ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 服部茂幸著 「アベノミクスの終焉」(岩波新書 2014年8月)

2015年07月31日 | 書評
政府・日銀が語る異次元金融緩和を柱とするアベノミクスの検証 経済は本当に回復したのか 第3回

1) アベノミクス1年半の成果の検証(その1)

 先の浜田宏一氏は1980年代は日銀のすばらしさを称賛していたが、バブル崩壊後の長期経済停滞に意見を急変させる。バブルを作ったことにも長期停滞にも日銀の責任は大きいと言う様になった。浜田氏自身が日銀攻撃の代表者となった。リフレ派が日銀を乗っ取るための戦術かもしれない。対照的にアメリカ経済は好調であったといわれる。2000年のITバブル崩壊後比較的短期間に経済は復興した。そのころアメリカでは「大緩和(モダレーション)」が議論されていた。FRB理事だったバーナンキだけが楽観的に大緩和の未来を語った。その時すでに住宅バブルが拡大していった。2008年サブプライムローン問題を機に発生した証券会社倒産から世界的危機がおこり、バーナンキの大緩和政策は崩壊した。日本の長期停滞の原因はデフレにあるとして、デフレの原因は日銀が金融を緩和しないためであるという経済学者を「リフレ派」と呼ばれた。浜田氏、岩田氏が代表格である。2012年11月安倍氏が日銀による無制限金融緩和を説くと、インフレ気分が広がり13年度前半期の経済成長は高かった。皮肉なことに異次元緩和が始まると日本経済は失速した。きっかけは2013年5月の株価大暴落である。そうして全体的には株価も円安も踊り場に入って止まってしまった。13年後半期の経済成長は低迷した。2014年第1四半期の経済成長率は極めて高いが、これは消費税増税前の駆け込み需要による。14年第2四半期の経済成長率の落ち込みはひどいものであった。要するに日本経済の中身は金融大緩和に関係のない部分(駆け込み需要)を除けば、経済はゼロ成長かマイナス成長である。異次元緩和派の絶頂期は実は緩和開始前の幻想の時期のもので、異次元緩和が開始されると不幸にも日本経済は失速した。日銀は2013年4月4日質的・量的金融緩和の導入を決定した。その柱は①2年をめどに消費者物価上昇率を2%程度までに引き上げること、②マネタリーベースを年間60-70兆円まで増加させること、③長期金利の低下を促すために長期国債を年間50兆円のベースで購入することであった。マネタリーベースとは日銀の現金と日銀当座預金の合計のことで、12年末に138兆円であった者を14年末にはそれを270兆円まで拡大するという方針である(2013年末の実績はマネタリーベースは202兆円、日銀当座預金は107兆円である)。長期国債の保有も89兆円から190兆円は拡大することになる。しかしマネタリーベースの増加はリフレ派が考える経済成長の手段であって、目標ではない。日本経済がマネタリーベースの数値に比例するわけでは決してない。マネタリーベースはいわば虚数であって実数とはなりえない。マネタリーベース量と経済成長率の理論関係が何もないからである。景気づけの花火と言いってもよい。そのために失うものが莫大であることを日銀は知って知らぬふりをしている。安倍氏が無制限金融緩和を主張してから株価と円安が急進行した。2013年上半期の経済成長率は4%を超えた。金融緩和が実施されたのは4月であり、効果が出るとしたら数か月後のことである。従って13年上半期の経済成長率の増加は異次元金融緩和とは全く関係のない事象である。株価と円ドルレートのチャートを見ると、2012年10月から2013年5月の株価大暴落までの期間は直線的に両者は上昇した。しかし5月23日を期にして2014年5月までの1年間は両者はほとんど停滞している、株価(日経平均)14000円、円ドルレートは100円/ドルであった。5月23日の株価大暴落は日銀の長期国債の大量買い付けが国債価格を不安定にしたためである。これを期に株価も円ドルレートも全く動かなくなった。これがアベノミクスの第1の失敗である。初期の段階で円安と株価上昇はなぜ起こったかというと、政策の効果では全くあり得ない。人々の期待に乗った投資家たちの「偽薬効果」である。円安の狙いは輸出を拡大させることであった。日本の経常収支黒字は1997-2010年の間10兆円を超えていた。2011年3月の東日本大震災以来貿易赤字が続き、経常収支黒字も小さくなった。2012年の経常収支黒字は4兆2200億円であった。輸入と輸出と円ドルレートのチャートを見ると、2000年代前半は中国特需によって輸出を拡大してきたが、2008年リーマンショック以来輸出は急減し、2009年より次第に回復してきたが、2011年3月の大震災で再び輸出は減少した。2012年から輸出の回復傾向は無くなり減少傾向にある。2013年より円安で輸出は少しは回復したが円安の停止とともに輸出も拡大しなくなった。その水準はリーマンショック前には戻らなかった。円安で輸出産業が拡大するというのは必ずしも当たらない。ところがリーマンショック後伸び悩む輸出に比べて輸入は堅実に増加の一途をたどっている。円安の不利な条件下でも輸入は増え続けている。これは原発停止によるエネルギー価格高騰の為というのは言いがかりみたいなもので、大震災にもかかわらず輸入は増加し続けているのである。経済構造の大きな変化が背景にあるようで、電子家電の不振に象徴される製造大国日本の地盤が大きく浸食されているのが原因であろうか。2011年3月の大震災を期に日本は貿易赤字(貿易収支マイナス)になり、経常収支(投資、金利収入などを含む全収支)も2013年末には赤字となった。日銀の金融大緩和が始まると皮肉にも経常収支が悪化した。これは金融政策ではどうしようもない産業構造の沈下こそが大問題なのである。アベノミクスの第2の失敗は輸出拡大による経済復活に失敗したことである。

(つづく)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿