翁長雄志沖縄県知事の今回の訪米(3月11日~16日)で、「代替案」をめぐる背信が明らかになったことは先に書きましたが(19日のブログ)、実は翁長氏は訪米でもっと大きな過ちを犯しました。それは今後の辺野古新基地阻止のたたかいや知事選にもかかわる重大な問題です。
今回の訪米の主要な目的は、アメリカ、日本の6人の「有識者」らによるシンポジウム(13日、ワシントン)でした。しかし、「有識者らが強調したのは『沖縄の重要性はさらに増している』『在沖米軍は有事に必要だ』といった肯定論ばかり」(19日付沖縄タイムス)でした。
「パネル討論では、米軍の民間施設使用や既存の基地の活用、自衛隊の強化など、議論を呼ぶ案も上がった」(16日付琉球新報)といいます。
シンポが新基地反対の沖縄の民意に逆行するような様相を呈したのはなぜか。翁長氏がシンポ冒頭の「講演」で述べたことと無関係ではありません。翁長氏は約100人の参加者を前に、「開口一番」(16日付琉球新報)、こう強調したのです。
「沖縄県は日米安保条約の必要性を理解する立場だ。すべての基地に反対しているのではない」(16日付琉球新報)
さらに翁長氏は、「(アメリカと日本・沖縄が―引用者)日米安保体制の強い絆で結ばれるのはいい」(15日付沖縄タイムス)とも言いました。
これは重大です。
翁長氏が熱心な「日米安保条約礼賛」者であることは周知の事実です。在沖米軍トップ・ニコルソン四軍調整官との会談(2017年11月20日、写真中)では、「日米が世界の人権と民主主義を守ろうというのが日米安保条約だ」(同11月21日付沖縄タイムス)とまで持ち上げました。根っからの「保守」であり自民党幹部だった翁長氏が安保条約を礼賛するのは不思議ではありません。私的立場で述べるのは自由です。
問題は、その持論を知事として「講演」で公言し、それがまるで「沖縄県」の総意であるかのように言い、その誤ったサインをアメリカ側に送ったことです。これは絶対に許されることではありません。
なぜなら、「日米安保賛成」が「沖縄県」の総意でないことは言うまでもなく、それは翁長氏を知事に擁立した「オール沖縄」陣営でさえ一致点にはなっていないからです。
現に、翁長氏が知事選に際して市民団体と結んだ「政策協定」(「知事選に臨む基本姿勢および組織協定」2014年4月6日発表)は、、日米安保肯定論には立っていないどころか、むしろ否定的です。「オール沖縄」の出発点となった「建白書」(2013年1月28日)も同様です。
にもかかわらず翁長氏は、県議会での「所信表明」などでも「日米安保礼賛」を繰り返してきました。それは許されないだけでなく、重大な結果を招きます。それが表面化したのが、今回のシンポジウムです。
翁長氏が冒頭で「日米安保条約の必要性」「日米安保条約の強い絆」を強調したことで、それがシンポ全体の基調になったと言えるのではないでしょうか。結果、ケビン・メア元米国務省日本部長は「沖縄が果たす抑止力の役割は、現在はより増している」(19日付沖縄タイムス)と「日米安保抑止力」論を強調し、進行役を務めたジョージワシントン大のマイク・モチヅキ教授は、「沖縄の声を安全保障環境に反映させることがより大事だ」(16日付琉球新報)と言い、野添文彬沖国大准教授は、「日本本土での自衛隊と米軍の共同施設使用を検討すべきではないかと提案」(15日付琉球新報)する始末です。
シンポ参加者から「これでは沖縄の軍事化が進むだけだ」(16日付琉球新報)という声が出たのも当然でしょう。
これは今回の訪米シンポだけの問題ではありません。「辺野古」のたたかいが困難に直面している根源の1つはここにあるのではないでしょうか。
日米安保条約(安保体制)=軍事同盟を肯定する限り、沖縄・日本の基地問題と正面からたたかうことはできません。なぜなら、沖縄・日本に米軍基地が存在する元凶は日米安保条約だからです。
また、「辺野古新基地阻止」のたたかいは、嘉手納基地を含めすべての在沖米軍の撤去、さらに米軍との一体化を進める八重山諸島や沖縄本島における自衛隊配備強化反対と一体不可分です。
新基地を阻止し、沖縄・日本から軍事基地を撤去するたたかいは、日米安保条約=軍事同盟反対と結び付いてこそ、前進することができます。
もちろん、「辺野古新基地反対」の人の中には安保条約に反対ではない人も少なくないでしょう。「辺野古」のたたかいにおいて「日米安保」への見解・立場は一致点になっていないし、すべきではありません。その意味でも翁長氏の発言は許されません。
「辺野古新基地」を阻止する中で、日米安保条約(体制)の実態・本質、「抑止力」論の誤り、東アジアの平和と安定にとって日米安保=軍事同盟がもつ重大性を学習し、宣伝し、日米安保条約廃棄の世論を沖縄・日本「本土」に広げていく。
それが「辺野古」のたたかいの目指すべき方向ではないでしょうか。