錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

『風林火山』

2006-04-07 12:01:12 | 戦国武将

 ビデオで『風林火山』(1969年)を観た。この映画は封切りの時映画館で観たのを覚えている。確か渋谷東宝だった。初日だったからか、主演の三船敏郎が映画館に来て、上映前に挨拶をした。三船自身のプロダクションで、総力を上げてこの映画を製作したので、自らも宣伝して回らなければならなかったのだろう。あの頃は錦之助をはじめ、裕次郎、三船、勝新などが次々とスター・プロを設立し、映画を作っていた。錦之助の『祇園祭』(1968年)がその先鞭をつけた作品だった。この映画には三船敏郎が友情出演したが、その代わりに今度は三船プロの『風林火山』に錦之助が出演したというわけだ。
 『風林火山』は、当時の信玄・謙信ブームに乗って、大ヒットした。三船と錦之助の競演だけでなく、裕次郎まで特別出演したからでもあった。井上靖の原作もベスト・セラーになり、高校生の私も映画を観てから早速この原作を読んだものだ。武田の旗印である「風林火山」は流行語にもなった。(静かなること林の如く、動かざること山の如し、は思い出すが、風と火はなんであったか?)

 前置きが長くなった。37年ぶりに観た映画の感想を述べなければならない。まず、前に一度観たと言っても、初めて観たのと同じだった。感動した映画は、あとあとまで印象的だった場面を覚えているものだが、この映画はそうではなかった。正直言って、見ている途中から、まあまあだな、という感想を持った。
 『風林火山』は決してつまらない映画ではなかったが、期待はずれで失望した。戦国物としてはこれ以前の東映作品の方がずっと良く出来ていると感じた。たとえば、錦之助の出演した映画で言えば、『独眼竜政宗』や『風雲児織田信長』や『徳川家康』の方が作品的にも優れていたし、錦之助自体も輝いていた。それは、第一に脚本の完成度の差にあると言えるかもしれない。『風林火山』は、脚本が練れていなかった。何よりも登場人物に関し、その人間関係と心理の描写に食い足りなさを感じた。前半では、一介の浪人だった山本勘助(=三船敏郎)が武田家の重鎮に取り入り奉公することになるのだが、勘助が領主の晴信(信玄=錦之助)の信任を得ていく、その理由付けが弱かった。諏訪城主頼茂を殺害する決断も唐突である。また、勘助が諏訪の姫君(=佐久間良子)を慕う気持ちは分かるが、思い入れを表現する部分が足りないと思った。後半は、勝頼の成長と、信玄と上杉謙信(=石原裕次郎)の合戦が話のメインになるが、焦点があいまいで、クライマックスが盛り上がらなかった。要するに、話の運びが速いわりに、観客を十分納得させないまま進んでいくので、いささか白けた気分を味わってしまうのだ。

 映画は監督の技量と情熱にもかかっている。『風林火山』の監督は稲垣浩だったが、脚本の段階で彼がどの程度かかわっていたのかは不明である。出来合いの脚本を変更もせずただ監督したように思えてならない。高齢で、気力が充実していなかったのかもしれない。この映画、無難に仕上がってはいるものの、画面から物凄い迫力のようなものが伝わってこなかった。戦闘シーンですらそうだった。脚本の完成度が低く、監督の情熱も足りなければ、その他のスタッフがいくら頑張ろうとも、良い映画はできない。出演者にいくらスターや名優を揃えても、同じである。
 三船敏郎はほぼ出ずっぱりで、精一杯の演技をしていたが、黒澤作品で見せたような野性味や気迫は半減していた。錦之助はと言えば、もうこの頃は貫禄たっぷりで、七、八分の力で演技していたような気がした。ただ、武田信玄のイメージと錦之助がどうしても結びつかず、キャスティングに不満を覚えた。逆に三船が信玄で、錦之助が勘助の方が良かったのではないかとも感じた。佐久間良子は熱演だったが、姫君役では十分魅力を出し切れないなと思った。映画が作品的にまあまあの出来だと、登場人物を演じる俳優もそう見えてしまうから不思議なものだ。石原裕次郎は、セリフ一つなく、顔見世にすぎなかった。話題性を得るため、名前だけ借りたのだろう。別にこれなら出演する必要もないと思った。出演者で目に付いたのは、脇役の緒形拳と中村翫右衛門だった。





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2 コメント

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追いつかなくて… (背寒)
2006-04-13 20:15:10
どうしん様、お久しぶりです。

コメント有難うございます。

私も、観る方が先行して、書く方が追いつかず、難渋しております。大作ばかり観ていると、記事がなかなか書けません。先日は『大菩薩峠』を一気に観たのですが、感動を文章にまとめられない…。錦之助は大した役ではありませんでしたが、映画自体は凄いと思いました。

『風林火山』は正直言って私はイマイチでしたが、少しけなしすぎたかとも思っています。『反逆児』を観て、『徳川家康』を観て、それからこの映画を観たので見劣りしたのかもしれません。それに、三船敏郎がどうも好きでなくて…。

テレビの時代劇をご覧になっているとのことですが、残念ながら私は中村錦之助時代の映画で手一杯です。

また、コメントよろしくお願いします。お気づきになったことがあれば、ちょっとでも結構ですから、投稿してくださいね。



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ざんまい境 (どうしん)
2006-04-13 19:06:54
作品一つ一つの鑑賞を読ませていただきながら、

共感したり、そうは感じなかったと思ったりして

楽しませてもらっておりますが。

同時にビデオを見てそのときに感想を書けばよいのですが、追いつきそうにありません。上映会の後はしばらく、テレビ映画「長崎犯科帖」が終わって「破れ奉行」「鬼平犯科帖」「子連れ狼」を観ながら録画に

忙しい毎日です。

そろそろ大画面で映画を観たくなっております。

もう二年がたってしまってますが、文化庁の優秀映画鑑賞推進事業で上映された「反逆児」「風林火山」を大画面で観たのですが、

「風林火山」は背寒様とちがって、原作も読んでいない私は、テレビで二三回見ていた後の大画面での

観劇だったので、壮大なスケールの戦場は、今のようなCG(?というのでしょうか)を使わない時代に

撮影されたので、大変だったろうと思わされたし、

製作費用というのも充分だったからだろうかとも思ったりしました。

錦之助が武田信玄という大事なポストを担っていたことも、私は嬉しかったですね。最後のシーンが信玄の心の思いをつぶやく形で終わったことは、私としては満足しているんですが。ちょっと翻訳劇の感じが

しないでもなかったですが。

・・・「反逆児」と比べればダントツに信康錦之助がよいです。

 どの作品も懐かしいし何度でも観たいのですが、

やはり原作にも心引かれ、すぐにでも、もう一度観ようと思う作品と、いつか見直してみようと思う作品がありますね。殆どが前者なのですが、

「海の若人」はまだ一度ビデオで見たきりなので、

この機会に見直してみなければと思っています。

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