ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 石井哲也著 「ゲノム編集を問うー作物からヒトまで」  岩波新書

2019年04月09日 | 時事問題
水ぬるむ春 水辺の風景

第3世代のゲノム編集技術「クリスパー・キャス9」によるゲノム改変がもたらす諸問題を検証する 第6回

2) 品種改良とゲノム編集 (その2)

こうした新しい育種技術は、生態系への影響や食品安全性を評価し、問題がなければ商業栽培が許可される。2000年生物多様性条約国特別会議が採択した「カルタヘナ議定書」では、「生きている改変生物」として無秩序な利用の悪影響を考慮し取り扱いや輸送、利用について取り決めがなされた。170か国が批准したが、世界最大の農産物生産国アメリカは批准していない。遺伝子組み換え技術の規制は、商品のリスク評価を行う「プロダクトベース:と、開発の全課程にわたってリスク評価を行う「プロセスベース」の規制に大別される。一般的にはプロダクトベースの規制の方が緩い。遺伝子組み換え作物の作付面積では、アメリカ、ブラジル、アルゼンチンの上位3国はプロダクトベース規制であるが、作付面積では桁違いに少ないインド、中国などはプロセスベース規制を採用している。一方食用を目的とする家畜の遺伝子組み換え事例は世界において1件もない。遺伝子組み換え作物の作付面積の段違いに多い北米や南米を合わせると世界の半分以上を占める。多国籍育苗会社(モンサントなど)による除草剤耐性作物と除草剤の抱き合わせ販売のビジネスモデルが世界を支配している。2005年まではアメリカには遺伝子組み換えの表示制度がなかった。しかし2016年連邦法で「安全性食品表示法」が制定されたが、企業のロビー活動で骨抜きされその効果を疑う声も多い。日本では1996年厚生省が作物の「組み換えDNA技術応用食品・食品添加物安全性評価指針」を定めた。2001年食品衛生法改正によって、食品安全基本法の規制と相まって、JAS法と食品衛生法に基づいた表示が義務付けられた。ところが日本では多国籍育苗会社日本法人が2017年1月段階で168作物について輸入や日本での栽培許可申請をしている。そのうち輸入・栽培許可がいずれも承認されたものは125作物であるが、生産者は栽培しないのが現状である。日本は遺伝子組み換え作物の輸入大国である。全輸入量はほとんどアメリカからで、約1471万トンである。味噌、豆腐の大豆や菓子のトウモロコシなどの遺伝子組み換え作物を日本人は相当食べている。にも関わらず、日本の食卓では心理的に遺伝子組み換え作物は歓迎されていない。意識調査ではいつも敬遠され、なぜが不信感が強い。その原因の一つが表示制度への不信である。日本では「全重量の5%以上を占めるものにしか表示義務はない」が、世界のほとんどの国では0.9%以下あるいは1%以下は表示は免除という。この意識と実態のアンバランスはひとえに日本の食料自給率の低さ(39%)にあり、原料で組み換え作物の痕跡をとどめない加工食品に表示を義務付けていないので、つまり知らぬ間に食べていることが現状である。組み換え大豆がもしこぼれて日本で自生しても生物多様性には影響ないという立場を環境省はとっている。またこうした不信感の本になっているのは、生産育苗会社が多国籍企業の巨大コングロマリットで多額な開発費を掛けらる超独占企業で、かつ農薬生産企業でもありかってべトナム戦争で枯葉剤を生産し健康被害をまき散らした企業への市民の反感が強いからである。遺伝子組み換え作物の食品として安全性は「科学的には問題ない」として、消費者との対話・コミュニケーションを促進すルということが政府の方針である。しかし害虫耐性を持たせるため、細菌由来の毒素(Bt毒素)遺伝子を導入された作物は人間に対して有毒性は大丈夫なのかという疑問があるが、厳格な食品安全性試験で毒性は否定された。「こぼれ落ち問題」は耕作地付近の生態系への影響が考えられる。除草剤耐性遺伝子を持つ雑種が耕作地域に自生すると、社会的な問題となる。有機農法農産物に混入すると商品ブランドを侵害することになる。日本では都道府県の一部で別途許認可制度を採用するところが、北海道、新潟県、神奈川県や一部の市町村に見られる。まだまだ心配の種は尽きないのである。遺伝子組み換え家畜は食品安全性だけでなく、動物愛護の観点からの反対がある。体細胞クローンによる家畜育種をめぐる論争も絶えない。2009年日本の食品安全性委員会は「クローン家畜由来の食品は安全」との見解をとったが、体細胞クローンでは高頻度に先天性異常が発生し殺生処分をすることが多かった。欧州議会では動物愛護を踏まえてこの方法の規制を求める投票を実施した。養殖魚では成長ホルモン遺伝子を導入したサケの養殖承認をアメリカは2015年に、カナダでは2016年に承認された。FDAの表示方針が決まるまで販売停止となっている。遺伝子組み換え作物や家畜が歓迎されない理由は、規制制度への疑義、拡散の危険性、企業への不信、リスクコミュニケーションの不調、倫理感などが存在する。 

(つづく)


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