ブログ 「ごまめの歯軋り」

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環境書評 大島秀利著 「アスベストー広がる被害」 岩波新書

2011年09月11日 | 書評
中皮腫発症の40年のタイムラグが、アスベスト対策を甘く見た原因 第9回

3)拡がるアスベスト禍 (2)

 アスベストにに係るさまざまな産業の被害状況を見てゆく。労災認定された人の中で、「建設業」(スレートなどの建材)が43%を占めて断然トップであった。ついで造船業(保温材・吹き付けアスベスト)が14%、窯業・土石製品製造業(配管・耐火物)は8.5%、輸送機械製造業(鉄道車両など)は5.2%、機械器具製造業が4%、化学工業(プラント)が3.4%、その他が22%である。2008年建設労働者388名は国及び建材メーカーを相手取って集団訴訟を起こした。造船業関係では、住友重機械工業を相手にした1988年の「横須賀石綿塵肺訴訟」が有名で、1999年アスベスト疾患訴訟では国及び米軍を相手に提訴し勝利または和解となった。さらに造船下請け企業の作業員にも救済を広げる訴訟が2008年に起こされ2011年3月に和解が成立した。鉄道関連業では旧国鉄職員2人が2007年横浜地裁に提訴し、2008年12月和解が成立した。再生機構とJRは責任を認め1人1700万円を支払った。2011年6月時点での旧国鉄職員のアスベスト被害認定者は中皮腫が151人、肺がんが110人など計330人に達している。「輸送用機械器具製造業」では2010年3月末でのアスベスト健康被害者は労災認定されただけで400人となる。化学工業での被害も目立ち始めた。2010年3月末時点での労災認定者は化学工業で264人、繊維工業で115人であった。中皮腫の潜伏期間は40年であるため、定年退職してから発病する人にたいして、企業は高齢を理由に補償金を打ち切っていた離、年齢制限・差別をもうけたりしていたため、退職者は訴訟を起こした。ニチアスと日本通運訴訟では大阪地裁は2011年3月2620万円の支払いを命じた。ニチアスでは退職者が企業と団体交渉するために、2006年「退職者労働組合」を結成したが、会社は団体交渉を拒否した。兵庫県労働委員会は2007年7月団体交渉権を否定したが、大阪地裁へ提訴し、2008年団体交渉権を認める判決が出、2009年2月大阪高裁での控訴審でも団体交渉権を認めた。
(つづく)


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