錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

『源氏九郎颯爽記 白狐二刀流』(その2)

2007-11-21 01:35:45 | 源氏九郎颯爽記 白狐二刀流
 『白狐二刀流』を初めて観た人は、「なに、これ?」といった意外な驚きがたくさんあり、奇妙キテレツな映画だなあという感想を持つにちがいない。笑えない喜劇とでも言おうか、今の言葉で言えば、「引いてしまう」ところが多々あるかもしれない。が、何度か観ていうるうちに、あちこちが面白く感じられ、ほくそ笑みながら観ることができて、加藤泰の演出や俳優たちの熱演に感心するようになるかと思う。

 この映画のファーストシーンはサスペンス仕立てである。編み笠をかぶった 白装束の源氏九郎がたった一人小舟に乗って現れ、孤島にたどり着く。バックに流れる高橋半の音楽がいい。荘厳と言おうか、画面をドラマチックに盛り上げてくれる。クレジットタイトルが出て、ナレーションがあり、九郎が洞窟に入る。と、突如として両刀を抜く。秘剣揚羽蝶の構えだ。こうもりが飛び交い、洞窟の天井から差し込む光に九郎は刀を反射させる。
 ここで、九郎は両刀を掲げたまま、ゆっくりと回転する。ここがカッコいい。ぞくぞくっとする。何が始まるのか! すると、洞窟の壁に赤く輝く部分が映し出される。そこを叩いて割ると、石の壁に隙間ができる。九郎はその重くて厚い壁を押し開ける。中に棺が見える。棺の蓋を取ると、小さな金の厨子(小箱)があり、小さな観音像が入っている。それを手にして、九郎が初めて言葉を発する。
「義経公よ。あなたが後の世に残したという宝は、この心だったのですか」
 このファーストシーンはすごく印象的である。けれども、錦之助は最後まで顔を見せない。観ている方は、錦之助が編み笠をいつ取るのか、と今か今かと見守っているのに、ついに顔を出さないので少々ガッカリする。しかし、そこが加藤泰の天邪鬼なところで、そうやすやすと錦之助の顔は見せない。

 次に船着場の突堤のシーンになる。逃げまわる外国人の男と女。刀を抜いて追いかける浪人。攘夷派だろう。外国人の美しい洋装の女が浪人に追い詰められる。気味の悪い公卿と頭巾をした連れの女が来て浪人を制するが、それでも浪人が外国人女に斬りつけようとした時、どこからともなく「アッハッハッハ」という笑い声。源氏九郎だ。
 ここで初めて錦之助の九郎が顔の全面を見せる。ちょっと横向き加減だが、笑みを浮かべたこのアップ。錦之助の源氏九郎は前作『濡れ髪二刀流』でお馴染みだが、あれは白黒だった。今度は総天然色である。さすがに美しい。もちろん、色のことではなく、九郎に扮した錦之助の顔が、である。「よぉっ、いいぞ、錦ちゃん!」と思わず声を掛けたくなる。
 「なんだ、貴様は!」と浪人。「姓は源氏、名は九郎…」その時、公卿の顔のアップがあって、「九郎?」と甲高い変な声を出したのには驚く。見れば、この役に扮しているのは、河野秋武ではないか。いつもとイメージが全然違う!九郎に襲いかかる浪人(清川荘司)。目も留まらぬ居あい抜きで、浪人のもとどりが切れ、ザンバラ髪に。
 この時の源氏九郎は、なんと口に赤いバラの枝をくわえているではないか!このカットは、最初に観た時も頭に焼きついて、錦之助はこんなキザな真似をやってもサマになるんだなあと思った。今でもここはいつも注目して観ている。
 このシーンには、ヘレン・ヒギンスと大川恵子の二人が出てくるが、交互に顔のアップがあって、和洋の美人比べである。私は大川恵子のアップが忘れられない。画面に紗がかかっていて、大川恵子を思いっきり美しく撮影していて、洋画みたいなのだ。ただ、この時、自分の名前を名乗る彼女のセリフが、どうしても「シスコです」と聞こえる。初めサンフランシスコのシスコなのかと思ったが、あとで「しづこ」だと分かる。漢字を当てると「志津子」。これは原作を読んで確認した。(2019年2月4日一部改稿)