ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 近藤宣昭著 「冬眠の謎を解く」 岩波新書

2011年03月08日 | 書評
シマリスから冬眠特異的蛋白質(HP)の発見への道 第3回

 本書は第1章で冬眠モードの心臓筋肉細胞の変化を、第2章で冬眠特異的蛋白質の発見、第3章で強制的に冬眠を起こさせる方法、第4章で冬眠型動物の寿命について述べられている。第1章から第4章まで、話は一応実験動物であるシマリスに限ったこととして話を進める。実験データがあるわけではない外の話題には飛ばないことにしよう。まして第5章の「ヒトと冬眠」は想像の範疇を出ないので、著者には悪いが無視する。想像は自由だが、本書を読む人が本当にするといけないので省略する。科学論文は、「序論」、「方法」、「結果」、「討論」で構成され、「討論」では得られた結果の範疇でしかその意義を述べてはいけないことになっている。外の動物や人にまでシマリスの結果が他の動物、まして人間にまで普遍的に及ぶという保証は無いのである。そして本書は科学論文では無く啓蒙書に類する「新書」ではあるが、全く実験結果を示さずに、新たな物質を発見したとか、大変重要な結論を述べているところが数箇所あり、はやる著者の気持ちは分るが、認めろと言われても困るのでこれも無視する。要するにシマリスから冬眠特異的蛋白質(HP)を発見したということが、本書の意義である。学会はこの結果をどう評価しているかは知らない。恐らく決定的な証拠とするには、物質の同定・結晶化・構造解析および遺伝子配列解析がされていないこと、精製された物質または遺伝子的に作られたその物質で強制的に冬眠を導入することが出来たかどうかについて、本書ではよく分らない。新しい蛋白質の発見というにはまだ少し足らないのではなかろうか。
(つづく)


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