ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 広河隆一著 「福島 原発と人々」 岩波新書

2011年09月11日 | 書評
福島第1原発事故はチェルノブイリ級、日本政府のいう事を信じてはいけない 第9回

2)事故の隠蔽と拡がる放射能被害 (2)

 隠すことによって被爆者は増加するのである。避難を早期に実行すべき地方自治体の動きに決定的に影響した。国・東電の為政者は住民に「安心して死ね」といっている。自分達の支配の不合理と破綻を知られるよりは、将来に被爆で何万人が死んでも税金で賠償金を払えばいいと踏んでいるからである。財政破綻はとっくに知られているが、支配の破綻も自民党政権の終焉をみて、うすうす感じている人も入る。今回の地震で白日の下に決定的に明らかになったのは、戦後60年余の自民党と財界の国運営の崩壊である。隠蔽することの利点というと、政府や財界はその場を切り抜けることが当面の最大の課題である。そのためには隠し嘘をついて、国民には安心して眠ってもらうことである。こうした嘘は、原子力産業が「絶対に安全である」という神話に成り立つことに起因している。チェルノブイリ事故では、ドイツでは放射能の雨が降ったことを政府は秘匿した。フランスでは放射能は届いていないとさえ言った。このチェルノブイリ事故以来、原発産業とは嘘をいうものだという認識が世界中に広まった。チェルノブイリ事故では事故の原因は原発の構造の本質から出てくるのではなく、運転員の人為ミスから起きるという「ヒューマンエラー説」を学者は広めた。日本のように地震大国に原発を建てること事自体が事故の原因であると考えられる。そして最後に核廃棄物の最終処分をどうするかは解決不可能な問題である事に国民が気がついてはいけないことである。断層のあるところに建築物を建てないことは鉄則であるとするなら、地震大国津波大国の日本列島には原発を建造してはいけない。まして廃棄物処理を欠いた完結性のない技術である原発は持続的社会の反対物である。事故で放出された放射性物質の量が国際評価で最も高い「レベル7」に相当する事を保安院が発表したのが4月12日である。そして恐るべき炉心のメルトダウンが起きていたのを東電が認めたのは5月12日であった。遅すぎるというより、やはり悪質な意図が働いていたと理解すべきである。3月12日事故直後に炉心メルトダウンの可能性を予見した保安院の中村幸一郎審議官はすぐに解任された。
(つづく)

環境書評 大島秀利著 「アスベストー広がる被害」 岩波新書

2011年09月11日 | 書評
中皮腫発症の40年のタイムラグが、アスベスト対策を甘く見た原因 第9回

3)拡がるアスベスト禍 (2)

 アスベストにに係るさまざまな産業の被害状況を見てゆく。労災認定された人の中で、「建設業」(スレートなどの建材)が43%を占めて断然トップであった。ついで造船業(保温材・吹き付けアスベスト)が14%、窯業・土石製品製造業(配管・耐火物)は8.5%、輸送機械製造業(鉄道車両など)は5.2%、機械器具製造業が4%、化学工業(プラント)が3.4%、その他が22%である。2008年建設労働者388名は国及び建材メーカーを相手取って集団訴訟を起こした。造船業関係では、住友重機械工業を相手にした1988年の「横須賀石綿塵肺訴訟」が有名で、1999年アスベスト疾患訴訟では国及び米軍を相手に提訴し勝利または和解となった。さらに造船下請け企業の作業員にも救済を広げる訴訟が2008年に起こされ2011年3月に和解が成立した。鉄道関連業では旧国鉄職員2人が2007年横浜地裁に提訴し、2008年12月和解が成立した。再生機構とJRは責任を認め1人1700万円を支払った。2011年6月時点での旧国鉄職員のアスベスト被害認定者は中皮腫が151人、肺がんが110人など計330人に達している。「輸送用機械器具製造業」では2010年3月末でのアスベスト健康被害者は労災認定されただけで400人となる。化学工業での被害も目立ち始めた。2010年3月末時点での労災認定者は化学工業で264人、繊維工業で115人であった。中皮腫の潜伏期間は40年であるため、定年退職してから発病する人にたいして、企業は高齢を理由に補償金を打ち切っていた離、年齢制限・差別をもうけたりしていたため、退職者は訴訟を起こした。ニチアスと日本通運訴訟では大阪地裁は2011年3月2620万円の支払いを命じた。ニチアスでは退職者が企業と団体交渉するために、2006年「退職者労働組合」を結成したが、会社は団体交渉を拒否した。兵庫県労働委員会は2007年7月団体交渉権を否定したが、大阪地裁へ提訴し、2008年団体交渉権を認める判決が出、2009年2月大阪高裁での控訴審でも団体交渉権を認めた。
(つづく)

読書ノート ニコラ・ブルバキ著 「数学史」上下  ちくま学芸文庫

2011年09月11日 | 書評
ユウクリッド「原論」からブルバキ「数学原論」にいたる構造主義的アプローチ 第8回 最終回

微積分学

 実学として極めて応用価値が高く、今も尚その切れ味は衰えていない微積分学は、抽象代数学とは違って構造数学にはなじまないようだ。代数学がバビロニア数学の伝統の上にたつ形式論理だとすると、微積分学は欧州文明の伝統である記号操作法の典型である。微積分学のテーマたるやどうにもならないほど多方面で絡み合っており、テーマの整理で精一杯の模様である。①数学的厳密性、②運動学、③代数的幾何学、④問題の分類、⑤補完法と差分の計算、⑥無限小解析の代数化、⑦関数の概念などである。一般に近世的な微分積分学の形成史において、ニュートン流の幾何学的ー運動学的ー自然学的伝統の流れと、ライプニッツ流の代数学的ー原子論的ー形而上学的伝統の流れが存在する。ブルバキの見解には力学や運動学との関係が薄いことは明白である。そしてブルバキは「位相論」も取り扱いが少ない。
(完)

筑波子 月次絶句集 「江村午後」

2011年09月11日 | 漢詩・自由詩
村社無人喧乱蝉     村社人無く 乱蝉喧し

農家柿熟午鶏眠     農家柿熟し 午鶏眠る

江間波浪雙飛鷺     江間波浪 雙飛の鷺

燕子磯頭獨釣船     燕子磯頭に 獨釣の船


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(韻:一先 七言絶句仄起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)