ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 富永茂樹著 「トクヴィルー現代へのまなざし」 岩波新書

2011年09月20日 | 書評
フランス革命時の民主思想の憂鬱とは 第3回

 その「トクヴィルの憂鬱」の講座の内容を富永氏はつぎのように解説している。「アレクシス・ド・トクヴィルは16歳のとき父の図書室で18世紀の啓蒙哲学の書物を読んで、それまでもっていた世界観が崩れるような衝撃を受け、「もっとも暗い憂鬱」を経験する。彼はこの憂鬱を生涯いだきつづけた。同じ憂鬱をとおして叔父である作家のシャトーブリアンに示す親近感は、トクヴィルを北米大陸へといざなうが、彼がこの地で発見したのは、叔父の描いた大自然のなかでの憂鬱に加えて、平等が進行する社会のただなかに生きる人間の憂鬱であった。『アメリカにおけるデモクラシー』のなかで「奇妙な」という形容詞を付されるこの憂鬱は、後に『自殺論』のデュルケームが『アノミー』と呼ぶ社会状態を先取りするものであった。アメリカから帰国後の七月王政から二月革命にかけてフランスもまた、人間が焦燥感に駆られ、しかし他方で進展のないまま停滞のつづく状態にあった。この停滞を前にして、トクヴィルの憂鬱はますます深まるばかりである…… こうした憂鬱に注目することで、18世紀から19世紀にかけての思想史における連続と切断、平等が支配する近代社会の特質、この社会に向けられる社会学的思考の生成など、知識社会学における多方面での主題の考察が可能になるはずである。」
(つづく)

環境書評 西岡秀三著 「低炭素社会のデザインーゼロ排出は可能か」 岩波新書

2011年09月20日 | 書評
日本低炭素社会 脱石油・脱原発のシナリオ 第7回

2)達成するにはどのような技術が必要か (2)

 輸送技術の革新は目覚しく、輸送量の削減とモーダルシフト技術に期待が持たれる。電気自動車EVはガソリン車の1/4のエネルギーで走る。出力の大きな電池の開発、走行可能距離の向上、電気スタンドの普及と蓄電高速化が課題である。しかし未来の自動車技術はまだ幾つかの不確実な要因を抱えている。バイオマス燃料、LPG車、天然ガス車の動力源によってインフラ整備が異なる。燃料電池車では水素供給に難問題が多い。エネルギー消費の37%を占める産業部門の削減は省エネルギー技術によりさらなる削減を期待し、産業構造自体の転換が求められる。日本の産業構造のうちGDPが少なくてエネルギー消費の大きい分野は、鉄鋼(自動車用鉄鋼が大きいので機会の分野と一緒にしなければという意見がある)、化学・石油工業、紙パルプ業、窯業セメント工業であり、逆にGDP寄与が大きくてエネルギー消費の少ない分野には機械、食料品、建設業である。鉄鋼部門ではスクラップ鉄の一層の利用と高品位鉄鋼には水素鉄鋼還元技術などが期待される。化学工業はエレクトロニクス材料などで今後も大きく伸びる分野であるが、エネルギー消費が大きい。資本集約的な大量生産一般材料は海外移転が進むであろう。エネルギーを多く使う原価の厳しい製品は海外へという戦略も生まれる(公害の海外移転と同じで問題は残るが、不採算部門の切り捨てという意味で)。セメント関係は公共事業の減少からすでに1990年から30%の削減となっている。紙パルプは18%も減少している。
(つづく)

読書ノート 竹内 啓著 「偶然とは何かーその積極的意味」 岩波新書

2011年09月20日 | 書評
生物進化や人間の歴史のおける偶然の積極的意味とは 第7回

4) 偶然と人間 (1)

 保険会社にとって偶然を確率論のモデルで把握しそれによって期待利益(或いは効用)を最大にすることは、「不確実性の下における意思決定の理論」といわれてきたが、偶然というものは、当人にとって本来不合理あるいは不条理なものである。そこで「不運」を分け合うことによって,そこから生じる「不幸」を小さく出来る。これは社会福祉国家の理念となろう。経済的合理性とは、自由主義市場経済のモデルとして、人間はすべて「合理的で完全な利己主義者」として振舞うものと考えられてきたが、本当に経済的合理主義者はいるのだろうか。人間にとって個人的欲求の満足(効用の最大化)だけがすべてであるというのは、あまりに貧しい人間観では無いか。市場競争もまた偶然に曝されている(為替、株式・商品取引など)とすれば、その結果はすべて個人責任に帰すべしというのも何かおかしい。他人の偶然の不幸の上に立った自分の偶然の利益は道義的に正当といえるだろうか。偶然の利益に与った時は自分の努力の結果といい、他人が偶然によって損失を受けたときは自己責任で知ったことではないというならそれは盗人猛々しいといわなければならない。事故が偶然とすれば、損害賠償では個人の責任を問うことはしない。交通事故については保険会社がその損害を補償するシステムである。「不確実性の下における意思決定の理論」によって、偶然を封じ込めたとしても不運を消滅させることは不可能である。偶然を考えることが出来るのは人間の想像力の賜物である。セレンディピティという言葉は、偶然に予期しない事態が起きたとしても挫けないで、その状況下に最善の手を考えて、不幸をチャンスに変える人間の創造力である。個人的にも社会的にも,偶然に対して主体的に対処することによって、幸福を大きくし、不幸を小さくすルことが大切である。
(つづく)

筑波子 月次絶句集 「観月楼」

2011年09月20日 | 漢詩・自由詩
一艇浮洲宿鳥驚     一艇洲に浮んで 宿鳥驚き

高楼尢坐櫂歌聲     高楼に尢坐し 櫂歌の聲をきく

碧空万木葉辞樹     碧空の万木 葉は樹を辞し

皎皎千家月満城     皎皎たり千家 月は城に満つ


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(韻:八庚 七言絶句仄起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)