ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 巽 好幸著 「なぜ地球だけに陸と海があるのかー地球進化の謎に迫る」 岩波科学ライブラリー

2018年09月23日 | 書評
マントルの対流
  
太陽起源から地球進化の謎に迫る、陸と海の関係から読み解く 第6回

2) 大陸地殻ーその性質と謎(その2)
海嶺のプレート発散境界やホットスポット火山の主要な噴出物が玄武岩であったのと対照をなす。海底プレートである冷たいプレートが沈み込むマントル下降流域において、プレート表面に沿って粘性の高い流体であるマントルが引きずり込まれる。そこで大陸地殻とその下にある上部マントルとの間の「マントルウェッジ」に流れが発生し、深いところからマントルが供給される。いわば温度差による対流ではなく、運動による2次対流である。冷たいプレートが沈み込むことで、高温のマントルウェッジが形成される。ソリダスのマントル物質は、沈み込むプレートが持つ含水鉱物が熱と圧力によって、「脱水分解反応」を受け、よりソリッドな鉱物に変換される。放出された水は含水カンラン岩を作りマントルの深いところ約100Kmで再び水を放出する。水が上昇し約1000度のソリダスを部分溶解し始める。部分溶解したマントル物質は、周囲の非溶解域に比べて密度も粘度も低下し不安定になり、この状態を「レイリー・テイラー不安定」と呼ぶ。部分溶解域は液滴(マントルダイアピル)のように丸い形となって上昇しマントルプルームを形成する。マントルダイアピルの中のマグマは地殻内に上昇し、分離して初生マグマと呼ぶ。マグマは玄武岩質である。沈み込み帯における岩石の構造について、主に化学的組成と相転移について詳細な検討が加えられている。沈み込み帯では安山岩が優先的な理由は、そこで発生する玄武岩マグマには多量に水分が含まれるためである。マントルに水が多量に存在すると、ソリダスが著しく低下する。すなわち通常より低温でマグマが発生する。このような低温条件では低融点成分である二酸化ケイ素が普より多く液相に含まれることになる。発生するマグマは玄武岩質ではなく安山岩質になるのです。東北日本弧やアンデス弧まどの「大陸弧」と呼ばれる大陸周縁部の沈み込み帯の火山では安山岩(ソレアイト質とカルクアルカリ質が、ケイ酸量とマグネシウム量の比率で混晶体で存在)が卓越している。ところが、伊豆・小笠原弧(IBM弧)のような海域で形成される沈み込み帯では、安山岩は貧弱で分化の少ない玄武岩質の組成が高い。海洋域では玄武岩質であるが、安山岩質の大陸地殻はもっと成熟した地殻と言える。地震波伝播速度は光の屈折率屈折率と同じように媒質の化学組成で決定される。IBM弧の火山の直下には20Kmの厚さの「島弧地殻」が存在し、その中部地殻(数Kmの深さ)の層で、平均的な大陸地殻と同じ地震波(P波)伝播速度を示していた。玄武岩質と言われていた海洋地殻で安山岩質の大陸地殻が存在していたこと位なる。このことから大陸地殻がもともとは海洋島弧で生まれたということになるのではないかという。これが本書の主要な主張である。しかしアリューシャン列島では否定的な結果しか得られなかったので、決着をつけるべく次章で述べるプロジェクトIBMがスタートした。

(つづく)


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