ブログ 「ごまめの歯軋り」

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平成経済 衰退の本質

2021年04月29日 | 書評
京都市右京区 「仁和寺 方丈勅使門」

金子勝 著 「平成経済 衰退の本質」 

岩波新書(2019年4月)

第4章 終わりの始まり (その1)

① 出口のない「ねずみ講」 異次元の金融緩和政策の破綻 
「失われた30年」の過程は、マクロ政策の景気対策とミクロ政策の構造改革の間を振り子のように揺れながら、いまや現状維持さえ難しい状況となった。アベノミクスの失敗はまさに「終わりの始まり」を意味する。安倍政権は、バラマキ、見せかけ、諦めの三種のポピュリズムを使い分けているが、その基盤は出口を考えない日銀の「信用創造」である。黒田日銀総裁に政策目標は、①2年で2%の物価上昇率、②マネタリーベースを2年間で2倍に、③長期国債の保有量を2倍以上にすることであった。その結果、日銀の国債保有量は、リーマンショック時08年で42兆円、異次元緩和開始時点の13年3月で125兆円、19年には478兆円に膨れ上がった。株式保有量は、13年で1兆5000億円から、19年3月で24兆4764億円になり、日銀の総資産は563兆円でほぼGDPと同じとなった。国の借金は13年度の991兆円から17年度には1087兆円となった。16年には日銀はマイナス金利を導入し、超低金利政策は地方銀行の経営を困難にした。この超低金利政策は大手銀行には適用されず、18年には大手銀行の当座預金残高は389兆円に積み上がった。16年末の国債保有量は日銀が42.3%を占め、銀行や生保は各々20%以下である。海外投資家の保有率が11%に増加した。日銀の政策金利は2000年以来ずっとゼロ状態を続けているが、16年以降アメリカは金利を戻す方向にかじを切った。2019年2月の消費者物価指数は石油の値上がりの影響があったが0.4%にとどまった。実質賃金はマイナス0.2%になり、デフレ脱却とはとても言えない。アベノミクスが「出口のないねずみ講」といわれるのは、日銀が金融緩和を止めたとたん、国債価格が下落し金利が上昇し、日銀と銀行は天文学的な負債を抱え込むからである。2017年度末の国の財政赤字は1087兆円に達するのに国債利払いが10兆円にとどまり財政破綻せずにいるのは、日銀が低い利子で国債を買い支えているからである。もし金利が上がれば国債利払い高は急膨張する。安倍は日銀の政策委員をリフレ派で占め政策の失敗の対する根本的な批判を封じ込めている。

日銀は国債だけではなく、多量の株を買って株価を維持している。これを「官製相場」という。19年3月で日銀は24兆4764億円のETFを持ち、信託預かり株式も8892億円を持つ。全体のETFの3/4を持つことになった。日銀がリスク資産である株を大量に買うのは異常事態である。日銀が株を売れば株価は下落するので、これも止めるにやめられない「出口のないねずみ講」である。加えて年金積立金管理運用GPIFや3つの共済年金が株買いに走っている。17年度末でGPIFと共済年金は54兆円3457億円の株をもち、海外証券を72兆円3854億円を持っている。年金基金を使って円安・株高を作り上げている。それに郵貯と簡保が加わって「官製相場」を支えている。金融資本主義では企業そのものが売買の対象となるので、企業の株価を高めると買収されにくくなる。また企業同士が株を持ち合うと二重課税を避けるため、その配当には法人税がかからないので内部留保を積み上げるメカニズムとなる。株価が上がると内閣支持率が連動して上がる現象は、株価上昇を望む層を喜ばすことにつながる。それで歓迎されるのである。これを「選挙循環」という。だから選挙前に景気対策をして景気が良くなり、選挙後物価上昇を抑えるために景気が悪くなるのである。1997年以降、日本では株価と内閣支持率が連動するようになった。株価維持が内閣の生命維持装置となった。日銀の株買いは内閣存続のために必要となった。世界経済の中で日本の地位の低下は著しいが、株価だけがバブル期並みの水準に上がっている。株の官製相場は、外国人投資家の取引が70%を超えている現在で日本の株式市場は外国投資家にとって格好の餌食となる。空売りや先物取引CTAデータのトレンド変動だけを追いかける「さや抜きファンド」の暗躍も見逃せない。日銀が先頭になってバブルを演出しているのは株だけでなく、不動産投資信託買いへの介入は19年で5087億円となっている。2018年12月から19年初めに世界同時株安が起きた。アメリカの利上げ政策が原因で景気にブレーキがかかったためである。英国はEU離脱により年8%の大幅な景気後退となるだろう。日本では東京オリンピックが終わると建築・不動産バブルは景気後退局面に入るであろう。日本で金融危機が起きた場合打つ手はもうない。円安株高依存の日本経済の没落が始まる。日銀そのものが債務超過になる危険性が高い。日銀は銀行の決済システムの中枢にあって、次の三つの政策手段を持つとされる。①政策金利を通じた金利誘導、②通貨供給量のコントロール、③預金準備率の操作である。金融危機が生じた場合、もはや低金利政策は使えない。銀行の倒産,信用秩序の崩壊となる。すでに470兆円も国債を買い込んだので国債取引も成立しない。預金準備率も当座預金が400兆円積み上がったまま腐るしかない。黒田日銀は安倍政権と一体化しており独立性を完全に喪失しているので、日銀法第5条が禁じている国債の直接買いに追い込まれる恐れがある。これは事実上戦時経済と同じになる。日銀が財政赤字をファイナンスすると、産業衰退が一層加速し政府の財政健全化政策を根底から諦めたことになる。これはもう民主国家ではない。独裁軍事政権と同じである。そして戦争に訴えることになるであろう。

(つづく)



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