ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート プラトン著 岩田靖夫訳 「パイドン―魂の不死について」(岩波文庫 1998)

2015年05月30日 | 書評
ソクラテスの最後の対話、永遠不滅のイデアを持つ魂は不死である 第1回

序(1)
 プラトンの概要については、プラトン著 久保勉訳 「ソクラテスの弁明」、「クリトン」(岩波文庫)にも書いたが、復讐のため再録する。プラトンは師ソクラテスの公開裁判を傍聴し、ソクラテスの言葉を記録した。牢獄でクリトンとともに師に対し脱獄を勧めてその時の対論を記録したのもプラトンであった。正確に記したかどうかは不明であるが、極めて芸術的に高い文章になっているのはプラトンの能力のなせる業である。プラトン(紀元前427年 - 紀元前347年)は、古代ギリシアの哲学者である。ソクラテスの弟子にして、アリストテレスの師に当たる。プラトンの思想は西洋哲学の主要な源流であり、哲学者ホワイトヘッドは「西洋哲学の歴史とはプラトンへの膨大な注釈である」という趣旨のことを述べた。現存する著作の大半は対話篇という形式を取っており、一部の例外を除けば、プラトンの師であるソクラテスを主要な語り手とする。プラトンは、師ソクラテスから問答法(弁証法)と、「無知の知」を経ながら正義・徳・善を理知的かつ執拗に追求していく哲学者(愛知者)としての主知主義的な姿勢を学び、国家公共に携わる政治家を目指していたが、三十人政権やその後の民主派政権の惨状を目の当たりにして、現実政治に関わるのを避け、ソクラテス死後の30代からは、対話篇を執筆しつつ、哲学の追求と政治との統合を模索していくようになる。ピュタゴラス学派と交流を持ったことで、数学・幾何学と、輪廻転生する不滅の霊魂の概念を重視するようになり、感覚を超えた真実在としての「イデア」概念を醸成していく。紀元前387年、40歳頃、プラトンはシケリア旅行からの帰国後まもなく、アテナイ郊外の北西、アカデメイアの地の近傍に学園を設立した。アカデメイアでは天文学、生物学、数学、政治学、哲学等が教えられた。そこでは対話が重んじられ、教師と生徒の問答によって教育が行われた。紀元前367年、プラトン60歳頃には、アリストテレスが17歳の時にアカデメイアに入門し、以後、プラトンが亡くなるまでの20年間学業生活を送った。プラトンの哲学はイデア論を中心に展開されると言われる。生成変化する物質界の背後には、永遠不変のイデアという理想的な範型があり、イデアこそが真の実在であり、この世界は不完全な仮象の世界にすぎないという。プラトンは、最高のイデアは「善のイデア」であり、存在と知識を超える最高原理であるとした。哲学者は知を愛するが、その愛の対象は「あるもの」である。こうした発想は、『国家』『パイドロス』で典型的に描かれている。プラトンは、師ソクラテスから問答法(弁証法)を受け継いだ。『プロタゴラス』『ゴルギアス』『エウテュデモス』といった初期対話篇では、専らソフィスト達の弁論術や論争術と対比され、妥当性追求のための手段とされるに留まっていたそれは、中期の頃から対象を自然本性にしたがって「多から一へ」と特定するための推論技術として洗練されていき、数学・幾何学と並んで、「イデア」に近付くための不可欠な手段となる。『メノン』以降、数学・幾何学を重視して、これらは感覚を超えた真実在としての「イデア」概念を支える重要な根拠ともなった。中期・後期にかけての対話篇においては、「イデア」論をこの世界・宇宙全体に適用する形で、自然学的考察がはかられていった。このように、プラトンにとっては、自然・世界・宇宙と神々は、不可分一体的なものであり、そしてその背後には、善やイデアがひかえている。こうした発想は、アリストテレスにも継承され、『形而上学』『自然学』『天体論』などとして発展された。プラトンは、師ソクラテスから、「徳は知識である」という主知主義的な発想と、問答を通してそれを執拗に追求していく愛智者(哲学者)としての姿勢を学んだ。こうしてプラトンは、人間が「自然」(ピュシス)も「社会法習」(ノモス)も貫く「善のイデア」を目指していくべきであるとする倫理観をまとめ上げた。そしてこの倫理観は、『国家』『法律』においてプラトンの政治学・法学の基礎となっている。アリストテレスもまた、『形而上学』から『倫理学』を、『倫理学』から『政治学』を導くという形で、そして、「最高の共同体」たる国家の目的は「最高善」であるとして、プラトンのこうした構図をそのまま継承・踏襲している。プラトンは経験主義のような、人間の感覚や経験を基盤に据えた思想を否定した。感覚は不完全であるため、正しい認識に至ることができないと考えたためである。プラトンの西洋哲学に対する影響は弟子のアリストテレスと並んで絶大である。

(つづく)


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