錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

『海の若人』

2006-04-08 17:16:54 | 海の若人

 チョンマゲをしていない若いわかーい錦之助が見られる映画だった。
 『海の若人』は、昭和30年4月公開の青春現代劇、なんと錦之助が詰襟、美空ひばりがセーラー服で登場、それだけでも一見に値する作品だった。なぜ、こんな古い映画のビデオが出ているかといえば、やはり美空ひばりの力が大きいのかもしれない。ひばりファンは今でも圧倒的に多く、根強い。
 それはともかく、錦之助が主演した唯一の青春現代劇であるこの映画、私はどうしても見たかった。そこで、インターネットで中古ショップを探し回り、やっと手に入れ、見ることができた。
 内容は期待していなかった。アイドル主演の学芸会みたいな、よくある青春ドラマに違いないと思っていた。それが、見てみると、良い意味で予想はずれ、案外感動的な物語であった。ちょっとあらすじを書くと…。

 ドラマの主人公(もちろん錦之助)は山里英一郎という名の大学生。彼は全寮制の商船学校に通っている。死んだ父親は船長で、母親の仕送りを頼りに、海での訓練や勉学に励んでいる。いつか父親みたいな名船長になりたい。母親もそれを切望し、故郷信州で一生懸命働いている。しかし、優等生の山里は商船学校の生活に不満を抱いている。規律を守らない学生もいて、寮に住む学生達の気持ちはバラバラ。シーマンシップを養う気概もなければ、連帯感もない。そこで革新運動に乗り出し、自治委員長に立候補し当選する。彼には船員になった憧れの先輩がいる。その妹の雪枝(美空ひばり)とは互いに心を寄せ合っている。
 ここからドラマが始まるわけだが、話を戻すと、錦之助がなにしろ若い。この時、22歳である。時代劇のメイクもなく、髪も普通で、素顔のまま。詰襟の学生服もよく似合う。その甘いマスクと痩せたスタイルは、今で言うジャニーズ系である。男っぽさは感じないが、母性本能をくすぐるタイプとでも言おうか。気が弱そうで一見頼りないが、品は良い。一方、美空ひばりは、どうも大人びて見える。錦之助より5歳下(つまりこの時17歳)にはとても見えない。セーラー服を着ていてもおかしくない年頃なのに、年齢を偽っているような感じなのだ。

 さて、あらすじの続き。山里が自治委員長に当選し、革新運動を行おうとした矢先。酔漢に襲われた芸者(田代百合子)を助けたことから、反対派に芸者との仲を追及され、窮地に立たされてしまう。仲間の学生達の信頼も揺るぎ始め、不信任案が提出される。彼を疑った雪枝からは絶交を言い渡たされる。母親は狭心症で倒れる。ついに山里は自主退学を決意する。まだこれから話は展開していくが、私はだんだんドラマに引き込まれてしまった。

 この映画の原作は雑誌「平凡」に連載されていた懸賞小説で、当時評判を呼んでいたらしい。東映がこれを映画化したわけであるが、すでに押しも押されぬ人気スターで、これまで時代劇のヒーローだった錦之助を、なぜこの映画の主役に使ったのか、その辺の裏事情は分からない。ただ、こうした現代の青春ドラマに錦之助が出演したことに対し、多くのファンはびっくり仰天したという。批判や苦情もたくさん寄せられたそうだ。が、しかし、錦之助がもしこのような青春映画にその後も出ていたとしたら、結構イイ線まで行ったのではないか。この映画を見て私はそう思った。加山雄三の『若大将』シリーズも良かったが、それとははまったく違う錦之助の『若大将』シリーズも見てみたかったものだ、なんて、今ひとり勝手な空想にふけったりしている…。



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4 コメント

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実は私も・・・ (やました)
2006-04-08 22:35:49
偏見かもしれませんが、随分前に購入したこの作品のビデオ、どうしても食指が動かずまだ見ていません。

今度勇気を出してみてみようかな~という気になりました。
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期待しないで… (背寒)
2006-04-09 01:53:34
見とかなきゃダメですね。私みたいに軽い気持ちで、ぜひどうぞ。母親役の女優がいいですよ。田代百合子はぐっと落ち着いた感じの芸者役でした。相変わらずセリフは棒だけど…。
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楽しみました (どうしん)
2006-04-22 19:39:48
「海の若人」の最初に森永チョコレートコンビ:中村錦之助・美空ひばりとでましたね。映画の中でもバスの中で、チョコレートを半分づつ分けて、その包み紙で飛行機を折って飛ばす雪絵。

また万年筆がパーカーと・・・すごい宣伝効果だったことでしょうね。最初見たときは気づかなかったんですが、ボールペンが制覇する前ですものね。今じゃ私のパーカーの万年筆も引出しのどこかで陽の目も見ない状態です。

もう一つの発見は、最後の船が出港して雪絵は人ごみの中から山の方へ駆け抜けて行こうとするシーンを見て何故か「祇園祭」を思い出してしまいました。

病後の母親にやさしく、また甘えるように側によって、一緒に歌うシーンは心に残っています。

若いってすばらしい!ですね。

背寒様の鑑賞を読ませていただいて刺激を受けて二度

観てよかった。この映画の後の「あばれ纏千両肌」で

錦ちゃんに完全にはまったので、当時観たかどうかの

記憶はあいまいで・・・今時専で放映中の鬼平犯科帖の音楽も木下忠司ですね、錦之介様にとって長いお付き合いの方ですね。
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良かった! (背寒)
2006-04-22 21:49:47
見方が細かいですね。きっと森永製菓がお金を出していたんでしょうかね。パーカーはどうだかわかりませんが…。私も中学生の入学祝いにパーカーの万年筆をもらって、ずっと胸ポケットに差していたので、あの気持ちがよく分かります。

「祇園祭」は封切りの時に見たっきりなので、また見たいと思っているのですが、ビデオないんじゃないですかね。

「海の恋人」で錦ちゃんがお母さんと一緒に死んだお父さんの愛唱歌を歌う場面は良かったですね。あそこがあるから、映画に深みが増したと思います。

どうしん様は、私とは見方が違い、細かいところもよく見ていらっしゃるので、コメント参考になります。私なんか、映画の筋とか俳優のセリフとか演技ばかりを注意して見ているので、細かいところを見逃しちゃいます。それと、最近はブログの記事を書かなきゃと思って映画を見ているので、ゆったりと楽しめない…。

木下忠司の音楽、哀感があふれていて、私は大好きです。

「鬼平犯科帳」は、先代の松本幸四郎の長谷川平蔵はよく観ていたのですが、錦之介のはあまり観た記憶がありません。原作は愛読書なんですがね。私はテレビを観る暇がないので、もっぱらビデオ鑑賞です。観ようと思っているビデオが錦ちゃんの映画を初め、100本以上はあるので、それだけで精一杯でして…。

それと読書もあって…。この間、山本周五郎の「ちいさこべ」を読みました。映画とはちょっと違いますね。今、大佛次郎の「炎の柱」(「織田信長」の題名で学陽文庫から出でいます)を読んでいますが、これが面白い。映画「反逆児」に出てくる信康や築山殿の話が書かれていて、映画鑑賞の参考になります。

では、またコメントください。
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