ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 真藤宗幸著 「司法官僚ー裁判所の権力者たち」 岩波新書

2010年07月30日 | 書評
最高裁判所事務総局の司法官僚 第6回

1)司法官僚とは (2)

 裁判所の組織は、最高裁から下級裁判所にいたるまで裁判部門と司法行政部門から構成されている。最高裁は長官が裁判長とする15名の判事からなる「大法廷」と、5名の判事で構成される3つの「小法廷」を裁判部門としている。大法廷は憲法に関する判断や小法廷で意見が二つに分裂した時、裁判官の分限や弾劾問題、人身保護事件などを扱うとされている。最高裁の司法行政部門は「最高裁裁判官会議」によって担われているが、それを補助するものとして1948年「最高裁事務総局」がおかれた。事務総局は事務総長の下に、総務課・広報課・情報政策課、総務局・人事局・経理局の3課3局が官房組織といわれ事務総局の中心で、さらに民事・刑事・行政・家庭の4現局が置かれ、そのほかに司法研修所、書近総合研修所、最高裁図書館がある。最高裁事務局の職員数は約760名で、幹部は職業裁判官が占め、それ以外は事務官である。1950年裁判法特例によって「最高裁判所において指定する職は、判事または判事補をもって充てる」とされた。つまり職業裁判官が事務職につけるということで、これは行政における技術官僚と同じく他の介入を許さない絶大な権限を有するエリート官僚集団を構成する源になった。事務と専門職を同時に帯びるとそこに専断的権力が生まれる。最高裁事務総局の機能を以下に6つにまとめる。
① 最高裁の規則・規約の作成である。
② 法律・政令の制定に関する法務省との交渉・調整である。
③ 裁判官の指名、任命、報酬の決定や裁判官以外の事務官の任命給与などをきめる人事の機能である。
④ 予算編成機能である。
⑤ 裁判官会同・協議会の実施である。制度運用や法令解釈を裁判官に徹底する会議である。
⑥ 調査研究、資料の収集である。

 では司法官僚とは誰だろうか。それは次の4つのカテゴリーの職にある人々であろう。①最高裁判所事務総局の官房組織といわれる秘書課・総務局・人事局・経理局にいる職業裁判官、②高裁長官、高裁事務局長、地裁・家裁所長、③最高裁判所調査官、④最高裁判所事務総局の「局付」といわれる判事捕の幹部候補生である。その数は、①が26名、②が108名、③が約30名、④が20-23名の合計約190名ほどである。事務総局の事務官約760名に較べても小数である。②の人々は所在地を最高裁とは異にするので、最高裁事務総局の中のエリート職業裁判官は極めて少数で分り難い。
(つづく)

環境書評 井田徹治著 「生物多様性とは何か」 岩波新書

2010年07月30日 | 書評
地球上の生物の多様性を失うことは人類の生存の危機 第10回 最終回

4)生物多様性条約とグリーン開発メカニズム  (2)

 国連環境計画(UNEP)金融イニシャティブは「社会的に責任ある投資PRI」の原則を採用する金融機関が増えてきているという。2010年世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)は生物多様性のリスク管理に関する法国書を提出した。生物資源に関する直接的なリスク以外にも、アクセス条件としての規制や法的リスク、消費者動向など市場のリスク、評判や資金調達のリスクが産業やビジネスで理解されて来ているという。2008年国際自然保護連盟(IUCN)とシェル石油は共同で「生物多様性ビジネスの構築」という報告書を出した。もはや地球温暖化防止も生物多様性もビジネスの対象となりつつあるのだ。ひとつは製品の「認証ビジネス」である。「森林管理組合(FSC)」や「海洋管理協会(MSC)」認定の適合認証ラベルを製品に貼って販売促進を図るというものだ。「温室効果ガス排出オフセット」や「エコツーリズム」、「レクレーションビジネス」などの市場規模は2010年には952億ドルといわれている。また地球温暖化防止ビジネスの「カーボンオフセット」の生物多様性版が「生物多様性オフセット」と「クレジットバンク」である。これらを総称して「グリーン開発メカニズム(GDM)」という仕組みである。ODAで生物資源獲得の利益誘導を図るのが日本のやり方であったが、日本の生物多様性ビジネス参加は遅れてしまった。誠に抜け目のないビジネスで、多少疑問を感じる。
(完)




読書ノート 宮本太郎著 「生活保障ー排除しない社会へ」 岩波新書

2010年07月30日 | 書評
雇用と結び付ける「生活保障」政策 第14回

5)排除しない社会のかたち (2)

 公的な支援1本だけでは参加型社会は上手く機能しない。民間事業体の参加も必須である。NPO,協同組合など公益性の強い民間の事業体を「社会的企業」と呼んでいる。今日の若年層の失業問題には、長期的に雇用から切り離されると他人とのコミュニケーションを上手く取れない人が出てくるという問題がある。欧州では就労困難な人の問題解決のために「媒介的労働市場組織」なる社会的企業がある。職業訓練中のドロップアウトなどを防ぎ、就労後の定着率の向上を図っている。日本でも2005年に厚労省の「若者自立塾」ができ社会的リハビリを行っている。協同組合系でも「ワーカーズコレクティブ」、「ワーカーズコープ}などが活動している。社会的企業の役割は、困難を抱えた人々を見捨てないで労働市場に結び付けてゆくことで、これを「労働統合型社会企業」という。排除しない社会を成立させるこうした機能は,基礎自治体、都道府県、国までの異なったレベルの政府組織が民間の事業体と協力しながら進めることになる。これを「ガバナビリティ」(主体性)とか「イニシャティブ」という。地方分権化によって地方自治体の経済的基盤の格差によって参加支援の水準が影響されるなら、支援が必要な自治体ほど水準が低くなるというジレンマを抱えている。そういう場合には「財政調整制度」を設けなければならない。所得保障が国政府の仕事なら、雇用創出は都道府県へ、公共サービスは基礎自治体の仕事になり、そこへ政府と企業と社会企業・NPOとコミュニティが絡んでゆくのである。そして良かれと思う支援を与える(給付)するという考えではなく、当事者の要求と事情に基づいてサービスの内容をきめてゆく「利用者民主主義」(当事者主権)という考えでなければ、必要な支援にはならない。
(つづく)

月次自作漢詩 「夕 立」

2010年07月30日 | 漢詩・自由詩
午熱依然炎暑殷     午熱依然と 炎暑殷なるも

須臾竜巻送清気     須臾にして竜巻 清気を送る

風狂驟雨物皆澤     風狂い驟雨 物皆澤い
    
乱噪蛙聲人不聞     乱噪蛙聲 人聞かず

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(韻:十二文 七言絶句仄起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)