日誌

とりあえず何でも診ている内科の診療記録

「ステロイドで治療する病気」~國松淳和先生

2018年05月03日 | Weblog
CareNeTVから
 
健和会大手町病院 総合診療ステップアップセミナー
 
第3回 ステロイドで治療する病気
 国立国際医療研究センター病院 総合診療科 國松淳和先生
 
一般診療における臨床ステロイド学のボトムライン
副腎皮質ステロイド(CS)の
抗炎症作用免疫抑制作用
副腎抑制がかかる・かからないの期間

抗炎症を狙うのか、免疫抑制効果を狙うのか
・炎症を相手にすると考えた時は「短期決戦」に持ち込む必要がある。
・いたずらに投与期間を延長させないために、十分量のCSを初期から用いるべきである。
・病態によってはいたずらに投与を伸ばさず機を逸することなく減量に入り、3~4週間以内で終了できるような投与計画を立てる。
・一方免疫抑制をかけたいと思ったときは、長期戦になるので、無用な副作用を出さないよう病態に応じて多すぎない量を設定すべきである。
・こちらはむしろ4週を超えてからが本番といえるかもしれない

抗炎症作用
・抗炎症作用の強さと効果発現の速さに関しては量が多ければ多いほど増す
・副腎抑制は、連日投与の期間が3~4週を越えるとかかってくる
・それ未満の投与期間にしておくと、おそらく量によらず深刻な離脱を招くことなく中止できるが、できれば漸減する方がよい
・隔日投与は、連日投与よりもかなり副腎抑制がかからないが、抗炎症効果もかなり劣る
・炎症を抑えるには、炎症の強さを相殺するだけの量、あるいはそれを越える量を用いる
 
免疫抑制作用
・免疫抑制作用は、おおまかにいえば、副腎抑制がかかってはじめて維持されていく
免疫抑制作用の強さは、prednisone換算で1mg/kgで頭打ちである
・1mg/kg2週間のCS投与で、ステロイド受容体が飽和
・1mg/kg以上の増量は免疫抑制効果が増えずに副作用だけが増し1mg/kgから減量していくと減量の分だけ免疫抑制作用が低下する
 
ステロイドで治療する病気
・喘息発作・薬疹・敗血症・菊池病・結節性紅斑・亜急性甲状腺炎・リウマチ性多発筋痛症・IgG4関連疾患・自己炎症性疾患(PFAPA症候群、TRAPS)・腎機能低下時の痛風発作 他、多数
 
菊池病

10~35歳未満(年齢が重要)のアジア人が、頸部に複数のリンパ節腫脹を認め、腫大したリンパ節に圧痛があることから疑う
・菊池病でなさそうな情報を得たら、診断を見直す(EBV-IMやSLE)
・リンパ節生検を検討する(菊池病の積極診断のためというより、リンパ腫や結核性を念頭に置いて)
・経過観察しつつ、生検を検討しているうちに、評価が繰り返され、場合により自然軽快していき、「やはり菊池病だったな」と思うようになる
(頸部リンパ節腫脹は、縦長・数珠繋ぎ)
 
菊池病の臨床診断
<信頼できるもの>
・全経過注に一度はWBC低下をみる
・菊池病そのもので貧血や肝炎を起こさない
・菊池病の既往がある
・小児~若年の発症
<まあまあ信頼できるもの>
・リンパ節腫大は、通常頸部(鎖骨下、腋窩はあり得る) (鼠径部はない)
・血液増をみた場合、異型リンパ球の出現頻度は高いが、パーセンテージは少ない
<不確かなもの>
・CRP、LDH、可溶性IL-2Rの高低
・抗核抗体
 
菊池病のステロイド治療
<従前>
・適応はバラバラ
・ステロイド投与期間は「10日間から2か月」という文献あり
・量は「prednison0.5-1.0mg/kg」との記載で明確なものなし
<私見>
・菊池病と診断できているなら、きわめて有効な治療
初期量は30mg/日を越えなくともコントロールできるはず
・おそらくプレドニン0.5mg/kgで十分
治療期間は3~4週でよさそう
・これより長く・強くする必要はない
プレドニゾロン30mg/日を5日間、25mg/日を5日間、20mg/日を5日間、15mg/日を5日間、10mg/日を5日間、5mg/日を5日間とし、合計25日間(25日間?30日間だが)
 
菊池病には季節性がある
春秋に多い
ウイルス性で惹起される?

結節性紅斑
 
結節性紅斑の特徴:紅斑の隆起、若年、下腿前面、殴打様
・分布としては、下腿の前面にあり後面(腓腹部)には認めない。対側下腿にも同様の質・分布の皮疹を認める。
・どの皮疹も潰瘍化していない。
・時間経過に従い、紅斑の1個1個が打撲様(bruise-like appearance)に変色している。
雑に「蜂窩織炎」とされることがああるが、両側の蜂窩織炎は通常ない。
 
結節性紅斑 臨床上のpoint1
・結節性紅斑は、半分以上は特発性とされるがこれをみたらその原因を
探すべき症候である。
・この点、結節性紅斑は皮膚科疾患というより内科疾患であり、疾患というより症候群といえる。
・溶連菌感染、薬剤(ペニシリン系、低用量ピルなど)、妊娠、炎症性腸疾患、ベーチェット秒などが頻度の多い原因である。
・レアのものとして、サルコイドーシス、血液腫瘍、キャンピロバクター腸炎、ウイルス性などがある。
結節性紅斑 臨床上のpoint2
・結節性紅斑に似る疾患も多数ある。
・例えば血管炎などである。
・生検せずに診断する場合は、所見・臨床状況ともに典型的なものを結節性紅斑と診断すべきである。
・潰瘍化する、ステロイドに反応しない、多彩な全身症状・臓器症状が出現するなど、結節性紅斑として典型的な経過から外れるようなら、皮膚科コンサルトや全身精査に切り替えるのをためらうべきでない。
 
結節性紅斑の疫学
・疫学は原因別に異なる。
・教科書的にはサルコイドーシスの頻度が多いとされるが、本邦ではむしろ少ないという統計がある。
・エルシニアによるものはヨーロッパからの報告が多い・
・また、histoplasmosis、coccidioidomycosisといった原則日本ではみないような感染症に伴う結節性紅斑は国内ではほぼないといってよい。
・何歳でも発症しうるが、小児から20~30歳台が多く、成人ほど性差がでてきて女性が5~6倍多い。
 
結節性紅斑の治療
・治療はNSAIDが第一選択だが、緩解しないもの、自制内でないもの、再発性のものには経口ステロイド薬が用いられる。
・通常
ステロイドは中止可能で、免疫抑制薬を必要とするケースは原則ない。(そのような症例はむしろ他の疾患をお考えるべきである)。
・<私見>結節性紅斑の原因となった疾患を治すことが結節性紅斑の治療になる場合と、現病と結節性紅斑の治療は別々という場合がある。
 
結節性紅斑の治療<私見>
・菊池病のレシピを適応したい。
・この内容でもし再燃したら減少スピードを緩めるか、量を増量(0.8-1.0mg/kg程度)するかすればよいかもしれない。
 
亜急性甲状腺炎

・典型的には30~40歳代の女性が、上気道炎(おそらくウイルスかぜ)の罹患後2~8週後に、非対称の甲状腺局所腫大を伴って同部位に疼痛を生じ、同時期から発熱・倦怠感などの全身症状が現れて発症する。
・女性が男性よりも5~12倍多い。
・20歳代、50歳代でも発症するので年齢で否定しない。
・夏に多いかもとのエキスパートオピニオンもある。
・普通は頸部痛が明確である。
・放っておいても頸部全体が痛いことも多いし(放散痛)、圧痛は必発で、嚥下時に後面から甲状腺が圧されるためやはり疼痛をきたす(これが咽頭炎の咽頭痛とされてしまうこともある)。
・炎症部位もやや硬くなるので、患者自身が炎症部位を正確に指し示せることも多い。
・また発熱もほぼ必発で、血液検査でCRP高値、血沈の著明亢進をみるので、全体像から疾患の想起は容易と思われる。
・炎症の範囲に応じた甲状腺の破壊とホルモンの漏出が甲状腺機能亢進症状の強さを決めると思われるが、普通本症では亢進症状も前面に出ると考えてよい。
・亢進症状は、教科書どおりのものである。
 
亜急性甲状腺炎の治療
・NSAIDsが核
・加えて、頻脈があればβブロッカー
・病初期だったり炎症部位が片葉で限局性だったりする場合以外では、副腎皮質ステロイド内服開始をためらわない。
亜急性甲状腺炎 ステロイドをどうするか<私見>
・病初期で悩む前に、治療開始を早くしたいと心がけるようにしている。
・亜急性甲状腺自体は良性であり、再発の可能性が潜在的にあるにしても、将来的に必ずCSを止められる病気である。
・私はCSによる利用介入の閾値を下げ、できれば早期発見・早期治療をしたいと考えている。
・CS治療適応や治療の強さを決めるのに悩むとは思うが、もうこれは数字や基準では決められない。
・目的のメインは症状からの解放であるから、「対症的に」治療するという考えを取り入れたい。
・亜急性甲状腺年はもともとself-limitedだし、とか、でもリンパ腫とかだったらどうしよう、感染症だったらどうしよう、とか迷っているうちに甲状腺の炎症・破壊は進んでいく。
 
具体的な治療内容
順天堂病院では
・初期量は14mg/日
・NSAIDsだけだと3週、ステロイドを使うと1週
Kubotaら
・プレドニゾロン15mg/日で開始し、2週ごろに5mgずつ減量する。もし患者が頸部痛を訴えたりCRP値が高値が続いたりしたら、担当医は減量せずにその量のまま延長したり、逆に2週ごとに増量したりする
Araoら 26例の後ろ向き研究
・ステロイドの初期量 30mg/日が13人、25mg/日が1人、20mg/日が11人、1mg/日が1人
・再発させないためには5mg/日にする直前まで少なくとも6週は時間をかけるべきである
 
まとめ
・良性の非感染性炎症性疾患に対する、抗炎症を目的としたステロイド治療は、適応・治療内容ともにしっかりとした確立されたものはない。
・よって多くの医師がこうしたステロイド治療を苦手とするが、症例に合わせた工夫、正確な病態把握と診断が重要となる。
 
 
後は著書を読んで確認する。
 
外来で診る不明熱ーDr.Kの発熱カレンダーでよくわかる不明熱のミカタ
コメント (2)
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