クルマを走らせてると、後方から拡声器を通した声が聞こえてきた。
「はい、前の運転手さん、クルマを左に寄せて・・・」
えっ?
オレのこと?
でも、なんで?
と思いつつも、とりあえず指示に従っておこう。スピードも出してないし、とがめられることなんかないはず。
ゆっくりハンドルを左に切りながら、ふと胸元を見ると・・・
あれーーーー!
ない、ない、ないよ、え~っ?
シートベルトしてないじゃん!
それでかぁ。
でも、どーしてだ?
運転するようになってから何十年もの間、ただの一度だって(公道では)シートベルトしなかったことなんてないのに。
え~っ、なんで、なんでぇ。
こんなこといいわけしたって無駄だってことは百も承知だけど、一生懸命主張し続けたのだ。見苦しいほどに。
「えーっと、12,000点の減点ですね」
12,000点?
「でも、罰金は9,000円ぐらいですから」
ヘルメットに水色の制服姿の警察官が、人の良さそうな笑顔でそう言うのだ。
そのとき初めて、僕を呼び止めたのはパトカーではなく白バイだったということに気づいた。それほどバタバタしてたということか。
そして、自分が交通違反をしたという事実を棚に上げ、ひたすら9,000円の出費を嘆いたのだ。
だってさぁ、先日すっかり忘れてたお金が7,000円も返ってきて何だか嬉しくて、しこたま本でも買おうとワクワクしてたんだ。
それが、すべてパー。いや、パーどころかマイナスじゃん!
あぁ~ん、なんて日だ!!
いや、待てよ。さっきから見たこともない通りの道端でやりとりしてるけど、ここは一体どこだ?
そもそも、オレ、どこへ行こうとしてたんだ?
あれっ、ん? これってもしかして夢なんじゃないのか?
落ち着け、落ち着け。
あっ、夢だ、夢だ、そーだ、夢を見ていただけなんだ。だって、シートベルトしてないわけないもんな、ぜったい。
そうか、あぁ、よかった、夢だったんた、夢・・・
アラームが鳴って、本当に目を覚ますのは、それからいくらもしないうちである。
そして、おかしな夢を振り返って、改めてホッとした(笑)。
夢の中で夢から覚めるシーンなんて体験したのは、生まれて初めてだったのである。
それにしても、あの町はどこだったんだろう。写真は、夏に行った宇都宮市内で。