ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 軽部謙介著 「官僚たちのアベノミクスー異形の経済政策」 岩波新書(2018年2月)

2019年08月08日 | 書評
ひまわり

アベノミクスはどのように政策として形成されたか、官僚たちの流儀 第5回

第1部) 2012年11月―2012年12月 政権移行 (その3)

1-4) 政権移行の実相

アベノミクスを掲げた第2次安倍内閣の政策作りは急ピッチで進められた。首相の意思をスムーズに貫徹させるプロセスの確立(体制)が求められた。組閣は12月26日となり、初閣議で首相が何を言うか自民党の了解を取る根回しも必要だ。政調副会長の宮沢は財務省と協議し閣議の議題の文章化を進め、甘利会長の承認を取った。経産省は早い時期から、麻生氏が副総裁兼財務大臣、菅氏が官房長官という情報を得た。安倍、麻生、菅という権力中枢構想は11月半ばには明確になっていた。内閣官房の幹部たちは管にTPP参加問題をはじめ政治マターを説明した。各省庁をまたがる問題を整理するのは内閣官房の仕事である。「政治家の主張する仕組みを矛盾なく作り動かすのは役人の仕事」と内閣官房の官僚はいう。内郭官房副長官だった杉田和博(警察出身)が総括し、経済担当の副長官補の佐々木豊成(経産省出身)が中心となって60-70人規模となる日本経済再生本部総合事務局に人事に取り掛かった。次官級の人事は財務省から飯塚厚(総合調整役)、経産省から赤石浩(産業競争力会議担当)、内閣府から田和宏(経済財政諮問会議担当)の3人が入った。経済再生本部は12月26日の閣議で設置が決まることになっていたので、内閣官房の幹部5人が23日に集まり、その役割と所掌を確認した。こうして閣議決定の文案が出来上がったが、再生本部は必要な経済対策と成長戦略の二つを主要任務とし、経済財政諮問会議と並列で安倍政権の経済政策の司令塔を担うという文面になった。飯塚厚、赤石浩、田和宏の次官級3人は再生本部の組織図から職場の机の配置図まで決定した。選挙後、経団連をはじめとする様々な利益者団体は自民党に一斉に陳情に出かけた。12月28日安倍次期首相は「日銀との政策協定と物価上昇率2%目標設定ができるなら、日銀法改正は不要だ」とインタビューで発言した。独立性を謳う日銀への圧力を公言したことになったが、誰も問題とする者はいなかった。1997年に全面的に改正された新日銀法第3条では「日銀の通貨及び金融の調節における自主性は尊重されなければならない」、同第4条では「それが政府の経済政策の基本方針と整合的なものになるよう、常に政府と連絡を密にし、十分に意思疎通を図らなければならない」と書かれている。どちらかに重点を置いた発言は政権との距離を決めるのである。12月18日、日銀の白川総裁は自民党本部に安倍を訪ねた。この両者の調整役に入ったのは財務省であった。12年10月に民主党政府と日銀は「消費者物価上昇率は1%を目指しゼロ金利政策と金融資産の買い入れなど金融緩和措置を推進する」という文書を交わしていた。財務省は第4条「政府と日銀の連携強化」を重視する姿勢で、新政府がいう2%の物価上昇率目標は飲まざるを得ないのではないかと考えていた。問題は、①物価インフレターゲット2%、②説明責任、③目標の達成時期、④雇用の安定、⑤アコード、⑥政府の取り組みについて、財務省と日銀は政府と取り交わす文章の最終段階に入った。ただインフレターゲット2%が「国際標準」かどうかである。ニュージランド、カナダ、スウェーデンなどの中央銀行は2%物価目標を採用している。だからそれが国際標準といえるかどうかは疑問が多い。説明責任とはインフレターゲットが達成できない場合、日銀の責任だとして総括しなければならない。達成時期は「2年で2%を達成しろ」と言われても誰も保証できない、これは財務省も同意見である。雇用の安定についても、日銀の責任あるいは経済政策全体に責任をとレうことは日銀にはできないということである。つぎに文書の名前をアコードと呼ぶことは、中央銀行の独立性強化のためにFRBが政府と結んだ協定書のことで、財務省は「共同声明」という合意文書がふさわしいと考えた。12月20日の日銀決定会合では追加金融緩和策を発表し、物価目標については来年1月の決定会合で結論を出すと発表した。日銀は白川総裁、山口副総裁、理事の門間、内田の4人で財務省との折衝を続けた。かれらは4人とも日銀プロパーである。12月25日組閣前日の日に、安倍は「金融政策によって円高を是正するのは当然のことだ」と発言した。これは表向きは「通貨の引き下げ競争はしない」という国際ルール違反となる。この問題はアベノミクスの本質に直結する重大問題であった。金融緩和策によってデフレ脱却をすると日銀に迫りながら、その実はドル買い円安誘導の狙いであったとすれば、2枚舌も甚だしい裏切り行為である。安倍は調子に乗って絶対言ってはいけないことを喋ったのである。

(つづく)


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