ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート  真野俊樹著 「入門 医療経済学」 中公新書

2008年08月23日 | 書評
医療制度を考える上で、医療経済学的視点は欠かせない 第8回
序(2)

経済学にはマクロ経済学とミクロ経済学がある。市場を中心に経済人の行動や生産物、労働、資本の市場を詳しく分析するのがミクロ経済学である。医療と云う市場を分析する医療経済学はミクロ経済学に属するといえるが、医療は国のインフラであるといえばミクロ経済学ではない。市場は価格を媒介として自発的な取引(資本主義市場経済)をする場であり需要と供給で価格が決まる。しかし医療費(価格)は診療報酬という公定価格に基づいて決定されるので、医療は「市場の失敗」にあたる。アメリカを除いた国では医療は排除性と競合性を有する私的財ではなく公的医療保険による公共財に近い。自由主義的資本主義では電力・水道・ガスなどの産業は規模によって費用が逓減するので市場が独占的になり(独占的競争市場)、政府による規制が必要である。市場には常に売り手と買い手の間に情報の非対称性と不確実性が存在する。医療の場合も医者と患者の間に医療知識・経験という財について大きな非対称性と、何時病気になるか分からないと云う需要の不確実性が存在する。医療という資源を分配する時、何らかの価値観が必要である。政府によって価値観を強制する権利と義務をあたえることを「価値財」といい、国民皆保健制度によってあまねく医療を受けることが出来ると云うのは価値財である。医療財情報の非対称性は今までは医師側のパターナリズム(家父長制)で医者が独占していたため、既にみた医者ー患者の信頼関係の崩壊と云う事態になった。医療は市場の神の手がうまく働かない分野であるし、必然的に政府の介入を許してきた。しかし政府も予算、市場への影響力、政治過程、官僚制のために失敗する場合が多い。


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