錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

懐かしの雑誌『明星』から

2006-04-18 20:41:10 | 錦之助ファン、雑記

 雑誌『明星』の1958年正月増刊号を古本屋で入手した。オール時代劇の特集で、当時の時代劇映画やスターの記事が満載で、実に面白い。読みごたえも十分である。私はビデオ鑑賞や読書に飽きると、この雑誌を覗き、あちこち拾い読みしながら、楽しんでいる。スターたちの座談会あり、インタヴューあり、近況報告あり、さらには脇役たちの奥さんの苦労話もあったりして、この頃の雑誌記者たちがいかにスターとファンを大切にし、その橋渡しに苦心していたかが手に取るように分かる。その楽しさと明るさに私は思わずほほ笑んでしまう。
 もちろん、この雑誌の中には、中村錦之助に関する記事も多い。あっ、そうだ、忘れていた!この号のカバー写真が、なんと、錦之助なのである。粋なやくざの着流し姿で、にっこり笑ってこっちを見ている。その顔の晴れやかで素敵なこと!女性ファンが見たら、身体中にビリビリ電気が走るにちがいない
 では、錦之助の記事をちょっとご紹介しよう。なんだか、ミーハー的な気分だが、堅い映画論だけでは、このブログを読んでいる方も飽きてしまうので、たまにはこんなのもイイんじゃないかと思って…。

 まずは、「錦ちゃんのクリスマス」から。6枚のモノ・トーン写真で綴るクリスマス・イヴのカップルのひと時。3ページ構成で、ロマンチックな映画のシーンのようだ。錦ちゃんはバシッとしたスーツ姿で、頭髪はオールバック。金持ちのお坊ちゃん風。相手の恋人役は大川恵子。ヘップバーン・ヘアで、大きな白襟の付いた藍色(?)のツー・ピースを着ている。目鼻立ちくっきりで、モダンな美人だなー。お姫様姿よりずっと可愛いじゃないか!二人で窓の外を眺めるショット、プレゼントを交換するショット、恵子ちゃんのピアノに錦ちゃんが寄り添うショット、シャンペンで乾杯するショット、雪の中に相合傘でたたずむショット。錦ちゃんの女性ファンなら、恵子ちゃんの場所に自分を置き換えて、夢のような空想をするのだろう。

 おつぎは、「青春対談 ゆく年くる年」。錦之助と浅丘ルリ子の対談である。二人の写真もあちこちに入って、5ページにわたる目玉記事。でも、錦ちゃんはほとんど聞き役で、ルリちゃんの一人喋りといった感じ。ちょうどルリちゃんが『禁じられた唇』の撮影で京都へ来たおりに対談のセッティングがなされたらしく、まずは京都の感想から。映画で演じる舞妓さんの話、共演者津川雅彦の話などなどあって…。
<『禁じられた唇』のルリ子と津川>

 この対談ではルリちゃんの少女っぽい省略の多い話し方に錦ちゃんが付いていけない部分も。そして、初めてのラブ・シーンのことに話が及ぶ。
 ルリ子「私ネ、最初の恋人は津川さんのお兄さんなのよ。」
 錦之助「えッ?」
 ルリ子「ウアッ。(笑)また、本気にしてるのね。これも映画の中のお話よ…。『愛情』って映画の中で、長門さんとの初恋の役をやったのよ。梅の花がいっぱい咲いているの、初春ね。その梅林の中で、肩に手をかけられるシーンがあって…私、まだ子供…いまでも子供だけど、そんときは、ほんとうの子供だったから、撮影だか、ほんとうなんだか、胸がドキドキしちゃった。夢かうつつかってところなのね。あんなこと初めてだったわ。だけど、長門さんが、演技の上で、いろいろ教えてくださったでしょ。感激したわ。」
 錦之助「それはよかったね。僕にも経験あるけど、最初は、もう、なにがなんだか分からないことだらけで、ずい分まごついたけど、このごろはやっと慣れた。」
 まあこんな感じで進んでいく。当時浅丘ルリ子は芳紀17歳だった。(錦之助は八つ上の25歳。)

 「あなたの知りたい錦ちゃんの七つの秘密」も面白い。錦之助の魅力の謎をとくカギとして、門外不出の七つの秘密が3ページにわたり書いてある。(1)食事の秘密(2)人気の秘密(3)魅力の秘密(4)演技の秘密(5)結婚の秘密(6)お洒落の秘密(7)秘密のヒミツであるが、ちょっとだけ紹介すると…。
 (1)食事の秘密から。「錦ちゃんはゲテ物趣味なんです。といっても、蛇や蛙などを食べる悪食家ではありません。大好物はホルモン料理。牛のタンとアバラ肉をニンニク入りのタレに漬けたのを、炭火で焼き、唐辛子で食べる朝鮮料理です。」
 なんのことはない。単なる焼肉料理だが、当時は韓国レストランが今ほどなかったことを考えれば、錦ちゃんは変な食べ物が好きなんだなーとファンは思ったはず。
 (2)人気の秘密から。「後援会『錦(にしき)』の現会員数が二万二千名。会員の層に親子が多いという点も不思議な点です。子供がファンになる、そうするとお母さんやお姉さんたちもファンになる。中には一家全部が会員だというファンもあります。」
 いやー凄かった。あの頃のファンはいったいどこへ行ってしまったのか?
 (私は『錦』の会員にはならなかったけれども、今は『錦友会』という錦之助を偲ぶ会の会員になっています。)


 「東映スタジオは野球ブーム」は2ページの写真記事。野球のユニフォームを着たそうそうたる東映スターたちの写真を見ていると楽しい。集合写真のほかに錦ちゃんがバットを構えている写真がデカデカと載っている。錦ちゃんが中心となって、映画『任侠東海道』の俳優陣を集めてチームを編成したそうだ。チーム名は「次郎チョーズ」。その主なメンバーを紹介すると…。監督片岡千恵蔵、ピッチャー中村錦之助(背番号1、打順は4番)、キャッチャー加賀邦男、ファースト大川橋蔵、セカンド東千代之介、ショート里見浩太郎、ライト大友柳太朗…。

 「花形スター初春の恋占い」は、藤田小女姫(さおとめ)が占っている。そう言えば、この霊媒少女、今はどうしたのだろう。昔はよくテレビにも出ていたが…。
 錦之助の恋占いはと言うと…。
 「この人は心のやさしい人ですから、真に人のことをよく思う方です。この人の見つける女の人は、表面あかるく見えても心の中が淋しいような、また何か個人的に問題を持っているような人に縁があるようです。沢山の人に思われても、すぐ、ふらふらする方ではありません。ご自分がよく思うと、とっても真剣になり、仕事にもさしつかえますが、これからも沢山噂をたてられそうです。しかし、来年とさ来年は、異性にハッキリした態度をとらなければならない年のようです。」
 錦之助が有馬稲子と大ロマンスのすえ婚約するのは、1959年だからちゃんと当たっている。ただ、有馬稲子が「表面あかるく見えて心の中が淋しそうな」人かどうかは分からないが、なんだかそんな女性のような気もしてくるから不思議。


 

『ゆうれい船』

2006-04-18 00:12:14 | 美剣士・侍

 前にも書いたが、私は物心つくかつかない頃からずっと東映の映画ばかり観ていた。が、いつ何を観たのかがもうはっきり分からなくなっている。先日『笛吹童子』の第一部だけを半世紀ぶりに見直してみたのだが、幾つかのシーンで「ここ、憶えている。あっ、ここも見たことがある」と感じ、不思議な気持ちになった。『笛吹童子』第一部は昭和29年4月公開、私は二歳になったばかりで、封切りのとき観たのではないことだけは確かである。リバイバル上映をどこかで観たにちがいない。情けない話だが、幼ないのころ観た東映の映画はそんな感じの映画ばかりである。
 
 『ゆうれい船』(昭和32年)も昔観た覚えがあった。が、錦之助が犬を連れていたことと、船に乗って海に出ることだけが、記憶の網に引っかかっている程度だった。ビデオを観る前に、子供だましの安っぽい冒険映画ならイヤだなと思っていた。前篇と後篇があって全部で3時間近くになる。前篇がつまらなければ、途中でやめようと思っていた。ただ、原作が大佛次郎、監督が娯楽映画の巨匠松田定次なので、ちょっとは期待していたが…。ところが、見始めて10分もしないうちに面白くなり、寝転んで眺めているどころではなくなった。起き上がり、画面の前に座って私はこの映画を見続けた。前篇を見終わると、すぐに後篇のカセットを入れた。そして3時間一気に観てしまった。

 『ゆうれい船』は、少年の夢と冒険心を十二分に満たしてくれる楽しい映画だった。何を隠そう、初老の私がこの映画を観て「少年」の気持ちに帰ることができたのだから、嬉しかった。もちろん、純粋な「少年」ではないので、ハラハラ・ドキドキ、手に汗握って見たわけではないが、それに近いものがあった。当時封切りでこの映画を観た少年たちの感動は推して知るべし、だと思った。『ゆうれい船』は、昭和32年9月公開作品だが、総天然色でしかもシネマスコープである。シネスコが初登場するのは同じ昭和32年の初めだから(松田定次監督、大友柳太朗主演の『鳳城の花嫁』がその記念碑的映画)、シネスコがまだ珍しい頃のことである。この映画にリアル・タイムで接した人たちはその迫力に圧倒されたにちがいない。とくに『ゆうれい船』後篇は、海でのロケ・シーンも多く、東映が製作費を相当つぎ込んで作った映画でもあった。
 主人公は、次郎丸という剣士まがいの美少年である。剣士まがいと言うのも、実は次郎丸は船乗りの息子だからで、武士になりたくて京都にやって来たのだった。白い着物にモンペのような朱色の袴、刀を一本差して登場、これが錦之助である。次郎丸は一匹の白い犬を連れている。中型の紀州犬(?)で、名前はシロ。この犬がなかなか良い。時代は、戦国乱世の初期。松永弾正が権勢をふるい、京都は荒れている。主家を滅ぼされた残党が跋扈し、貧民は暴動を起こしている。京都に出て、次郎丸は、悪人・善人、さまざまな人たちに出会い、いろいろな体験をする。


 『ゆうれい船』前篇は、世間知らずの次郎丸が京都で雪姫をめぐる争いに巻き込まれ、善悪の分別に目覚めていくストーリーである。次郎丸は15歳という設定で、錦之助は実際の年齢(25歳)よりずっと若い役をやっている。『笛吹童子』の菊丸、『紅孔雀』の小四郎といったキャラクターの踏襲である。私は錦之助の少年美剣士役を今ではあまり買っていない。個性のない操り人形のようで、頼りなさを感じるからである。ただし、この映画の錦之助は、ちょっと違っていた。成長の跡が明らかに見られ、主人公次郎丸を意識的に演技していた。そこに好感を持った。この映画には当時新人の桜町弘子が女中役で出演していたが、この娘を救う次郎丸の錦之助の演技がなかなか良かった。美しい雪姫が長谷川裕見子、次郎丸の面倒を見る武将の左馬之助が大友柳太朗だった。大友柳太朗は、大根役者と呼ばれることが多いが、そんなことはない。東映のスターの中ではむしろ芸達者な方で、私の好きな男優の一人である。ほかに、いつもは悪役ばかりの三島雅夫が百姓くずれの善良な浮浪児役(若作りだった)、山形勲も味方の武士役で(後篇では悪い海賊)、これにはいささか面食らった。

 さて、後篇は、船に乗って海に出る話だ。次郎丸は武士になることを諦め、父の後を継いで立派な船乗りになろうと決心している。そして、沈没したとばかり思っていた父の船を海で目撃したことから話が展開していく。この「ゆうれい船」を追いかけるうちに、海賊が現れたり、雪姫がさらわれたり、奇想天外な冒険ストーリーが始まる。琉球の離れ小島で、竜宮城のような平和のユートピアが現れたのには驚いた。そこに遭難して死んだはずの父(大河内伝次郎)が生きていたのだ。この島の王様が仙人みたいな老人(薄田研二)で、海賊がこの島にもぐり込んだあたりからは、予想もつかない展開になる。いったいこの話の結末がどこにたどり着くのか、私はむしろ作品自体の方が心配になり、ハラハラしてしまった。が、さすが、娯楽大作のプロ、松田定次が監督した映画である。最後は、このユートピアの王様が海賊もろとも島を爆破し、次郎丸は父に再会して、めでたし、めでたし。父を連れ、仲間や島民とともに島を脱出し、ゆうれい船に乗って海へ出て行く。海のどこかに平和の国を再建する新たな島を求めて……。