ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

医療問題  参議院選挙を前に民主・自民の医療マニフェストを見る

2010年07月01日 | 時事問題
JMM 「現場からの医療改革」第60回(2010年6月30日)「参議院選挙における医療の争点」  東京大学医科学研究所 上昌広 より

 7月10日の参議院選挙を前に、民主党・自民党のマニフェストが出た。両党の医療に関する論点を読んで、明確な争点がないことに不安を覚えたらしい。そこで財源問題、医師不足問題、成長戦略について両党のマニフェストを比較検討する。まず財源であるが、民主党は無駄を排除して、消費税を含む財政健全化の国民的議論をおこすという。医療費削減をストップした点は高く評価できる。しかし野田財務大臣は当然財政規律派でしょうから、医療費削減を狙ってくるであろう。事業仕分けで問題となった混合診療や自己負担増については民主党は何も言っていない。一方自民党は消費税を10%に上げ、経済成長率を4%を見込むといっているが、経済成長率を政府で保証できるわけはない。出来ない相談をしても仕方が無い。結局は旧来の国家統制で医師偏在を強制し、補助金支配を強めることで官僚の言いなりになる政策を謳い、旧来の反省がない。医師不足問題では民主党医学部増員をおこなった点は高く評価できる。人口増加の激しい東日本の茨城、千葉、埼玉、神奈川の医師不足は深刻である。自民党は診療報酬の値上げによる医師偏在の是正というトンチンカンプンな話をいう。どうも自民党には医療問題の政策シンクタンクがないようである。第3の成長戦略問題について民主党は「ライフ・イノベーション」を重視するというが、内容がない。アメリカオバマ大統領のスタッフが「個別化医療への道」を掲げるとき、政府民主党はもっと具体的な戦略をいわなければならない。一方自民党は昔どおりのサプライヤー重視の研究開発税制、企業支援しか言えない。今までのばら撒き政策が悉く実を結んでいないことをみれば、自民党に策は無いことは明瞭であろう。


読書ノート 砂田一郎著 「オバマは何を変えるか」 岩波新書

2010年07月01日 | 書評
オバマ大統領就任後半年間の初期評価 第2回

 1月20日ワシントンの連邦議会前の広場には、180万人の人々がリンカーン記念堂まで埋め尽くして、アメリカ大統領就任式を祝賀した。就任式直前の世論調査ではオバマ大統領の支持率は80%を超えたといわれる。オバマ大統領がアメリカ国民の本当の「統合者」になることを期待していたかのようであった。寒い中での約20分間の就任演説(わたしも英文でこれを読んだ)は、今日のアメリカ社会の政治社会に対する彼の批判的な現状認識と、その理想とする歴史に根ざしたアメリカ像とを国民に示し、人々に価値観や生き方の変換を求めた。大統領は建国の理念と対比して、今日のアメリカ社会に見られた好ましくない状況を「経済のひどい弱体化は一部の者の強欲と無責任の結果である」と非難した。オバマの現状批判の焦点は前ブッシュ政権の市場原理主義の新保守主義経済政策に向けられ、「我々が今日問うべき問題は政府が小さいか大きいかではなく、政府が機能しているかどうかだ」、「富者だけを優遇していたら、国は長くは繁栄でない」という富の再配分を説いた。ブッシュ政治からのアメリカの再生を宣言して、国民には社会的責任を自覚するように求める倫理的なメッセージを、さらに世界に向かってアメリカは単独行動主義とは異なる国際協調主義的な外交を採ると宣言した。
就任翌日からオバマ大統領は精力的に活動を開始した。法の成立を待たずに実行できる行政権限による政策変更を次々に行った。

①「行政府高官の倫理に関する行政命令」で、政府高官が退官後ロビイストになることを禁止した。
②大統領・副大統領の記録の公開規制を緩和し5年後に原則公開とした。
③外交では世界各国首脳への電話会談を開始した。
④イラクから16ヶ月以内に撤兵計画の作成を命じた。
⑤キューバのグアンタナモ米軍基地内のテロ容疑者収容所の閉鎖と、拷問の禁止を命じた。
⑥中東和平担当特使、アフガニスタン・パキスタン担当特別代表を発表した。
⑦キリスト原理主義者のブッシュ元大統領が定めた「人工妊娠中絶」規制を緩和して、中絶支援団体への資金援助をきめた。
⑧環境政策では、ブッシュが認めなかったカルフォニア州独自の排気ガス規制を認める方向で検討するように環境保護局長に指示した。
⑨自動車の燃費を2020年までに向上させる指針の作成を命じた。
就任後1週間でオバマ大統領はこれらの施策を命じたのであった。日本の民主党の組閣後臨時国会開催までの1ヶ月間に、矢継ぎ早に「官僚の答弁禁止」命令などを発したのも、オバマ大統領を見習ったのであろうか。
(つづく)

読書ノート 徳永恂著 「現代思想の断層ー神なき時代の模索」 岩波新書

2010年07月01日 | 書評
ニーチェ は神を殺したが、20世紀の思想家達の模索は続く 第5回

マックス・ウェーバーと「価値の多神教」 (2)

 ウエーバーの死後、妻のマリアンネが大著「マックス・ウエーバー伝」を著わし、これがウエーバー伝記の決定版となった。その伝記の冒頭にリルケの詩が引用されている。
「それはある時代が終ろうとして、あらためて
その価値を総括してみようとするときに
いつも現れてくる人間だった
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ただ神のみは遥かに彼の意志を超えた所にいる
だからこそその届きがたさへの壮大な敵意に燃えながら
彼は神を愛するのだ」
これはリルケの「時祷詩集」より「それはミケランジェロの生涯だった」の詩の最初の2節3節をとったものであった。「ミケランジェロと比肩する巨人ウエーバー」と妻マリアンネは規定した。一つの時代が終ろうとして、その価値を取りまとめようとする時、いつもたち現れてくる人間「時代の価値の総合者」というイメージである。「現代的文化総合」の体現者として。しかしウエーバーは「時代の価値の総合者」というイメージだけではなく、自分の意志を超えた神を敵意に燃えながら愛するというアンビヴァレント(両義性)な緊張に満ちた人間の姿である。ウエーバーは「英雄的実証主義者」といった英雄伝説で語られることもあるが、むしろ苦闘と挫折という悲劇の未完性を見て行きたいと著者はいう。ウエーバーはなぜ普遍的な合理主義が西欧でしか発展しなかったのかについて、世俗的なものへの固執と超越的なものへの倫理的緊張の二つの契機を挙げているが、ウエーバー自身の自己形成程の根幹をなすものであった。ウエーバーには貴族主義というべき「責任の倫理」を激しく貫こうとして、精神病に苦しんで大学教授の職を棄てた。歴史論理ではリッケルトにより、歴史哲学ではニーチェによりながら、知性を犠牲にして救済を説く偽神の崇拝者を激しく攻撃した。
(つづく)

月次自作漢詩 「水村梅雨」

2010年07月01日 | 漢詩・自由詩
満城連日雨濛濛     満城連日 雨濛濛

梅熟園林榴火紅     梅園林に熟して 榴火紅なり

蛙鼓横塘叢篠出     蛙鼓の横塘に 叢篠出で
   
蚊雷茅屋翠蘿蒙     蚊雷の茅屋に 翠蘿蒙る

●○○●●○◎
○●○○○●◎
○●○○○●●
○○○●●○◎
(韻:一東 七言絶句平起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)

CD 今日の一枚 ブラームス 「交響曲 第2番」

2010年07月01日 | 音楽
ブラームス 「交響曲 第2番」 作品73
ギュンター・ヴァンド指揮 北ドイツ放送管弦楽団
DDD 1982 EMI

ブラームスはヴェートーベンの怨霊を振り払ったかのように、第1番に続いてすぐに第二番を書いた。初演は1877年。第1番がヴェート-ベン風の雄渾壮大から、第二番は明るく伸びやかな作品となり、肩から力が抜けたようです。