先日、10代に見える若者が入室してきた。
「下で(案内板を)見てですか?」と問うと頷くと同時に舐めるように書棚を見回し、中から一冊の本を抜き取り着席した。そして、長身の背筋を伸ばし静かにその本を読み始めたのだ。
しばらくしてから、会員制であることを説明すると目を丸くした。公共の図書館と間違えたのだろうか。
「どうしたら会員になれますか」
学生さんなら年会費の5,000円と鎌倉に関する本を持参すれば1年間ここを使いたい放題ですよと伝えた。
帰り際、聞いてもいないのに「久米正雄が好きなんです」と。
鎌倉文士であることは記憶にあったが、僕は読んだことも、いや著書を目にしたことすらなかったので、今度はこちらが驚いたのである。
今日、また勢いよく入ってくると、彼は風呂敷包みから古い本を出し真っ直ぐな目をして「入会します」と言った。
渡された本は、久米正雄著「破船」。
見た目の古さに奥付けを見ると戦前の発行だった。
「こんな貴重な本、いいの?」ときくと
「いいんです、すてきな場所だから、ここに」
なんだかウルウルきてしまったよ。
しかも、入会申込書を見てまたまたびっくり。
中学三年生だった!
久米正雄はお父さんの書棚がきっかけだったというが、そのお父さんは僕より年下。久米正雄だったら、おじいさん、ひいおじいさん世代ではないか。
「受験生なんだからゲームやスマホばっかりやってないで勉強しなさい」
といわれるところ、
「本はいい加減にしなさい」
と叱られるという。
なんともすごい若者が会員に加わったものである。